| どれくらい泣いていたかわからない。 ふと気づくとオレはどうやらちゃんを押し倒すようにしていた。 たぶん、ちゃんに体重をかけてしまって、彼女はオレを支えきれなかったんだろう。 間近にあるちゃんの眸に吸い込まれそうで時間が止まった。 と思ったけど、「重いねー」と言われて慌てて起き上がる。 「ご、ごめん」 「いいよ。すっきりした?」 「あ、うん」 「なるほど、タオルも悪くない」 そう言って彼女は笑う。 「え、わ。ごめん...」 「大丈夫大丈夫。炬燵つけて待ってて」 そう言ってちゃんは立ち上がり、オレの頭を撫でた。 「初めて作ったんだよ」というちゃん作のオニオングラタンスープは、少しだけしょっぱかった。 言い訳に持ってきた東京土産を渡すと、「店長にももっていくけど、ここで半分くらい食べちゃおう」と言いながら包装を開ける。 紅茶を用意しているちゃんに「ねえ、ちゃん」と声をかけた。 「んー?」 時間をきちんと計って茶葉を蒸らしているちゃんはオレの方を見ていない。 「オレの初恋って、ちゃんだったんだよ」 そう言うと驚いたように振り返った。 「そうなの?」 「うん、そう」 「それはそれは...」 コメントに困っているようだ。 他人事なら、きっとちゃんもいつかの店長さんみたいに軽くからかっただろうけど。 「はい、入ったよ」 そう言って紅茶を持ってきた。 買ってきたお菓子を食べながらぼんやりとちゃんを眺める。 「何かついてる?」 「二回目の初恋もちゃんなんだよ」 別に何かを期待しているわけでもなく、ただ、なんとなく伝えたかった。 「初恋は何回も来るの?」 リアクションに困りつつもちゃんは何とか言葉を返してくる。 「オレの場合はね。最初の初恋は、なんだか終わった感じがしないままに終わっちゃって、続いているというには、間が開きすぎてるかなって思うから。だから、二度目なんだ」 ちゃんは困ったように頭を掻いて、 「なんで今言うの?」 という。 「何となく。オレ、好きだなってさっき改めて思ったから」 ちゃんはきょとんとして苦笑した。 腕を伸ばしてきて「涼太くん」と名前を呼ぶもんだから、何かいい答えがもらえるのかなと思ったら、 「いて!」 デコピンされた。 「生意気ねー!」 笑いながら彼女が言う。 昔と同じように、そう言って。 「痛いよ」 「さっき、ビービー泣いてたくせに」 「、もう!それは言わないで!!」 オレが反論するとちゃんは笑った。 「ちなみに、初恋のセオリーが失恋って知ってる?」 「それはもう1回目で済ませたことにした」 「...失恋したんだ?」 からかうようにちゃんが言う。 「だって、いなくなっちゃったし」 「...ごめんね」 静かにちゃんが言う。 でも、それは仕方ないことだった。 それに、ちゃんが近くにずっといたままだったらオレは恋心を自覚できずに、知らないうちに失恋していたかもしれない。 それに、大人になりたいってこんなに思うことなくて、甘やかされる環境にそのまま甘えてどうしよもない大人になってしまうところだったかもしれない。 「オレ、ちゃんとした大人になるから。今から手を付けてた方がいいと思う」 「ちゃんとした大人?」 ちゃんが首を傾げる。 そういえば、ちゃんとした大人って何だろう... 「私もまだまだちゃんとした大人になれていないのに、涼太くんがちゃんとした大人か...」 感慨深そうに、ちゃんが言う。 オレにとっては彼女はちゃんとした大人なんだけどな... 「じゃあ、一緒にちゃんとした大人になろうよ」 そう言うとちゃんはきょとんとして苦笑した。 「生意気ー!」 笑って言う声は肯定のそれで。 「涼太くん、二度目の初恋は、セオリー通りにならないみたいよ」 とちゃんが言う。 ちゃんとした大人になった時、今度は言葉を変えて彼女に告白をしよう。 そしたら、きっとちゃんとした答えがもらえると思うから。 |
桜風
14.5.19
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