二度目の初恋 13





 店に戻ってみると、警察の姿はもうなかった。

「一通り終わったからね」

「そうっスか。で、生徒手帳ならポケットに有ったんスけど?」

店長さんから電話があった時にポケットを触ったらちゃんとあった。

でも、たぶん店長さんは『戻ってこい』が一番言いたいことだったんだろうと思って指摘しなかった。

「賢いね、意外と」

「意外は余計っス」

そう返すと彼女は笑った。

「学校まで送り届けようと思ってね。何、悪いようにはしないよ。キミと少し話もしたかったし」

「悪い人の言いそうなセリフっスけど?」

「いい人ではない。さ、送って行こう」

そう言いながら彼女は店を出る。

オレも彼女に続いて少し店から離れている駐車場について、絶句した。

オレ、この車知ってる。

ウン千万位するって前に雑誌で見たことがある。

「乗りなさい」

「え。これ、店長さんの?!」

「そうよ。10円傷、付けてみる?」

「できるわけないっスよ!」

慌てていうと「面白くない」と肩を竦められた。

店長さんが車に乗り込んだのに続いて車に乗る。


「思い出したんでしょうねぇ」

不意に店長さんが言う。

「店長さんは、店長さんだからちゃんのこと、全部知ってるんスか?」

「変な日本語ね」と彼女は苦笑した。

「何を隠そう、今年の5月に初めて話が聞けたわ。まあ、お父さんが亡くなっているのは、月命日で午後から出勤したいって言われていたからそれだけは知ってたかな?」

「はい?」

意味が分からず問い返した。

「あの子を拾ったのは、1年以上前かな?駅でね、何か凄く無気力な顔をしてたのよ。疲れ切ってて。
思わず声をかけて、あ、しまったなって思った。だって、声をかけたら面倒見なきゃでしょ?
けど、今更ナシなんて言えなくて、結局一応バイトとして置いてみることにしたの。住む場所は自力で見つけたみたいだけどね。
それで、使ってみたらまあ、驚いたわ。バイトなんてもったいないから正社員にしたの。そしたら、彼女きょとんとしてた。これくらい、誰でもできるとかいうのよねー。
あの子、これまで相当買い叩かれてたみたい。だから、自己評価がかなり低かったわ。正社員にしたら、これまためきめきと仕事してくれてね。
あたしね、ずっとあの子のこれまでの経歴は聞けなかったの。聞かないって最初に自分で決めたから。
でも、いい加減じれていた頃に、キミがうちの店にやってきた」

「オレっスか?」

「そう。ねえ、あたしタバコ吸うのよ」

「へ?」

店長さんがタバコを吸ってるところ見たことない。

「キミの前では絶対に吸わないでってに言われているからね」

「オレ?」

「バスケしてるでしょ?スポーツしている子の前でタバコを吸って、タバコの煙で心肺能力を落としてしまったら大変だからって。
あの子は、海常高校バスケ部がどれほどの強豪かは知らないみたいだけど。その学校が必死に獲得したキミがどれほどのプレイヤーかというのは、あたしはそれなりに想像できる。
あの子は、純粋にキミを心配してあたしに物申したのよね。だから、聞いてみたの。の弟、彼は一体何者か。つまり、あの子の過去」

「後悔、しなかったっスか?」

聞いてみた。

たぶん、想像以上のことだったと思ったから。

店長さんは肩を竦めて「そうね」と頷く。

それはどちらなのかわからない。

「オレの初恋って、ちゃんなんスよ」

「へえ」

店長さんは愉快そうに声を漏らした。

ちゃんってウチの下の姉ちゃんの幼馴染で。姉ちゃんはまあ、姉ちゃんだからって言うのもあると思うんスけど、結構あたりが強かったんスけど、ちゃんは優しくて。褒めてくれて、笑ってくれて。偉かったねとか凄いねとかいろいろ言ってくれて。
オレ、ちゃんに頭撫でてもらうのが好きで、それってつまり褒めてもらうことで、結構いろいろ頑張ったんスよ。
でも、店長さんの知ってのとおりの事情で、突然いなくなって。オレの初恋はそれで終わったんスよね」

「セオリー通りじゃない」

からかいの口調で店長さんが言う。

「実らないって言う?」

「そ」と彼女は頷いた。

「オレ、今二回目の初恋なんスよね」

「二回目なら初恋じゃないでしょ、図々しい」

そう言って店長さんが笑う。

「だって、一回目の初恋は途中でフェードアウト気味に切れて、でもまた会ったらやっぱり好きなんスもん。続きって言うには少し間が空いちゃったから、二度目の初恋ってことにしてるんス」

「また実らないかもよ?」

そう指摘されて言葉に詰まった。

「大丈夫っス!」

「ほうほう?その自信は?」

「必ず訪れるっていう失恋は経験したから。もう選択肢から外れるっス」

胸を張って言うと「何その理屈」と店長さんは笑った。そして、「子供は強いね」と静かに言った。

「子ども扱いしないでほしいっス」

「キミの武器はそれしかないよ」

オレの抗議を店長さんがバッサリ切る。というか、

「武器?」

「そう。背伸びして大人の振りしたって、結局尻尾が出る。大人しく、子供なりに頑張りなさい。その姿勢は、絶対に武器だから」

良くわからないけど、そうなのかなと納得してしまうその声音。

「店長さんって、何者っスか?」

「店長さんだよ。さて、そろそろ学校ね。黄瀬君、キミは黙っていればいい。ただ、あたしがキミの前で口にする設定を徹底的に頭に叩き込んで、周りをだましとおしてもらいたい」

「へ?」

「いいね。演技派モデルを目指してちょうだい」

そう言って店長さんは寮の前の駐車場に車を停めた。









桜風
14.3.31


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