二度目の初恋 8





 部活が終わって、どこかによって行こうと先輩に誘われたけど、それらしい理由を作って断り、ちゃんがいる店へと向かった。


ドアを開けると、ドアチャイムが鳴り、「いらっしゃいませ」と明るい声が返ってきた。

閉店時間まであと30分。

距離的に考えて、走って来れない距離でもないかも...疲れるからしないし、電車のが楽だし。

「あれ、涼太くん」

「来てみたっス」

「わー、制服」

笑いながらちゃんはオレの側にやってきて、制服のシャツをちょんと摘まむ。

「長袖だー。暑くないの?」

「今の時期は、まあそれほどでもないかな」

「部活帰り?海常高校ってこの近くなの?」

「うん、まあ...部活帰り。って、ちゃん、海常高校知らないの?オレのヘルプには駆けつけるって言ってくれてたのに」

「タクシーの運転手さんは知ってるでしょ、地元のこと」

そう返されて、なるほどとちょっと納得してしまった。

「そろそろ店じまい?手伝おうか?」

「バイト代が出ないからダメー」

律儀にそう言うちゃんに

「じゃあ、ラーメン奢って、ラーメン。それがバイト代」

というと彼女は肩を竦めた。

「店じまいは、閉店時間ののちに行います。って言っても、仕舞うものほとんどないんだけどね」

そう言いながらディスプレイを整えている。

カランとドアチャイムの音が鳴り、人が入ってきた。

彼女は愛想よく接客をしている。

おすすめのお茶の試飲を出すのがこの店のスタイルらしく、入ってきた人は、そのお茶の試飲をして店を後にした。

「なんか買ってくれればいいのに」

「いいのよ。そういうもんだし。それに、意外とリピーターさんもいるのよ」

「そうなの?」

「そうなの。こっちに旅行に来た時には寄るようにしてくださってるみたいでね」

そんな話をしていると閉店時間になり、店のドアに『SLOSED』の看板を置いた。

それなのに、ドアチャイムが鳴った。つまり、誰かが入ってきたってことで。

振り返ってみてみると、オレが言うのは何だけど、軽い感じのカップル。

カノジョはカレシにべったりで、完全に冷やかし状態。しかも、これは長くなりそうな予感。

ちゃん、断ったら?」

こっそりそう声をかけたが、彼女は首を横に振る。

だって、せっかくラーメン...

彼女は笑顔で彼らに接客対応し、そして、思った通り長居をした彼らは全種類の試飲をして何も買わなかった。

帰り際、

「あっれ、キセリョじゃん!サイン頂戴」

とカノジョの方がオレに気づいてサインを求められた。

てか、オレ、あんたと初対面なんだけど、何でそんなに馴れ馴れしいのか。

面倒くさいしオレの邪魔してるし、と思ったけどこの店が叩かれたらいやだし、と思って応じようとしたら、ちゃんに止められた。

「お客様、申し訳ございません。閉店の時刻となっておりますので」と言うと、意外とあっさり納得して2人は出ていく。少しだけ申し訳なさそうに。

そして、その流れで行くと、オレも帰らなくてはならないわけで。

ちゃん、酷いっスよ...」

思わず声がこぼれてとぼとぼと駅に向かっていると、ポケットに入れていた携帯が震えた。

ちゃんからのメールで【今日の埋め合わせはちゃんとするから】と絵文字入りで書いてある。

「うっわ」

普段はメールのやり取りもせず、オレから電話するくらいだから、ちゃんってどんなメールするのかなって思ってたけど、意外と可愛くて思わず顔がにやける。

嬉しくて、即行メールを返したことに少しだけ後悔した。

間をおいて、【別にいいよ、気にしないで】という感じにクールに送ればかっこよかったかもしれないけど、オレが送ったメールは【超楽しみ!休みの日に、ゆっくりの方がいいなー】といった内容で、もちろん絵文字も入っていて...

そのメールにさらに返信があり、【女子力が高すぎて、お姉さんへこみました】という内容で、今度は絵文字も顔文字もなくて、それが余計にへこんだ感じがしておかしかった。


ふと、店員さんをしているちゃんを思い出す。

「カッコいいな...」

キャリアウーマンでも、店のオーナーでもない。

でも、なんだか、かっこよかった。

どうしてだろう。

見とれて、そして..へこんだ。

背ばっかり高くなって、話をするときにはちゃんが見上げてくるけど、オレはずっと彼女を見上げていると思う。

尊敬という言葉が近いんだろうな。

でも、それは遠い感じがして、少しさみしかった。









桜風
14.2.24


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