大晦日





 バタバタと忙しそうにしている母親の様子を目にしてふと思い出した。

誕生日が大晦日なため、碌にお祝いをしてもらえなかった幼い日。

友達は誕生日に両親がケーキを買ってきてくれて、プレゼントを貰えて。誕生日会にも招かれたことがある。羨ましかった。

「大地、ちょっと買い物に行ってきてくれる?買い忘れがあったのよ」

母親に声を掛けられて「ああ、うん」と曖昧に返事をして、コートを取りに自室に戻った。幼いころから誕生日はこんな感じだ。

「大地、遅い!」

窓を開け放っているお隣さんの幼馴染、が眉を吊り上げていう。

何か約束でもしていただろうかと思いながら「何?」と言った。

「今日、何時に出る?」

何のために、どこに、という言葉を省略されて澤村は少し考え、初詣だということに思い至った。

「あー、何時にする?待ち合わせは、11時半だっけ?」

澤村が言うと「そんなに時間かからないから..11時20分ごろ出る?早く出ても寒いし」

「おー、わかった」

そう返事をしてコートを掴んで部屋を出ようとすると「どこ行くの?」と聞かれる。

「買い物。母さんが買い忘れがあったからって。も行くか?寒いけど」

そう言うと彼女は「行く」と言ってクローゼットからコートを取り出した。

「下でな」

玄関前で待ち合わせという旨を告げて澤村は部屋を出た。


県外の大学に進学したため、地元にいるときは正直暇だったりする。

ただ、盆と年末年始は必ず帰省するようにしており、年末年始は初詣を高校時代の友人たちと行っている。

除夜の鐘を共に聴いて「あけましておめでとう」という。

高校時代から繰り返している年中行事。

大学に進学してからは、そのあとファミレスに入って近況を話す。

夜中ではあるが、澤村が一緒にいるということで、の家は何も言わない。


「何買えばいいの?」

澤村が声をかけると

「ああ、これ」

と母がリストを渡してきた。

忘れたどころではない量に思わず母を見ると、彼女は視線を逸らした。

「大地、まだー?」

ガチャリと玄関が開いてが声をかけてきた。

「あー、今行く」

そう返して、「んじゃ、行ってくる」と母に言うと「ちゃんも一緒なの?」と問われた。

「うん、さっき部屋で話した」

「そうなの?じゃあ、ゆっくりしておいで」

「や、すぐに帰って来るし」

そう返して玄関に向かう。

ちゃん」

母もついてきた。

「こんにちは。あ。今年1年、お世話になりました、来年もよろしくお願いします」

「あとでまた会うだろう」

がした挨拶を聞いて澤村が言うと「いいじゃない」とがいい「いいのよねー」と母が言う。

母は昔からの事が可愛かった。

幼いころには、自分はこの家の子供じゃないのではないかと思うくらいに適当にされていた。

グレずに済んだのは、の母親のおかげだ。彼女は数年前に亡くなった。

「大地、車の鍵は?」

母が声をかけてくる。

「なに、遠くに行かなきゃいけないもの?」

が澤村の持っているリストを取って眺め始める。

「いや、近所で足りる。歩いていくぞ」

と澤村は玄関を出て行った。

「あ、待ってよ」

がそれに続く。

そんな2人の後姿を見送った澤村の母はにやにやしていた。


「大地のところ、大掃除済んだ?」

「んー?うん。まあ、適当にかな。のところは?」

「まだ。お父さんが色々使われてる」

笑いながら言うに「手伝いに行こうか?」と聞いてみた。

家に居ても手持無沙汰だ。

「ううん、いいよ。あとちょっとだとか言ってたし。それより、レポートやった?何か、重いのが出たって帰るとき言ってたじゃん」

学部が違うため、同じ課題ということは中々無い。

去年までは学部間の共通科目があったので、同じ教科を取れば課題も同じものが出て一緒に片づけることができたが、今は被らないのでそういうのはない。

。手、寒くないの?」

手袋をしていない彼女の指先は赤い。

「寒い」

そう言って手を澤村に向けてきた。

その手を取り、彼は自分のポケットに突っ込む。

「つめてーなー」

「大地の手はあったかいから冬は進んで繋ぎたくなるね!」

笑って言う

「夏も積極的にどうだ?」

と言うと

「暑いからイヤ」

と返されて思わず肩を竦める。

買い物を済ませて帰宅しながらふと思った。

も買い物あったんじゃないのか?」

「ないよ?」

「じゃあ、何で来たんだ?」

首を傾げて言う澤村に「ひみつ」とは笑った。

「そうか」と澤村は適当に相槌を打った。



、そろそろ行くか?」

窓を開けてお隣さんに声をかけると

「行こう」

と窓を開けずに返事がある。

コートを着てリビングで年末恒例の番組を見ている両親に声をかけて家を出た。

流石に今度は手袋を嵌めているに少しだけがっかりしながら澤村は隣を歩く。

吐いた息が白く、歯も噛み合わない。

「今年は特に寒いねー」

「あー、だな」

の言葉に同意して澤村は空を見上げた。

星が見えないということは曇っているということで。

天気予報では雪が降ると言っていた。

今日は早めに切り上げたほうがいいかな、と思いながら足を進めると待ち合わせ場所に到着した。

すでにそこには菅原の姿があり「おー」と彼は手を挙げてきた。

「おー、スガ」

「ひさしぶりー」

澤村とがそれぞれ声をかける。

「今日、寒いなー。あ、。そのマフラーかわいいな」

「何言ってんの、マフラーだけ?」

からかって言うと「マフラー巻いてる子も」と苦笑しながら乗ってくれた。

このマフラーは先週のクリスマスに澤村からプレゼントされたものだ。

「クリスマスプレゼント何がいい?」

と聞かれた

「かわいいマフラー」

とだけ答えた。

そして、渡されたそれは、自分のツボにぴったり嵌るもので少しだけ悔しくて

「なんでわかったの。あたしの“かわいい”」

というと

「何年一緒にいると思ってんだ」

と返されて何だか納得してしまった。

「そういや、大地。誕生日おめでとうな」

そう言って菅原がプレゼントを渡す。

「おー、いつも悪いな」

「そっちだって、態々送ってくれてるし」

菅原は笑って言う。

暫くして清水がやってきて最後に東峰がやってきた。

大地にチクリと言われて東峰は眉尻を下げて「すまん」と謝る。

相変わらずだとは笑った。


清水は、例年親の実家に帰省するため欠席だったが、今年は都合がつき、初参加となった。

澤村、菅原、東峰の後ろをと清水が並んで歩く。

楽しげに話している2人の声を聴きながら高校時代の部活動を思い出していた。

階段を上って境内に着くと、的屋が出ていた。

「いい臭いがする」

「お参り済んでからな」

のつぶやきを拾って澤村が言った。

「あ、お神酒がある」

菅原が言う。

日付が変われば東峰も成人だから、と皆で飲もうと声をかけてきたが、「清水がまだだよ」とがいい「あ、」と菅原が少し気まずい声を漏らした。

「ごめん」

清水が謝る。

「や、清水が悪いんじゃないって。俺が...でも、それなら、春休みになったらみんな飲めるんだよな?」

菅原が話題を変えると「うん」と清水が頷いた。

「んじゃ、春休みに皆で集まって杯を交わそう。大地たちは、帰って来れる?」

菅原の言葉にと澤村は顔を見合わせた。

「まあ、日が決まったらそれに合わせて帰れるよ」

がいい

「バイトのシフトとか変わってもらう必要はあるけど」

と澤村も頷いた。

「そろそろだ」と周囲の人がざわめき始める。

そろそろ年が明けるらしい。

誰かが始めたカウントダウンに皆が声を合わせていく。

「大地、誕生日おめでとう」

カウント5でが言う。

「ありがとう」

苦笑して澤村は頷いた。

「大地に彼女ができた時、きっとその彼女は一番にお祝いしたくなるだろうから、それは譲ることにする。でも、一番最後はあたしんだ」

に言われた。

だから、彼女は年が明ける数秒前に誕生日を祝ってくれる。

しかし、今となっては“大地の彼女”は本人であり、誰に譲る必要もないのだ。

それなのに、彼女は一番最後を選ぶ。


祝いの言葉をもらうタイミングを祝われる側が指定するのもどうかと思うので、澤村は指摘はしなかった。



数年後に彼女が一番最後を選んでいた理由を知ることができた。

曰く、「だって、一番最初にお祝いしてもいろんな人がお祝いして忘れちゃうかもしれないじゃない」ということで。

それを聞いた澤村は笑い、「かわいいなー」との額にキスをした。

照れ隠しに放たれたカウンターのグーパンは彼女の本気で、かなり痛かった。









桜風
14.12.31


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