僕の奥さん





 が『黒子』になったのは、ほんのひと月前の話だった。

中学の頃、3年間同じ委員会に所属しており、進学先の高校は違っていたが、大学で再会した。

そして、お互い好意を抱き付き合い始めた。

気の早い話かもしれないが、付き合い始めてすぐに結婚を意識し、大学を卒業して数年経ち、お互い会社にも慣れたため、互いの家に挨拶に行って結婚という運びになった。


式は身内で済ませた。

色々と気を使うのが大変だろうと思ったのだ。

そして、今日は、黒子の昔のチームメイトが祝いのためにやってきたのだ。

も彼らとは面識がある。

同じ中学で、ほとんどのメンバーと同じクラスになったことがあるからだ。

彼らからしてみれば、知っている2人が結婚したという、めでたい話でもある。

(せ、狭い...)

黒子の昔のチームメイト、すなわち元バスケ部員なのだが、長身がそろっているので、マンションの一室にすぎないこの家がすごく狭く感じる。

しかし、彼らがお祝いのために駆けつけてくれたこと、そして、それを黒子が喜んでいる顔を見ても嬉しくなった。


「なんか手伝うっスか?」

彼らをもてなすための料理を作っていると、キッチンにひょっこり顔を覗かせた黄瀬が言う。

「ううん、大丈夫。ありがとう」

「んー、でもほら。紫っちとか、ものすごいことになってるし。簡単なのだったらオレもなんか作れるっスよ?」

そういって、その言葉の通りに手際よく一品作っていく。

「すごいね、黄瀬くん」

「ま、こういうのは得意なんスよ」

笑って彼が言った。

(これがモデルスマイル...)

モデルのバイトをしていた彼の笑顔にキャーキャー言っていた中学時代のクラスメイトを思い出す。

、ビールねぇの?」

「青峰っち!もう『』じゃないスよ」

「んじゃ、

「へ?」

「ビールねぇの?」

「あ、うん。ごめん、ある」

そういってが冷蔵庫を開けてビールを数本取り出した。

「さんきゅー」

受け取った青峰はキッチンを去っていき、「ああ、これも持って行って」と言いながら黄瀬がついていく。

(びっくりした...)


夕方になり、皆は帰って行った。

もうちょっと居座りたそうにしていた者もいたが、赤司の一声で渋々腰を上げたのだ。

残ったのは流しに大量の食器。

洗い物をしながら夕飯をどうしようかと考えていると「さん」と声をかけられた。

「テツヤくん」

振り返ると、どうしたことだろうか。彼の機嫌が少し斜めになっているようだ。

「テツヤくん?」

「今日は、どうもありがとうございました」

硬い声音にの背筋に緊張が走る。

「わたし、ほとんど一緒にいられなかったけど。何かあった?」

覗うように言う。

「いいえ。みんな楽しそうでしたし、僕も楽しかったですから」

「...じゃあ、なんで怒ってるの?」

わからない。だから、聞いてみた。

「わかりませんか?」

「わからない」

はうなずく。

さんは、ずいぶんと楽しそうでしたね」

「ん?」

殆どキッチンに籠っていたから、今日は『大変だった』というのが一番の感想ではある。

「黄瀬君や、青峰君。紫原君」

キッチンに顔を出した人たちだ。

紫原は「料理が足りないよー」といいに来て、その場で大量につまみ食いをしていった。

「うん」

「青峰君は『』て呼んでました」

「あれは、その..苗字が『』じゃなくなったから」

細い声で彼女が返す。

その様子を見ていた黒子は短く息を吐いた。

「ごめんなさい」

「へ?」

突然謝罪の言葉を向けられては混乱した。

「本当は、さんが悪くないのはわかってるんです。でも、やっぱり、僕の奥さんがほかの人と楽しくしているのは、正直面白くないんです」

「え、と...」

どうしたことだろう。

『僕の奥さん』という言葉がとてもうれしくて泣きたくなる。

さん?」

俯いた彼女の顔を覗きこむと、瞳に涙がたまっている。

「あの、本当にごめんなさい」

黒子が慌てて謝罪する。

「もっかい言って」

顔を上げた彼女がほほ笑んでそういった。

「はい?」

「もう1回、『僕の奥さん』って言って?」

彼女の言葉に、黒子は照れ臭そうに頬を掻いて

「大好きですよ、僕の奥さん」

といい、彼女の頬にキスをした。









桜風
13.5.1


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