| 高校に入学して、初めて家を出ての生活になった。 寮生活はまあ、それなりだった。 部活もテキトーにしようと思ったら、先輩に怒られた。 『海常高校の黄瀬涼太』。 すごく気に入った。これまでキセキの世代の黄瀬涼太だったけど、そんなもんよりもずっと気に入った。 そこそこ真面目に部活にいそしんだ。 中学の後半はほとんど手を抜いていたから。練習をさぼってバイトしてたり。 今は、一応バイトよりも部活が優先だ。 ゴールデンウィークも部活があるから実家に帰ることはない。 けど、学校がない分、少しだけ自由時間ができる。 学校周辺の、帰りに寄るのにちょうどいいラーメン屋とか、コンビニとか。 そういう店は、先輩たちに部活帰りに教えてもらった。 けど、そうじゃない。少し洒落た店も見てみたくて、少し足を伸ばした。 さすがは観光地。 大型連休ともなれば人がイモ洗い状態だ。 人より頭一つ分くらい背が高いから少しは呼吸が楽だけど、女の子とか大変だろうなって思った。 お土産品が売ってある通りを歩いていると「ありがとうございましたー」と声が聞こえた。 オレは思わず駆けだした。 人にぶつかるたびに「すまっせん」って言ってたけど、だんだんそれももどかしくて、そして、見つけた。 「ちゃん!」 はしっと彼女の腕をつかむ。またするりとどこかに消えてしまわないように。 オレの声は思いのほか大きくて、通りを歩いていた人たちも足を止めてオレたちを見ていた。 そして、オレが見下ろしているちゃんは目を丸くしてオレを見上げている。 「涼太..くん?」 「何で!なんでこんなところにいるんだよ!なんでいなくなったんだよ!!」 子供が駄々をこねるみたいに、オレは叫んだ。 「え、あー。んと」 「はいはい、そこまで。店先だということを思い出してもらおうか」 がしっと尻を蹴られた。 「いって。何スか!」 「あんたのちゃんのオーナーだ」 「何か言い方おかしくないですか?」 オーナーと名乗ったその女の人にちゃんはおずおずと抗議する。 「いいんだよ」不愛想にそう言った彼女は 「すみませーん、おさわがせしましたー」 とどこから出してるのかわからない高めの声で愛想よく通行人に声をかけて一瞬だけオレをギロリと睨んだ。 「店、入ろう」 そう言ってちゃんは、彼女の腕を掴んでいるオレの手を取った。 「うん」 オレはそのまま彼女の後に続いて店に入る。 「雑貨屋さん?」 店の中には小物がセンス良く飾られている。あとは、紅茶と、烏龍茶。お茶もあるみたいだ。 「うーん。基本はお茶屋さんなんだけど、素敵なものを見つけてきた店長が色々ついでに仕入れてくるから、何かよくわかんないお店になりつつあるの」 苦笑して彼女が言う。 「よくわからない店って、言ってくれるじゃない?」 ニヤッと笑って店長さんが言う。 「ったく...何、それ」 『それ』とはオレのことで。ちゃんは困ったように笑って「弟です」という。 「おとうと...」 彼女の言葉を繰り返して呟く。 「ふーん」という声に反応してそちらを見るとにやにやと笑っている。 「何スか」 「べっつにー。んで、この子。弟君はなんでここにいるのかな?」 店長さんがちゃんにそういうとちゃんが「そうだよ」と言ってオレを見上げた。 「どうしたの?観光??」 「こっちの高校に進学したから。海常高校」 そっけなく答えると 「えー、涼太くんはもう高校生か」 と彼女が笑う。 「...うん」 「よく入試通ったね」 真顔で言われた。 「推薦」 「バスケ?凄いじゃない!」 何の、とは言ってないけど彼女はオレの進学はバスケによるものだと断定した。 まあ、それ以外ないけど... 「うん」と頷いたら「すごいね!」とまた笑って、背伸びをして腕を伸ばしてきた。 少し俯いて彼女に頭を差し出すようにすると撫でられる。 「へー」とまた店長さんがニヤニヤしてて、オレは慌てて姿勢を戻した。 「ま、外は暑かっただろうし、一杯飲んでく?」 まるで酒を勧めるように店長さんが言った。 「え、っと」 「美味しいよ。えっとね、アイスなら...」 そう言いながらちゃんが店の奥に向かった。 小さな紙コップを手に戻ってくる。 「わー、涼太くんが持つと益々ちっちゃい」 笑う彼女から手渡された紅茶を飲んだ。 「あ、美味しい」 「すっきりするでしょ?ホットでも行けるけど、アイスの方がおいしいと思うな。ティーパックもありますよ?ひと箱10パック入り」 「営業」 飲み干した紙コップを受け取りながらちゃんが言う。 「うん、営業」 「じゃあ、これと同じのひと箱頂戴」 「まいどー」 そう言って奥に引っ込んでいったのは店長さん。 「ねえ、連絡先教えてよ」 「え、と...」 「オレ、こっち来て心細いし。ちゃんと連絡が取れるって思ったらオレも安心できるし」 そっちが弟って言うなら、弟みたいに甘えてやる...! 半ばやけっぱちで彼女に言うと 「んー、わかった」 と頷く。 やっぱりね。 「ウチの店員ナンパするの辞めてくれる?」 店の奥から店長さんが戻ってきた。 きれいに包装された箱を手提げ袋に入れてくれる。 「ナンパじゃないっス。弟なんだから」 そう言うと店長さんは意地の悪い笑みを浮かべた。 「あんた、後々その言葉、後悔するよ」 その笑みを見た瞬間に後悔をしたオレだけど今更かもしれない。 「はい」 携帯の番号とメルアドが書かれているメモを渡された。 「家は?」 「涼太くんのヘルプが入ったら、ちゃんと駆けつけるから。海常高校でしょ?」 「...わかった」 不承不承で頷き、代金を支払ってオレは店を後にする。 取り敢えず、ちゃんとこんなところで再会できるなんてツイてる。 |
桜風
14.2.10
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