| 暫くしてバックヤードがノックされた。 「黄瀬君」 店長さんの声だ。 「ちゃん、店長さんが来てくれたよ」 そう言うとオレにしがみついていた腕が少しだけ緩んだ。 「開けてー。最中でも開けなさい」 「何の最中っスか!」 反論しながらドアを開けると、「あら、不健全」と真顔で言われた。 店長さんは、何故かビシッとスーツで決めてる。 「むらむらしても手を出すなって言ってたの、誰っスか」 「あたしねー」 軽く手を上げて店長さんが笑う。 「ちょっと事情聴取応じて。は明日以降にするにしても、黄瀬君は時間取りづらいでしょ」 そう言われてちゃんを置いて休憩室と2人が呼んでいる部屋に向かった。 これって、学校側に連絡が行くのかな... 何だかちょっとまずい気がしてきた。 オレ自身が何かをしたわけでもないけど、巻き込まれたことで学校側になんか言ったら、もうここには近づくなって話になりそうだし。 それは嫌だなぁ... 警察の事情聴取は比較的早く終わった。 「黄瀬君、悪いけど送ってくれる?徒歩圏内だから。あたしはこれから現場検証」 「あ、はい」 そう返事をしてちゃんの側に向かう。 「ちゃん?」 椅子に座っている彼女の顔を膝をついて覗き込む。 「大丈夫?家まで送るから」 「うん」 小さく頷いて、彼女は立ち上がる。 こんなに小さかったっけ... 浴衣は着替えていて、少しは楽そうだけど、でも、さっき店を出るときに見た顔は青ざめていた。 そんなに怖かったのかな。 でも、あの怯え方はたぶん、他に理由があるような気がした。 そして、思い出す。 彼女の家は、債権者によって家財道具まで奪っていかれた、と。 その時の光景がフラッシュバックしたのかな... とぼとぼと歩くちゃんの隣を歩いて、何だかものすごくおんぼろなアパートが見えた。 いまだに建っているのが不思議なそれの前で、ちゃんは足を止めた。 「え、まさか...ここに住んでるの?」 オレの問いに彼女はコクリと頷く。 物凄く、ものすごーくセキュリティに問題がありそうな... だって、二十歳そこらの女の子の一人暮らしでしょ? どう言っていいのか、言葉が見つからない。 あ、いや。おばさんの居場所は知らなくても、おじさんは一緒とか? 「えと、2人暮らしにしては、ちょっと狭そうだね」 そう言ってみた。 おばさんのこともあるから、ズバリ聞きづらくて。 するとちゃんは薄く笑って「ひとりだよ」という。 ミシミシという階段を上がって2階の端っこの部屋の前で彼女が止まる。 鞄から鍵を取り出して、そして不安そうに手を止める。 「オレが開けるよ」 「あぶないよ」 「大丈夫。だって、ほら、物音聞こえないし」 そう言いながらちゃんの手にある鍵を受け取った。 鍵を開けてドアを開ける。 暗い部屋は外観通り狭く、昭和な香りがした。 「ほら、大丈夫」 そう言ってドアを少し広く開けて中を覗きやすいようにする。 「うん」 「じゃあ、オレは帰るね」 門限はとっくに過ぎてるけど。大丈夫かなぁ... ちらっとちゃんを見たら少し不安そうで、「あ、えと。水を一杯だけもらえるかな?ちょっと喉乾いたから」ともうちょっとだけ一緒にいる理由を口にした。 「うん」 そう言ってちゃんは家の中に入り、「どうぞ」とオレに言う。 え、夜遅いけど上がっていいのかな? 家の中に入った彼女は、オレが家に上がらないことを不思議そうに見ていた。 「おじゃましまーす」 そう言って靴を脱いだ。 |
桜風
14.3.17
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