andante 8





 試験週間に入り、部活ができなくなった。

この間は、普段部活に青春をささげている学生が勉強というものをしなくてはならない。

も毎日勉強に明け暮れていた。

元々予習復習は普段からしているので、そこまで必死に勉強をしているわけでもない。

ちゃん」

「なに?」

放課後、帰る支度をしていたら高尾に声をかけられた。

「帰り、カラオケ行かない?」

「カラオケ?私、ポップスとか疎いよ?」

「普段聞いてるのなに?」

「クラシックとか」

「わー...あ、でも。大丈夫。知らなくても絶対に楽しめる」

物凄く自信満々にいう高尾に首を傾げながら「じゃあ...」と頷いた。


カラオケボックスの前には背の高い人たちがいた。

「あー、すんません。遅れましたー」

「おー。おっせーぞ」

そう言って声を返してきた人を見ては固まる。

その様子を見てにやにやしているのが高尾で、ため息をついているのが緑間だ。

「あ?女子?何であの子来てんだ??」

「知ってるのか?」

「あいつらのクラスメイトで、ブラバンの期待の星だそうだ」

名前は知らん、と付け加える。

「あ、あの。バスケ部のレクなら帰ります。お邪魔しました」

そう言って回れ右をした彼女の腕をはしっと掴んで「さ、いきましょー」と高尾が促した。

「勉強、大丈夫か?」

宮地が声をかけると「ええ、まあ」と頷く。

ちゃんは、真ちゃんタイプっスから大丈夫なんですよ。なー?」

同意を求める高尾に困ったように首を傾げる

「普段からやってるってこと」

高尾が言うと

「ああ、まあ。うん」

と彼女は曖昧に頷く。

「無理に付き合うことないのだよ」

こっそり緑間が言う。

恋心とかそう言うのはよくわからないが、一緒にいるのが難しかったら帰るきっかけくらいなら作れるだろうと思った。

高尾は完全に楽しんでいるので、頼れない。

「うん。その時は...」

が頷くと緑間も頷いた。



部屋に入ってきょろきょろと彼女は周囲を見渡す。

「まさか、初めて?」

「ううん。幼馴染と何度か来たことあるから」

慌てて彼女は首を横に振って端っこに腰を下ろした。

「でも、向こうが歌ってばかりで...」

「歌ったことないのか?」

木村が問う。

「歌謡曲、聞かないんです」

首を竦めるようにして彼女が言う。

「でも、何か。高尾くんが、絶対に楽しめるからって」

そう言って先輩たちの顔を見渡すと、一番苦い表情を浮かべているのが、あろうことか宮地だった。

「あ、でも。あの..お邪魔なら...」

腰を浮かせる彼女に「ああ、いや。そういうんじゃねーから」と宮地がいい、高尾をにらんでいる。

「さー、曲入れましょう」

そう言って高尾がリモコンを操作する。

先輩に睨まれるのなんてへっちゃらだ。

何曲かみんなが歌い、そして、とある曲で皆が固まった。

「おい...」

低く唸る宮地に「いいじゃないっすかー」と高尾が笑う。

「オレが歌うんで、宮地さん振りね」

「は?!」

はこの展開についていけない。

きょろきょろとみていると

ちゃん、宮地先輩がおもしれーから」

「え?」

「ばっか!ふざけんな」

宮地が高尾に言う。

「ほらほら、前奏終わっちゃいます」

そう言って高尾が促し、宮地は舌打ちをした。

やけっぱちになった宮地は遺憾なくドルオタとしての根性を見せた。

曲が終わった後彼女は「あ、」と声を漏らした。

「これ、チョコレートのCMで流れていますよね」

宮地の振り完コピにまったく動じていない。

「え、ああ。知ってんのか」

「はい」

はうなずき、宮地は少し嬉しくなった。

自分の好きな曲が広まっているのは嬉しいことなのだ。



さんは歌わないのか?そうはいっても1曲くらいあるだろう?」

大坪が声をかけてきた。

「あ、えと。歌わない代わりに...いいですか?」

そう言う彼女に皆は顔を見合わせて「ああ」と大坪が代表して頷いた。

その返事を聞いて彼女はいつも大切に持ち歩いている楽器を取り出した。

「ここ、防音ですよね」

「そのはず。少し音漏れしてるけど」

高尾が頷く。

「それ、..オーボエ?」

宮地の問いに

「クラです」

笑って彼女が返した。

(クラ?クラリネット??)

「高尾くん、さっきの歌ってね」

「は?!」

高尾が声を漏らす

「主旋律だけで行くから、そのまま歌いだしてね」

そう言って彼女が、演奏し始めた。

「え?」

呆然としていた高尾が彼女の演奏に合わせて先ほどの曲を歌う。

Aパートまで歌って彼女の演奏が終わった。

「これ、楽譜出てたか?」

「さあ?」

宮地の問いに対して彼女は首を傾げる。

「まさか、今聞いて?」

「うん」

「だから、ちょっと外れてたんだな...」

物凄く納得したように宮地が言う。

「あ、やっぱりですか」

苦笑して彼女が言う。

「やっぱりて何?!」

高尾が声を上げると

「中間の音がいくつかあったから、メロディから勝手に想像して補ったのあるし」

と彼女は首を竦めた。

「てか、それ。耳コピしたってこと?」

木村が問うと

「はい。得意です」

は頷いた。

「オレ、鳥肌立ったわ...」

呆然と呟く大坪の言葉に彼女は照れたように笑った。









桜風
13.10.28


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