| 今日は1日中ちゃんの家に居座った。 夕飯にシチューを作ってくれて、結構余ったから大丈夫かなと思って聞いてみると「一人暮らしの創意工夫をなめていただいては困りますよ」とウィンクなんてされるから、ドキドキして話が殆ど耳に入らなかった。 確か、ご飯の上にシチューをかけて掛けて粉チーズを掛けてトースターで焼いたらドリアとかそんなことを言っていたような気がする。 午前中空けていたのは、墓参りに行っていたからだと教えてくれた。 今日は、おじさんの月命日だとか。 「そういえば、涼太くん」 「え、はい!」 返事をすると彼女は苦笑する。 「お母さん、元気よ。たぶん...」 微かに嬉しそうに彼女が言った。 「会ったの?」 「ううん。でもね、そうなんだろうなって」 ちゃんが言うには、いつも彼女がお父さんの月命日にお墓参りに行くと、先に必ずきれいな花が供えられているそうだ。 ひと月に1回しかお参りしないから、自分がいったときには花は枯れているだろうと思っているのに、いつもいつもで。 だから、今日は仕事も休みだし、朝早く行ってみたけど、やっぱりきれいな花が供えてあったとか。 「本当は、お父さんの友達とかそう言う人かもしれないけどね。でも、お母さんの気がしているの」 「どう..して?」 聞いていい事かどうかはわからなかった。 不本意だけど、オレはまだ子供で、弁え方を知らない。 もしかしたら、店長さんだったら、大人だったら聞かないで収めることができたかもしれない。 でも、オレは子供だから。聞きたいと思って素直に言葉に出てしまった。 「季節にあったお花じゃないの。お父さん、お母さんにプロポーズした時、自分が一番好きな花で作った花束を渡したんだって。たまにお母さんが笑いながら話してた。その花が毎回入っているの。 お母さんがその話をするたびにお父さんは真っ赤になるけど、やめろとは言わなかったんだよね。だから、かな」 目を細めていうちゃんは、ほんの少しだけ泣きそうだった。 泣かないでという代わりに、オレは彼女の頭を撫でた。 不思議そうに見上げてきた彼女は笑う。 そういえば、昔好きだったちゃんの笑顔は太陽みたいに眩しくて、手を伸ばしても遠くて... でも、最近は凄く近く感じる。 眩しいとは言えない、静かなほっとするそんな笑顔。 きっと彼女が大人になったから、表情が変わったんだろうな... 「お父さんが亡くなったのを最初に発見したのはお母さんなの。それまでずっと頑張ってきて、たぶん、緊張の糸が切れたって言うか。取り敢えず現実が嫌になったんだと思う。でもね、ちゃんとお金に関する手続きをしていなくなったから、私のことも心配してくれていたんだと思う。籍も抜かなかったから、私未成年でも一応保護者がいたことになってたし」 そういえば、ちゃんはお母さんがいなくなってから一人で頑張ってた。生きるためにきっと色々とウソを吐いて。 「何かね、色々苦しい時にね、理不尽な目に遭ってるからって、幸せを諦めちゃダメだってまっすぐ言ってくれた子がいたのよ」 彼女が目を細めてオレを見る。 オレだ。オレ、言った...! 「人間バンジー西郷が馬ってね」 オレだ。オレ、言っちゃった... 「まっすぐな言葉って、私がひねくれてても届くんだなって。届いたら途端に、やり直したくなったの。恥ずかしくなっちゃった。 恥ずかしいところ見られてて、やっぱなかった事にしてって言うには何もない。でも、虫のいい話なんだけど。一からやり直したくなった。 だから、逃げてきた。逃げる以外の方法、私は知らなかったから」 「逃げたんじゃなくて、仕切り直しただけじゃん」 オレが言うと 「ありがとう」 と彼女がほほ笑む。 思わず手を伸ばして、そこはぐっと我慢して、 「ねえ、今度東京なんだけど、大会があるんだよ」 と話を変えた。 「大会?」 「そう。ウィンターカップって言う、冬の全国大会。オレ、出場するし、応援に来てほしいな」 「大人は忙しいのよ」 苦笑して彼女が言う。 「でもでも。もしかしたら定休日に試合があるかもしれないから、日程分かったらメールする!」 「行けなくても文句言わないでよ」 「言わない!」 そう言って約束をすると彼女は「わかったわかった」とお姉さんぶる。 「ねえ、ちゃん」 「ん?」 「姉ちゃん、元気だよ」 前に聞かれた言葉。オレがどう答えていいかなかったことにしたこと。 今更やっと返せた。 「そう、よかった」 そう呟いたちゃんの声音は、この間聞いた姉ちゃんと同じものだった。 |
桜風
14.5.5
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