| いくら強豪とはいえ、部活がない日もたまにはあるわけで。 そんな日に声を掛けられたらバイトに行かないわけにはいかない。 一応契約をしているのだから。 その日は、昔ちゃんがカメラアシスタントをしていたカメラマンの撮影だった。 スタッフも結構前によく見た人たちだった。 撮影の合間の休憩時間。 メイクを直してもらっていると、噂話が耳に入る。 こういう業界って色々と眉唾ものの噂話が横行していて、さらに、それを面白おかしく脚色するのだ。 オレはあまり好きじゃない。 「」という単語を聞いて思わすそちらに耳をそばだてる。 ちゃんが話題に上ったらしい。 「あいつ生きてんの?」と誰かが言った。 生きてるよ。ここにいるときよりも全然顔色がいいよ。 「従妹が同じ高校のクラスだったんだけどね」 「って、高校通ってたのか?」 その話題の輪がざわつく。 「いや、すぐにやめたよ。入学金がもったいないよねー。それでなくとも、首が回ってなかったのに」 揶揄するようにその人は自分の首を絞めていた。 「どういうこと?」 「借金まみれで、学校やめて。底辺の暮らしをしてて、親父さんが首を括って何とか借金返せたらしいし」 「うっわ、壮絶」 「お袋さんは、借金返すために体売ったとか。あいつ自身もそうじゃねーの?」 耳障りな笑い声。 おばさんはちゃんにそんなことをさせない。おじさんも。 「...黄瀬君?」 メイクさんが声をかけてきた。少し怯えたように。 「何スか?」 「あ、えーと...ただの噂だし」 彼女の耳にもあの下卑た笑い声とその話題が届いているようで、オレを執成すように彼女が言う。 「噂なら、なおさらだと思うんスけどね」 そう返して「まだっスか」とその集団に声をかけた。 すぐにでも帰りたい。本当に、腹立つ。 撮影を終わらせて実家に帰る。 今日は雑誌2冊分の撮影で、終わったのがかなり遅い時間。 明日の始発で学校に戻ることにした。元々一応念のために外泊許可取ってきたし。 「ただいま」と玄関のドアを開けると丁度下の姉ちゃんも帰ったところのようで、まさにブーツを脱いでいるところだった。 「おかえりー。ウチに帰ってくるって珍しいね」 そう言われた。上機嫌なのは、ちょっとお酒を飲んで帰ってるからかもしれない。 「うん、姉ちゃんは合コン?」 「合コンって言うか、ゼミの飲み会」 「合コンとどう違うの?」 「すでに外枠が決まっていて、どうでもいいのしかいない期待できる何かが何もないんだよね」 それって、相手も同じって事じゃ... 賢明なオレは、そのことは口にはしなかった。 シャワー浴びて部屋に戻ろうとしたら「涼太」とリビングから名前を呼ばれた。 「何?」 先にシャワーを浴びた姉ちゃんがソファに座っていた。 「あげる」 そう言って投げてよこしたのは、パピコ。 いつも半分頂戴って言ってもくれなかったのに、姉ちゃんも大人になったって事かな... 「ありがとう」 「あのさ、あんたさ」 「んー?」 パピコを咥えたまま返事をする。 「春休みに、の名前出したじゃん」 「...ん」 頷くと姉ちゃんがちらっと見た。 「会ったの?」 「うん。ちゃん、1年以上前まで、カメラアシスタントしてたから。撮影の時、時々会ってた」 「なんで、言わなかったの?」 「姉ちゃん、ちゃんがいなくなったってわかった時、ちゃんの事めちゃくちゃ悪く言ってたから。言わない方がいいかなって思ってた」 「...そ」 寂しげにつぶやく姉ちゃんに「会いたい?」と聞いてみる。 「どうだろ。わかんない」 「今、オレ、ちゃんがどこにいるか知ってるよ」 「そう。元気?」 「カメラアシスタントしてた時に比べたら全然楽しそうだし、元気だよ。少なくとも、オレにはそう見えてる」 そう返すと姉ちゃんはソファから立ち上がった。 オレのそばを通り過ぎるとき「よかった」と姉ちゃんの口から漏れた言葉は、きっと本心からのもので。 だから、オレは凄く嬉しかった。 |
桜風
14.4.21
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