二度目の初恋 4





 毎回同じカメラマンじゃないから、仕事のたびに会うわけじゃないけど、結構頻度は高い方で、オレはちゃんに会える仕事が楽しくなてきた。

「でね、青峰っちが」

帰りはいつも待ち伏せて途中まで一緒に帰っている。家までは送らせてくれないんだ。

ちなみに、連絡先の交換も断られた。

「うんうん。青峰っちがどんなプレイをしたのかな?」

「なんかテキトー!」

不満を口にすると彼女は笑う。

「だって、いつも青峰っちがなんかすごいっていう話ばっかりなんだもん」

実際、そうだけど...

「ね、今度。全国大会のための地区予選があるんだけど、見に来ない?」

誘ってみた。

オレはもうレギュラーだし、きっとベンチを温めるだけで終わる試合にはならないと思う。

しかし、彼女は首を横に振った。

「悪いわねー。お忙しいのよ、こう見えて」

「カメラアシスタント、そんなに忙しいの?」

「それだけじゃないしね」

「...え?まだバイト持ってんの?」

「生活というのは、それだけ大変なの」

肩を竦めていう。

昔の表情は時々垣間見る事はできるけど、彼女はもう昔の彼女ではない。

当然だけど、でも、それはとてもさみしい。

ちゃんと話をしていると、楽しいけど、それと同じくらい胸が痛くなる。

ぎゅっとシャツの胸のあたりを掴んで、そして、「そういえば」と声を明るくして話を変えることにした。

「んー?」

「最近、面白かったことない?たとえば、趣味とか」

「楽しいは、もういいわ」

何処か諦めたように笑って彼女が言う。

「どういうこと?」

「楽しいじゃお腹が膨れないの、知っちゃったからね」

悔しいと思った。

「涼太くんも知ってのとおり、世の中には、たくさんの理不尽があるからね」

まつ毛を伏せて彼女が言う。



カメラアシスタントのバイトをしているとき、彼女はよく叱られている。

他の人のミスをなすりつけられたり。

多分、カメラマンの虫の居所が悪かった時とかも良くわからないことで叱られている。

それを見てオレは納得がいかなかった。

ちゃんは、凄く気が利いて、次の作業の準備をきちんとやっている。

もちろん、オレのひいき目が多分に入っているとは思う。でも、彼女が悪くて怒られているところは殆ど見たことがない。

前にその理不尽についてオレは口に出して彼女に聞いてみた。

「それでいいの?」って。

彼女は「仕方ないよ」って笑ったんだった。

「けどさ、人間バンジー西郷が馬っていうじゃん」

オレがそう言うとちゃんはきょとんとして、そして噴き出した。

「なに、それ」

「え、助さん格さんが言ってるじゃん」

ケタケタと笑う彼女が嬉しくて、でも、絶対にバカにされているような気がして、オレは反論した。

「意味は?」

笑いすぎてヒーヒー言いながら彼女はオレに聞き返す。

「えーと。人生楽ありゃ苦もあるさ?」

「なるほど。涼太くんが言いたかったのは『人間万事塞翁が馬』だね」

何、これ。超恥ずかしい。

「お、オレ、さっきちゃんとそう言ったよ」

そう返すと

「そう?私には『人間バンジー西郷が馬』って聞こえたけど?」

と言われてぐっと詰まる。

「んー、勉強は相変わらずか」

そう言って彼女は笑った。

「もう!そんなことはどうでもよくて。ちゃんが理不尽な目に遭ってるのは、オレも見てる。分かった風な口をきくつもりもないけど、でも、理不尽な目に遭っているからと言って、幸せを諦めちゃだめだよ」

自分でもなんというか、恥ずかしいセリフだと分かる。

わかるけど、でも、仕方ないんだ。

だって、悔しいから。何処か世界を諦観している彼女が、オレは嫌いだ。

オレにとってちゃんは初恋の人だけど、でも、それって好きとかそう言うの抜きにしても憧れなんだ。

幼いオレにしてみたら、彼女は眩しかった。何でもできて、そして、姉ちゃんよりも優しい。

凄くできる人だと思っていた。

彼女とオレの年の差は変わらないけど、オレも少しは大人になったのかなと思えるのが、彼女にそれっぽいことが言えるようになった。

ただ、『それっぽいこと』止まりなのは、やっぱり経験不足だからだ。

痛烈に自分が子供だと認識せざるを得ない。

「生意気ねー」

不意に耳に届いた声。

それは、昔よく言われていた言葉で。でも、その声音は全然違った。

彼女を見下ろしたらさみしげに微笑んでいた。

違うんだ。こんな顔をしてほしかったわけじゃないんだ...

その日は、それ以上彼女と言葉をかわすことなく、いつもの角で別れた。

「じゃあ、またね」

オレがそう言うと、

「ばいばい」

と彼女は微笑む。


いつも交わしている言葉なのに、どこか不安になる。そんな声音だった。









桜風
14.1.27


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