いい夫婦の日





 テレビ画面では芸能人が笑顔でインタビューに答えていた。

今日はいい夫婦の日らしい。

インタビューに答えているのは、ベストカップルというのに選ばれた2人だとか。

「おしどり夫婦の」とインタビュアーが言うのを聞いては思わず吹き出す。

オシドリというのは、毎年つがいを変えるというのに。

勿論、慣用句として使われているのはわかっているが、別の表現をしたって困らないだろう。


鍵の開く音がして振り返った。

「ただいま」

疲れた表情の澤村が帰ってきた。

「おかえりー」

休日出勤とは大変だなー、と他人事のように思いながらは帰ってきた澤村の元に足を向けた。

「疲れた顔してんね」

「疲れてるからなー」

そう言っている澤村から離れて水を用意して彼に渡す。

「ありがとう」と受け取った澤村は一気にそれを飲み干した。

「よっぽどだねー」

そう言ってお替りを用意して澤村に渡す。

つけっぱなしだったテレビを消したが「なんか食べる?」と聞くと「んー、今はいいや」と澤村が返した。

「何か食べて帰った?」

「ううん」

の問いに澤村は首を横に振る。

それなら、立ったのにやることがなくなったとは再びソファに腰を下ろして何気なく見ていたテレビを点ける。

「何見てんの?」

そう言いながら澤村が隣に座る。

その手にあるのは缶ビールで「すきっ腹にそれは」とが言うとプルトップを上げてそれをに渡す。

「あ..ありがとう」

昼間からいいのだろうか、と思いながらも買い物はもう済ませたし外に出る予定は今のところない。

「いただきます」

「おう」

グビッと一口飲む。

「あ、ちょっと寒いかも」

「あー、もう冬だもんな」

苦笑して澤村が言う。

「コタツ出さなきゃだな」

「後で出そう」

「今日か」

またしても苦笑。

「思い立ったが吉日。あ、ねえ。大地」

「ん?」

に視線を向けて続きを促す。

「今日は“いい夫婦の日”らしいですよ。大地サンはどうですか?いい旦那さんですか?」

からかうようにが言う。

「そうだなぁ...俺以上ににとっていい夫がいるとは思えないんだが。サン的にはどうだ?」

と自信満々に言われては「そうだねぇ」と笑う。

否定のしようがない。


生まれる前からのお隣さんで、お隣さんを解消したのはつい数年前。

解消の原因は、ひとつ屋根の下で暮らすことになったから、というものだった。

ある意味、奇跡を通り越して気持ち悪い状況だった。

幼稚園から高校までずっと同じクラスで、大学は選んだ学部が異なっていたから同じクラスになり得なかっただけで、そうではなかったら、またしても同じクラスだったのではないかとお互い思っている。

お隣というのは、実家が隣同士で、生まれた病院が同じで母の入院した部屋が隣同士。

大学は家を出たが、澤村の母親が心配して学生マンションはの隣の部屋を借りれば生活費全部仕送りすると言ったため、彼女の隣の部屋を借りた。

そして、大学を卒業する際に一緒の部屋に住むようになった。

これだけ一緒にいるのだから、お互いが何を考えているのか。具体的なものはわからなくても嫌なことがあったとか、嬉しいことがあったとか、そういうのは雰囲気でわかる。

しかし、これまでの経緯を考えるとやっぱり気持ち悪い。クラスが分かれたことがないとはどういうことだろう。

「んー」

が唸っていると「どうした?」と澤村が声をかける。

「気持ち悪いなって」

「どうした、体調が悪いのか?」

心配そうに顔を覗きこみながらの手にあるビールを取り上げようとした澤村からビールを守りつつ「いや、大地がずっと隣にいること」とが答える。

澤村は抗議の意味を込めて半眼になった。

しかし、とはビールをまた一口飲む。

「ねえ、何でビールくれたの?」

「やな事があったっぽかったからだよ」

そういう澤村には笑うと「当たりだろう?」と自信満々に彼が言う。

「大地は凄いねぇ」

がしみじみというと「だべ?」と満更でもない表情で澤村が頷いた。

「ねえ、大地」

「ん?」

「あたしの隣の居心地はどうですか?」

「悪くない」

「あら、素直じゃないのねー」

笑ってはビールを飲み干した。

「さて、袋ラーメンがあるから作ってあげるよ。お腹は空いてるんでしょ?」

「悪いな。あ、醤油な」

「はいはい。心得ておりますとも」

そう言いながらはキッチンに向かう。

澤村も着替えるために、リビングを出て行った。

点けっぱなしのテレビからは「旦那さんは何点ですか?」などと街頭インタビューをしている声が聞こえる。

「えー...70点くらいですかね」と答える声に重なっては「100点」とポツリと呟いた。









桜風
14.11.24


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