| その日の部活は散々だった。 自分にちょっかい掛けた先輩たちが喜んでいるのが悔しくて、ずっと俯いていた。 「ちゃん」 肩をゆすられて顔を上げる。 膝を抱えて丸くなっていたらそのまま眠ってしまったらしい。 まぶしくて目を一度ぎゅっとつむり、またゆっくりとあける。 「涼ちゃん」 「風邪ひいちゃうよ」 微かに首を傾げて優しく微笑む彼の顔を見て、堰が切れた。 抱きついてわんわん泣いた。 理由を聞かずに、黄瀬は優しく彼女の頭を撫で続ける。 やがて泣き疲れた彼女はその姿勢のまま寝息を立て始める。 「もー、どういうことだよ」 黄瀬は困ったように笑い、彼女の体をひょいと抱き上げてベッドに寝かした。 モデルの仕事があったからこっちに戻ってきていた。 時間も時間だったし、家に帰って、始発で神奈川に戻ろうと思っていた。 家に帰るならに会おうと思って家に行くと、部屋に閉じこもっているといわれて彼女の部屋に赴いた。 ノックをしても返事がなく、声をかけてドアを開けると部屋の隅で膝を抱えて丸くなっている彼女を見つけて足を向けた 彼女は辛いことがあるとそれを自分の中に閉じ込めるように、膝を抱えて丸くなるのだ。 部屋の電気をつけて肩をゆすって起こして声をかけると彼女は突然泣きながら抱きついてきた。 そのまま子供の頃のように声を上げて泣き、なだめるように、慰めるように頭を撫でていたら彼女は寝てしまった。 泣き続けるよりも全然良いが、理由がわからずに悶々としてしまう。 翌朝、黄瀬が電車に揺られながら神奈川に戻っている途中にメールの着信があった。 「ごめんね」という本文に苦笑してひとまず携帯をポケットにしまった。 電車を降りて、学校までの道のりに電話をしてみた。 「どーしたの?」 昨晩の理由を聞くと彼女は話してくれた。 「それって、その後輩に向けていった言葉でしょ?ちゃんの感謝を迷惑って言ってるわけじゃないよ」 黄瀬が言うと 「うん。そうだね」 と彼女が返す。 (もー、納得してないの丸わかり) 眉間にしわを寄せ、黄瀬は言葉を探していたが、 「ごめん、電車来ちゃった」 と彼女が言う。 「あ、そか。うん、じゃあね」 そう言って黄瀬は通話を切った。 「つか、その宮地って何様だよ」 そう呟き、舌打ちをした。 朝練が終わって教室に向かっていると吹奏楽部の部長とばったり会った。 「そういや、オーディションっていつなんだ?この間言ってたろ?」 「今日の放課後。うちの期待のルーキー、昨日調子が悪くてさ。ちょっと心配っちゃ心配なんだけどね」 彼がそう言う。 「...その期待のルーキーって、どんな子?」 「一見おとなしそうだけどね。大人しいだけじゃないと思うよ。気は強い方じゃないのかな?」 苦笑して彼が言った。 宮地がクラスを聞いてきいてみたら「そうだよ。良く知ってるね」と彼が頷いた。 十中八九、昨日の子だろう。 昨日は頬を叩かれたから調子が悪かったのかもしれない。 「そのルーキーが調子悪いのと、良いの。どっちが望ましいよ」 聞いてみた。純粋な好奇心だ。 彼は苦笑して 「調子がいい方。宮地だって、実力のある後輩は大歓迎だろう?」 と返してきた。 宮地は苦い顔をして 「ま、悪いよかいいよな」 と頷いた。 放課後のオーディションではレギュラーを取った。 練習もせずに、幼稚な策を弄して彼女を陥れようとしていた先輩たちは逆に散々だった。 1年でレギュラーという状況は、秀徳高校吹奏楽部では中々珍しく、彼女はひそかに有名になった。 |
桜風
13.10.21
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