| 取り合えず、1DKと言ったところか。 玄関入ってすぐに台所で、その先にドアがあって、小ぢんまりとした部屋。 部屋に入って、思わず見たわす。 何ともそっけないというか、飾りっ気のない部屋だな... 「涼太くん、水」 そう言ってちゃんが声をかけてきた。 コップに水を汲んできたちゃんがオレの前でぴたりと足を止めた。 「涼太くん、ごめん!」 わたわたと慌て、彼女は右往左往し始めた。 「なに?」 「シャツ、汚しちゃった...」 そう言ってやっぱり右往左往。 ああ、そうか。ちゃんがさっきしがみついて泣いてたもんな。 そんなに化粧っ気があるわけではないけど、ファンデーションくらいはしていたらしく、本日のオレの白が基調のシャツはほんのり肌色に染まっていた。 「いいよ、大丈夫」 「でも。え、と。しみ抜き?」 色々と対処法を考え始めたちゃんに思わず苦笑が漏れる。 あれだけ怯えて小さくなっていたのに... 少し安心出来たオレは、ちゃんに渡された水を飲む。 ああ、これは... 銘柄を口にするとちゃんは目を丸くした。 「なんでわかったの?」 「オレ、利きミネラルウォーターが得意なんだよ」 「何それ」 「利き酒とか、そう言うのと一緒」 そう返すと「変な特技」と彼女が笑う。 笑えば緊張がほぐれる。 たぶん、きっともう大丈夫だとは思う。 「ありがとう。ごちそう様」 そう言ってオレは玄関に向かう。あんまり長居はしたくない。 「シャツ、今度弁償するから」 ちゃんが言う。 「大丈夫。オレ、ちゃんのタオルになれて嬉しかったし」 「タオル?」 「そう。タオル」 「嬉しい?」 「そう、嬉しい」 「でも、涼太くん。タオルって言ったら」と言って彼女は押入れのふすまに手をかけた。その姿を視線で追っていたら「向こう向いてて!」と言われた。 はいはい... 顔をそらしているとごそごそと物音がして、「涼太くん」と呼ばれる。 「もういいの?」 「うん、いいよ」 了解を得てみてみると、彼女がタオルを掲げていた。 「タオルとは、これです」 「いや、そう言う意味じゃなくてね」 届いていない言葉ってさみしいなー、と思っていると「わかってるよ」と彼女がいたずらっぽく笑った。 その笑顔が可愛くて、うっかり手を出しそうになったら、そのタイミングでポケットに入れていた携帯が震える。 知らない人からの番号だ。 面倒だから一度無視したらしつこくリダイヤルされた。 もしかして、誰かと間違って掛けているのかもしれない。だったら、教えてあげたほうがいいかな、と普段は思わない親切心が出た。 「もしもし」と出ると『もしかして、致してる最中だった?』と電話の向こうの人が言う。 「あの、店長さんは何でそういう話ばっかなんスか」 『はっはー。不健全で結構結構』 愉快そうに彼女が笑う。 『キミ生徒手帳を忘れたでしょ。戻っといで』 そう指摘された。 「...わかったっス。って、なんで番号知ってるんスか」 『愚問だ』 そう言って店長さんが電話を切った。 「店長?」 「忘れ物してるから、戻って来いって」 「大丈夫?ついて行く?」 心配そうにちゃんが言う。 「ちゃんが一緒にお店に帰ったら、オレ、またちゃんを贈らなきゃいけなくなるよ。大人しくしてて」 そう言うとちゃんは心配そうにオレを見上げる。 「大丈夫だって」 そう言って玄関に向かう。 「じゃあね。ちゃんと戸締りして、ゆっくり休んでね。オレ、今日凄く楽しかった。ありがとう」 そう言ってドアを開ける。 「うん、気を付けてね。何かあったら電話してね」 そんなことをいうちゃんに軽く手を上げて応え、ドアを閉める。 さて、店長さんは何の用事があってオレを呼び出したのやら... てか、門限破り、どうしよう... |
桜風
14.3.24
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