二度目の初恋 11





 暫くしてバックヤードがノックされた。

「黄瀬君」

店長さんの声だ。

ちゃん、店長さんが来てくれたよ」

そう言うとオレにしがみついていた腕が少しだけ緩んだ。

「開けてー。最中でも開けなさい」

「何の最中っスか!」

反論しながらドアを開けると、「あら、不健全」と真顔で言われた。

店長さんは、何故かビシッとスーツで決めてる。

「むらむらしても手を出すなって言ってたの、誰っスか」

「あたしねー」

軽く手を上げて店長さんが笑う。

「ちょっと事情聴取応じて。は明日以降にするにしても、黄瀬君は時間取りづらいでしょ」

そう言われてちゃんを置いて休憩室と2人が呼んでいる部屋に向かった。

これって、学校側に連絡が行くのかな...

何だかちょっとまずい気がしてきた。

オレ自身が何かをしたわけでもないけど、巻き込まれたことで学校側になんか言ったら、もうここには近づくなって話になりそうだし。

それは嫌だなぁ...


警察の事情聴取は比較的早く終わった。

「黄瀬君、悪いけど送ってくれる?徒歩圏内だから。あたしはこれから現場検証」

「あ、はい」

そう返事をしてちゃんの側に向かう。

ちゃん?」

椅子に座っている彼女の顔を膝をついて覗き込む。

「大丈夫?家まで送るから」

「うん」

小さく頷いて、彼女は立ち上がる。

こんなに小さかったっけ...


浴衣は着替えていて、少しは楽そうだけど、でも、さっき店を出るときに見た顔は青ざめていた。

そんなに怖かったのかな。

でも、あの怯え方はたぶん、他に理由があるような気がした。

そして、思い出す。

彼女の家は、債権者によって家財道具まで奪っていかれた、と。

その時の光景がフラッシュバックしたのかな...

とぼとぼと歩くちゃんの隣を歩いて、何だかものすごくおんぼろなアパートが見えた。

いまだに建っているのが不思議なそれの前で、ちゃんは足を止めた。

「え、まさか...ここに住んでるの?」

オレの問いに彼女はコクリと頷く。

物凄く、ものすごーくセキュリティに問題がありそうな...

だって、二十歳そこらの女の子の一人暮らしでしょ?

どう言っていいのか、言葉が見つからない。

あ、いや。おばさんの居場所は知らなくても、おじさんは一緒とか?

「えと、2人暮らしにしては、ちょっと狭そうだね」

そう言ってみた。

おばさんのこともあるから、ズバリ聞きづらくて。

するとちゃんは薄く笑って「ひとりだよ」という。

ミシミシという階段を上がって2階の端っこの部屋の前で彼女が止まる。

鞄から鍵を取り出して、そして不安そうに手を止める。

「オレが開けるよ」

「あぶないよ」

「大丈夫。だって、ほら、物音聞こえないし」

そう言いながらちゃんの手にある鍵を受け取った。

鍵を開けてドアを開ける。

暗い部屋は外観通り狭く、昭和な香りがした。

「ほら、大丈夫」

そう言ってドアを少し広く開けて中を覗きやすいようにする。

「うん」

「じゃあ、オレは帰るね」

門限はとっくに過ぎてるけど。大丈夫かなぁ...

ちらっとちゃんを見たら少し不安そうで、「あ、えと。水を一杯だけもらえるかな?ちょっと喉乾いたから」ともうちょっとだけ一緒にいる理由を口にした。

「うん」

そう言ってちゃんは家の中に入り、「どうぞ」とオレに言う。

え、夜遅いけど上がっていいのかな?

家の中に入った彼女は、オレが家に上がらないことを不思議そうに見ていた。

「おじゃましまーす」

そう言って靴を脱いだ。









桜風
14.3.17


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