二度目の初恋 18





 今日は1日中ちゃんの家に居座った。

夕飯にシチューを作ってくれて、結構余ったから大丈夫かなと思って聞いてみると「一人暮らしの創意工夫をなめていただいては困りますよ」とウィンクなんてされるから、ドキドキして話が殆ど耳に入らなかった。

確か、ご飯の上にシチューをかけて掛けて粉チーズを掛けてトースターで焼いたらドリアとかそんなことを言っていたような気がする。


午前中空けていたのは、墓参りに行っていたからだと教えてくれた。

今日は、おじさんの月命日だとか。

「そういえば、涼太くん」

「え、はい!」

返事をすると彼女は苦笑する。

「お母さん、元気よ。たぶん...」

微かに嬉しそうに彼女が言った。

「会ったの?」

「ううん。でもね、そうなんだろうなって」

ちゃんが言うには、いつも彼女がお父さんの月命日にお墓参りに行くと、先に必ずきれいな花が供えられているそうだ。

ひと月に1回しかお参りしないから、自分がいったときには花は枯れているだろうと思っているのに、いつもいつもで。

だから、今日は仕事も休みだし、朝早く行ってみたけど、やっぱりきれいな花が供えてあったとか。

「本当は、お父さんの友達とかそう言う人かもしれないけどね。でも、お母さんの気がしているの」

「どう..して?」

聞いていい事かどうかはわからなかった。

不本意だけど、オレはまだ子供で、弁え方を知らない。

もしかしたら、店長さんだったら、大人だったら聞かないで収めることができたかもしれない。

でも、オレは子供だから。聞きたいと思って素直に言葉に出てしまった。

「季節にあったお花じゃないの。お父さん、お母さんにプロポーズした時、自分が一番好きな花で作った花束を渡したんだって。たまにお母さんが笑いながら話してた。その花が毎回入っているの。
お母さんがその話をするたびにお父さんは真っ赤になるけど、やめろとは言わなかったんだよね。だから、かな」

目を細めていうちゃんは、ほんの少しだけ泣きそうだった。

泣かないでという代わりに、オレは彼女の頭を撫でた。

不思議そうに見上げてきた彼女は笑う。

そういえば、昔好きだったちゃんの笑顔は太陽みたいに眩しくて、手を伸ばしても遠くて...

でも、最近は凄く近く感じる。

眩しいとは言えない、静かなほっとするそんな笑顔。

きっと彼女が大人になったから、表情が変わったんだろうな...

「お父さんが亡くなったのを最初に発見したのはお母さんなの。それまでずっと頑張ってきて、たぶん、緊張の糸が切れたって言うか。取り敢えず現実が嫌になったんだと思う。でもね、ちゃんとお金に関する手続きをしていなくなったから、私のことも心配してくれていたんだと思う。籍も抜かなかったから、私未成年でも一応保護者がいたことになってたし」

そういえば、ちゃんはお母さんがいなくなってから一人で頑張ってた。生きるためにきっと色々とウソを吐いて。

「何かね、色々苦しい時にね、理不尽な目に遭ってるからって、幸せを諦めちゃダメだってまっすぐ言ってくれた子がいたのよ」

彼女が目を細めてオレを見る。

オレだ。オレ、言った...!

「人間バンジー西郷が馬ってね」

オレだ。オレ、言っちゃった...

「まっすぐな言葉って、私がひねくれてても届くんだなって。届いたら途端に、やり直したくなったの。恥ずかしくなっちゃった。
恥ずかしいところ見られてて、やっぱなかった事にしてって言うには何もない。でも、虫のいい話なんだけど。一からやり直したくなった。
だから、逃げてきた。逃げる以外の方法、私は知らなかったから」

「逃げたんじゃなくて、仕切り直しただけじゃん」

オレが言うと

「ありがとう」

と彼女がほほ笑む。

思わず手を伸ばして、そこはぐっと我慢して、

「ねえ、今度東京なんだけど、大会があるんだよ」

と話を変えた。

「大会?」

「そう。ウィンターカップって言う、冬の全国大会。オレ、出場するし、応援に来てほしいな」

「大人は忙しいのよ」

苦笑して彼女が言う。

「でもでも。もしかしたら定休日に試合があるかもしれないから、日程分かったらメールする!」

「行けなくても文句言わないでよ」

「言わない!」

そう言って約束をすると彼女は「わかったわかった」とお姉さんぶる。

「ねえ、ちゃん」

「ん?」

「姉ちゃん、元気だよ」

前に聞かれた言葉。オレがどう答えていいかなかったことにしたこと。

今更やっと返せた。

「そう、よかった」

そう呟いたちゃんの声音は、この間聞いた姉ちゃんと同じものだった。









桜風
14.5.5


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