| 「おはよー」 今日はバスケ部の方が朝練が遅かったらしい。 席についていると高尾が声をかけてきた。 「おはよう、高尾くん」 「あのさ、ちゃんって...」 そう言って声を潜めて「黄瀬の知り合い?」と聞いてみた。 昨日入手した情報だと、そのはずだ。 「え。なんで...?」 「昨日、真ちゃんと海常に行ったんだよ。海常でキセキの世代同士の練習試合があるからって。あ、キセキの世代って知ってる?」 「緑間くんとか。えっと、バスケがすごくうまい帝光中の人たちのことでしょ?」 凄くざっくりした認識だが、間違いではない。 「うん、そう。まあ、だから真ちゃんが見に行きたがって、練習試合見に行ったんだよ」 「わざわざ神奈川まで?」 思わず驚く。 実は、黄瀬に見に来ないかと誘われていたのだ。 ただ、吹奏楽部の練習があるから断らざるを得なかった。 こういうことは中学時代からあったことだから、黄瀬もそこまで食い下がることなく「残念」と一言言っただけだった。 「やっぱ、知り合いだ」 苦笑して高尾が言う。 海常と聞いてすぐにあの学校を思い浮かべることはない。 少なくとも、バスケ部関係者でなければ。 彼女は吹奏楽部ということで、バスケ部に関係していない。 つまり、そこに知り合いがいるというのが一番素直な見方になる。 コクリと頷いたは唇に人差し指を当てて「内緒ね」という。 「なんで?」 「緑間くんが一手に引き受けてくれているから」 申し訳なさそうに彼女が言う。 高尾はクスリと笑って 「りょーかい」 と頷いた。 「黄瀬が言ってた『ちゃん』ってやっぱりちゃんのことみたいだよ」 昼食を摂りに食堂に向かう道すがらそう言う。 「そうか」 「あ。でも、これ内緒だって。黄瀬のファンに目をつけられるから」 「そうか」 「興味ないの?」 同じ返事しかしない緑間に首を傾げながら高尾が言う。 「そうだな」 「ふーん。あの子、黄瀬の何だろうね」 「昨日、黄瀬が言っていたのだよ。『幼馴染』と」 「じゃあ、何で宮地さんと話をしたいんだろうね。あんな怖い人と」 「そうだな」 言われてみればそうかもしれない。 「宮地んとこって問題おきねぇの?」 クラスメイトに聞かれて「あ?」と聞き返す。 「いや、ほら。バスケ部。強豪にはつきものだけど、実力のある後輩が先輩を差し置いてレギュラーになるとかさ」 声をかけてきたのは、吹奏楽部の部長。 「ああ、お前んとこあるんだ?」 「男女混ざってるから特になー」 「今年、その下剋上的な新人が入ったんだ?」 愉快そうに聞く。 「おー。いい子なんだけどなー」 「いい子って言い方してるって事は女子か」 クラスメイトは苦い表情を浮かべて頷いた。 「うちの場合、1年レギュラーはふてぶてしいというか、神経図太いからなー。けど、部内で予選っつうか試験みたいなのするんだろう?」 「オーディションはあるぞ。それまでに潰されなきゃいいけどな」 「文系も大変な」 宮地がそう声をかけると「まあなー」と彼はため息交じりに言った。 「ちゃんって何で帝光じゃないの?」 高尾に聞かれてバツが悪そうに彼女が笑う。 「試験の日、風邪ひいちゃったの」 「風邪?」 「うん。インフルエンザだったら、休まなきゃいけない病気だから再試験とか追試の措置を受けられたかもしれないけど、普通の風邪だったのよ。それなのに、39度とか。ムリでしょ?」 「それは災難だったねぇ」 苦笑して高尾が問う。 「うーん。ま、自己責任だよ」 少し情けない顔で笑いながら彼女は頭を掻いた。 「でも、丁度いいタイミングでもあったんだよね」 「ちょうどいいタイミング?」 「私、小さいころから涼ちゃんと一緒にいたから、涼ちゃん離れのきっかけとしてはね。ほら、中学でも一緒にいたらからかわれたりするでしょ?私、同じ学校に通ってたら絶対に一緒にいたと思うよ。涼ちゃんに迷惑かけてたに違いない」 恥ずかしそうに彼女は言う。 (でも、黄瀬はどうやらキミ離れができていないようなんだけどね) と、高尾は先日緑間から聞いた黄瀬の様子を思い浮かべながらそう突っ込んだ。 |
桜風
13.10.7
ブラウザバックでお戻りください