| 駅には早めについてしまった。 そわそわと周囲を見渡す。 時計を見たら30分以上も前。 どんだけ楽しみにしてたんだよ、オレ...! 以前、ラーメンを奢ってくれるという約束をしたまま結局話が流れた。 少なくとも、オレはもう流れてしまったものと思っていた。 でも、ちゃんは覚えていた。 インターハイのお土産を持って行った日、店じまいの手伝いをしているとちゃんから言ってきた。 「ラーメンの埋め合わせのことなんだけど。大会が終わったなら少しはゆっくりできるの?」 突然のその言葉にオレは反応できなかった。 「なに、それ」 店長さんが聞いてきて、ちゃんがそれに答える。 「ふーん。学校の夏休みって8月いっぱいよね?」 「そうっス」 「じゃあ、祭に連れてってあげれば?」 「ああ、良いですね。涼太くんもこっちに来て初めての夏だし」 「海はもうクラゲだしね」 「ですね。棚卸の日でいいですか?」 「その日丁度?」 「ドンピシャなんです」 「なら、オッケ」 そんな感じに大人が2人話をまとめている。 「というわけで。夜だから、部活も終わった後でしょ?強豪とはいえ、夏休みに朝から晩までってのはないだろうし」 ちゃんが言う日にちは、確かに練習はあるけど、午前だけだ。 「だ、大丈夫!」 「じゃあ...6時に最寄駅ね」 6時に最寄駅。 「あ、寮なら門限があるんじゃないの?」 「う、ん。ある。9時」 「わかった。ちゃんと時間見てるからね」 時間を気にしながらのデートとか、結構つまんない気がする... 「悔しかったら、大人になれ」 ケタケタと笑いながら店長さんが言う。 なれるもんならとっくになってるよ... 「お待たせ」と声をかけられて見下ろして「わっ」と思わず声を漏らした。 「涼太くん?」 「え、いや。ううん、そんな待ってない」 浴衣とか...! そんなもの全然期待してなかったし、何だよ。何でこんな..こんな... 「店長がね、せっかくだからって。持ってきてたのを着せられたの。だから、帰りはいったん店に寄って荷物持って帰らなきゃ」 そう言ってちゃんが笑う。 店長のにやにやとした表情が浮かんだ。 でも、今回は感謝だ。後でねちねちからかわれようが、それくらいで済むなら...!! 「あ、えと。行こうか?」 「そうだね。出来ればゆっくり歩いてね。浴衣に慣れてないから...」 「うん」 そう言いながらちゃんがオレのシャツを掴みながら歩き出す。 「こっちの方がいい、と思う」 そう言って手を差し出すと「そだね」と躊躇いもなく握られた。 それはそれで複雑だけど。 取り敢えず、今日は嬉しいことを拾っていくことにしよう。 神社に着いたら、結構にぎわっていた。 「わ、人が多いね」 「キセリョは人気だから大変だねー」 からかうようにちゃんが言う。 「やめてよー。オレ、言われるほど有名じゃないよ」 「でも、ラーメンがダメになったのは有名だったからってのもあるじゃない?」 冷静に指摘されて反論できない。 「でも、だから帽子被ってるし」 「そうね。ま、楽しみましょ」 そう言って境内に足を向ける。 石畳を歩くとカランコロンとちゃんの下駄の音が響く。 タコ焼き半分にしたり、リンゴ飴食べたり。 射的もやった。ヨーヨーを釣って焼きそば食べて。 祭らしいことは一通り楽しんだと思う。 ふと、ちゃんが時計を見て、「じゃ、帰ろうか」という。 あっさりとそう言われて、でも、それってオレの都合で。 何だかもやもやしながら「うん」と頷いた。 駅に向かう途中、「店、寄るんだよね?」と聞くと「ん?」と彼女が顔を上げてくる。 「店、オレも一緒に行く」 「時間は?」 「大丈夫」 たぶん... 「じゃあ、ついでに寄って駅に行こうか」 「うん」 そのほうが遠回りだから。 店に寄ると、電気が点いていた。 「店長さん、まだいるのかな?」 「そうなんだろうね、電気が点いてるなら」 そう言いながら裏口のドアの鍵を開けて中に入る。 「こんばんはー」 声をかけても返事はなく、オレとちゃんは顔を見合わせた。 「私が、先に行くからね」 「いや、ちょっと。危ないから」 「だから、大人の私が先。涼太くんは、バスケ部のエースでしょ。チーム背負ってんでしょ?まあ、店長が電気を消し忘れただけかもしれないし」 そう言われると、これ以上強く言えない。 仕方ないから、いつでもちゃんを引き寄せられるところには立っておくようにしよう。 前を歩いているちゃんが足を止めた。 「い..ぁ」 突然震え始めたちゃんを見てオレも店の中を覗く。 覆面した、体格からいって男と思われる人物が2人いた。 「何してんスか」 そう声をかけると1人がナイフを持ってこちらに突進してきた。 さすがにそれをどうにかできるだけのスキルはオレにはなく、ちゃんを引き寄せて、ドアを閉めた。 ゴン、と凄くいい音がドアの向こうから聞こえた。 ドアをあけようとしたら、ちゃんがしがみついてくる。 「ちゃん」 「ダメ、ダメ...ダメ......」 オレにしがみついたちゃんは、泣きじゃくりながら止めようとした。 「わかった。ここは開けない」 しかし、このままだと危ない気がして、仕方ないからバックヤードに引きこもる。 「狭いけど、大丈夫?」 そうやって声をかけても彼女はオレにしがみついたままだった。 けど、このままというのも、なんとなく何も解決しそうになくて、だから、「ねえ、ちゃん。携帯貸してね」と彼女の巾着から携帯を取り出して店長さんの番号を探す。 何度か店にいるときに店長さんの名前を耳にしていたから、それを思い出してダイヤルすると 『はいよー?』 と返事があった。 事情を説明すると、「すぐ行くわ。あと、警察にも連絡するから」と言われた。 「もう大丈夫だよ」 そう言って彼女の髪を撫でる。 店の中から物音はしなくなったからたぶん、犯人は逃げたんだろうな。 |
桜風
14.3.10
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