| 「お疲れ様です」と現場から出てきたちゃんの声にも表情にも覇気がなかった。 「お疲れさま」 声をかけると彼女は「ひゃっ!」と声を漏らす。 「そんなに驚くかなー」 「なんで帰ってないの?」 彼女は心底驚いたような声を出してオレに問う。 「ちゃん待ってたから、かな?」 自分で言うのもなんだけど、この笑顔って女の子を落とすのに結構使えるんだ。 けど、目の前の女の子は盛大なため息を吐いた。 「もう夜が遅いでしょ」 「子ども扱い」 「大人じゃないでしょ、被義務教育者」 反論できない彼女の言葉に黙り込む。 彼女だって、たぶんまだ未成年だ。 でも、働いている。自分の力で生きている。 「じゃあね」と言った彼女はてくてくと歩き出した。 オレはそのあとを歩く。 しばらく歩いていると彼女は足を止めた。 「後ろからそんな大きな子が一定距離を保ってついてくるのは怖いから、隣、いいかしら?」 そう言われてオレは彼女の隣に立って歩く。 「チェンジ」 「いやだ」 彼女は最初態々道路側に避けてくれていた。 でも、かっこつけたい。だから、オレが道路側に立つと彼女は嫌がったのだ。 「危ないでしょ」 「これだけ大きいから、目立って大丈夫」 「居眠り運転には、その体の大きさ、関係ないと思うけど?」 そう返されてもオレはその立ち位置を譲る気にならず、じっと立っていた。 根競べを制したのはオレの方で、ちゃんはあきらめたようにため息を吐いた。 「こんなところで時間を浪費して、子供の寝る時間を奪っても拙いしね」 と言う。 「子供じゃないよ」 そう抗議しても彼女は「はいはい」というだけだった。 「カメラアシスタントの仕事って」 今の話を聞こうと話を振ると彼女は「バイトね」という。 「バイトなの?」 「うん。掛け持ちで色々」 「え、と...おばさん、元気?」 姉ちゃんについてちゃんちに何度も遊びに行ったことがある。 おばちゃんはオレを可愛がってくれた。 昔の優しい笑顔と声が浮かんでくる。 中々返事がなくて、気が付いたら、ちゃんは足を止めていた。 「ちゃん?」 振り返って名前を呼ぶ。どうしたんだろう。おばさん、元気じゃないのかな? 「わからない」 「え?」 「どこにいるかわからないから」 寂しげに笑うちゃんの表情を見て、オレは逃げ出したくなった。 凄く傷つける言葉だった。 「ごめん」 「いいよ」とさみしげに笑う彼女から思わず目をそらして空を見上げる。 子供って言われてムキになっていたけど、本当に子供だったんだ。 彼女の問いには答えず、そして彼女の事情を慮ろうとせずに踏み込んで。 「涼太くん?」 「んー?」 空を見上げたまま返す。 「泣いちゃだめよ」 ひときわ優しい声音で彼女が言う。 「泣いてなんか、ないよ」 「そう。そうね、もう大きくなったもんね」 少しだけさみしげに言う彼女に 「子ども扱いしないでよね」 と返すとクスリと笑い声が聞こえて、やっと視線を彼女に向ける。 「子供でしょ。そんな大きな体でも、電車とかバスは子供料金」 「中学生からそういうのは大人料金だよ」 そう返すと 「じゃあ、半分大人」 と彼女が言いなおす。 「ちゃんと同じだよ」 そう返してみた。 ホントは、今の立っている場所が全然違うのはわかっている。 オレはぬくぬくと、そしてちやほやされながら今の生活を送っている。 彼女に比べて自分が幸せだというのはおこがましい気がした。 でも、うん。 やっぱり子供だとは思う。 「そうだねー。ま、私の方が先に大人になるけどね」 彼女はそう言って笑った。 |
桜風
14.1.20
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