andante 9





 夕暮れの駅までの道のりをは緊張しながら歩いていた。

先ほど、カラオケ後に店の前で高尾が言った。

「オレと真ちゃんは木村さんと大坪さんに勉強教えてもらうから、宮地さん、ちゃん送ってあげてください」

「え?!」

「はあ??!!」

と宮地の声が重なった。

お互い顔を見合わせてなんとなく気まずい。

「んじゃー」

そう言って高尾が大坪の背を押しながら去っていく。

「え、ちょっと。高尾くん?!」

「おい、こら!高尾!!」

残された2人は顔を見合わせて、お互いの困った顔にさらに困った。

「あ、えと。まだ明るいので大丈夫です」

が言う。

「...いーわ。送ってく」

ため息交じりに宮地が言って歩きだす。

「どっち?」

「駅です」

「ん」

短く頷いて彼は駅に向かって足を進める。


しばらく歩いていると、そういえば一緒に歩いているはずの彼女の姿が見えない。

振り返ると、少し後ろにいた。

足を止めて待っていると彼女は慌てて駆けてくる。

「すみません」

「や、早かったな。わり」

そう言って宮地は先ほどよりもゆっくりと歩く。


「昔から耳コピして演奏してたのか?」

そう問われて「そうですね」と彼女は苦笑した。

「涼ちゃん。あ、さっきちょこっと話をした幼馴染のことです。涼ちゃんって、小さいころ可愛かったんです。姉と、涼ちゃんのお姉ちゃんも涼ちゃんのことが可愛くて。

私は逆にそんなに可愛がってもらえなくて。さみしいなって思ってたんですよね。

姉と涼ちゃんのお姉ちゃんは同じ年で少し私たちと年が離れているんですけど。そうなると、アイドルとかそういうのに憧れるのも私たちが小さいときからで。

小学校に上がって、ピアニカを吹くようになったときに、姉たちが好きなアイドルの曲を耳コピして吹いたら、めちゃくちゃ褒めてくれて。その時からかな。自然と耳に入ったメロディをアウトプットできることに気づいたのは」

昔を懐かしむように目を細めていう彼女に宮地は「へー」と少し感心した声を漏らした。

「オレ、ブラバンの部長と同じクラスなんだよ」

「そうなんですか?」

彼女の問いに宮地はうなずく。

「期待してるみたいだぞ、お前に。頑張れよ」

「ありがとうございます」

不意に宮地は手を彼女に向かって差し出した。

何だろうと見上げると

「...それ、持とうか?」

と彼が言う。

少し重そうなのは、彼女の楽器ケース。

「ありがとうござます。でも、ごめんなさい」

大切そうにそれを抱えた彼女に苦笑した。

「だよな。大切なもんだ。こっちこそ、わり」

そういう宮地に彼女は首を横に振った。


駅前の広場までやってきた。

「ここまででいいです」

「大丈夫か?」

少し暗くなっている。

「駅から降りたら近いんで」

「んじゃ、気を付けて帰れよ」

「ありがとうございました。今日、楽しかったです」

そう言って彼女は改札を通って行った。

「まあ、オレもかな?」

まさかの生演奏、しかも耳コピ即興だ。

そんなものが聞けるとは思わなかった。

さすが、秀徳高校吹奏楽部の期待の星と言ったところだ。

回れ右をして宮地はポケットから携帯を取り出してダイヤルを選択する。

どうせ、またどこかで遊んでいるはずだ。

合流してもうちょっと遊んで帰ろうと思ったのだ。

「おい、今どこだ?」

「えー、ちゃんは?」

「駅まで送ったよ。ったく、何のつもりだよ」

「ははっ」

軽く笑った後輩は、まだあのカラオケボックスの近くのファミレスにいるという。

「今から合流するわ」

「待ってマース」

通話を切って宮地はそこへと足を向けた。









桜風
13.11.4


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