| 本格的にインターハイ予選が始まり、そしてインターハイの出場を決めたらテストがあって、インターハイ。 中々濃い夏を過ごすことになった。 おかげでちゃんとの連絡もそう取ることができず、なんというか、認めたくないけど、少しさみしかった。 でも、きっとちゃんはそんな風に思っていないんだろうな... インターハイが終わって、神奈川に戻ってきた。 少し休みがあるから地元に戻ってもいいと言われたけど、そっちよりも行きたいところがある。 夏休みに入っているからやっぱりここらは人が多い。 人込みをかき分けて、そして目的の店に着いた。 ドアを開けると「いらっしゃいませー」と店長さんの高めの声が返ってきた。 「ども」 軽く会釈をして店内を見渡す。 「裏よ」 「...裏?」 何の話だろう。 はっ!服が裏表逆なのか? 慌てて着ていたTシャツを確認する。 すると、店長さんが声をあげて笑った。 「何スか」 「いや、意外と可愛いところあるね」 クツクツと笑っている店長さんは「バックヤード。倉庫みたいなところ。行ってごらん。むらむらして手を出したらしばくけど」と言いながら奥を指差す。 「出さないっスよ」 むらむらはするかもしれないけど。 言われたように店の奥に行くと、薄く扉が開いている部屋があった。 「ちゃん?」 声をかけてみると「はい?」と中から返事がある。 「開けても大丈夫?」 「いいよー」 そう言われてドアを開けて、店長さんが言った言葉を思い出した。 タンクトップで作業とか... 「涼太くん、久しぶりね。え、と。ああ、インターハイか」 「うん。お土産、持ってきた。食べ物だから、店長さんと一緒に食べて」 「ちょっと待って、お茶淹れる」 そう言って彼女は狭いバックヤードから出てきた。 ちょっと、もう。ほんと... 「どうしたの?」 「...なんでもない。って、ちゃん。その格好で店に出るの?」 「まっさかー。これはどう見ても接客にそぐわない格好です。それくらいわかってるわよ」 じゃあ、ついでに年頃の男の子を刺激しちゃう格好というのも頭にインプットしてもらいたい... お茶を淹れながら彼女はシャツを羽織る。 やっと落ち着いた。オレが。 「結果、どうだったの?」 「...準々決勝敗退」 「えーと、てことは。ベスト8?そっか。残念だったんだね」 ちゃんの言い方に首を傾げる。 「なに?」 「何が?」 「いや、何だろう。言い方って言うか...」 「私は、ベスト8ってすごいと思うけど、涼太くんは納得していないみたいだからね」 ちゃんのその言葉に頷いた。 「うん、オレは..悔しい」 「良かったね」 ちゃんが言う。嫌味でもなんでもなく。むしろ、「すごいよ」って言ってくれるような、プラスの感情のような声で。 「良かったね、涼太くん。悔しいって思えるほど打ち込めるものが見つかったんだね」 「あ...」 何をやっても大抵のことは並み以上にこなせる。だからこそ、つまらないと思っていた。 ちゃんはそれを知っていて、だから、良かったねと言ってくれる。 「うん、そうかも。でも、悔しいよりもうれしいの方がいいよ」 「無理しちゃだめよ」 お姉さんのように言うちゃん。 物足りないけど、それが心地いいと思ってしまう。 少しして、ちゃんが店長さんと店番を変わった。 つまり、オレは今、店長さんと2人きり。 凄く気まずい... 「インターハイどうだったの」 不意に聞かれて 「準々決勝敗退」 と返す。 「そう。何だ、そうか」 「...何スか?」 「いや、今年って結構期待されていたからね。どうなのかなって思ってたの」 「エースである、オレの責任っス」 そう言ったら目の前の店長さんは冷たい視線を向けた。 「ちょっと天才だからって何でもできると思わないこと。特に、チームプレイなら、周囲の力だって間違いなく必要なもんじゃないの?」 「え、と...」 「ま。いいけどね」 そう言って店長さんはちゃんが淹れてくれたお茶を一気に煽って、オレの持ってきたお土産をポイポイと口に放り込んで、「おつかれ」と言って店に戻って行った。 |
桜風
14.3.3
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