| 梅雨が終わるころ、校内でひとつの話題が広まった。 まさかの予選敗退。 その単語がそこかしこで飛び交っているのだ。 面白おかしく話をする人の方が多くては少しむっとしていた。 「おはよ」 「おはよう」 「...」 高尾がじっとこちらを見ている。 「なに?」 「や、慰めの言葉が出てくるのかなって」 「...ほしい?」 そう問うと彼は苦笑して「いらね」という。 そして 「そういや。昨日、涼ちゃんに会った?」 と聞いてきた。 「ううん。会ったの?」 聞き返すと 「うん。晩飯一緒に食ったうちの試合..ていうよりも誠凛の試合を先輩と一緒に見に来てたらしいよ。4月に練習試合して以来のライバルみたいだし」 少しからかい口調で言う。 「そか。じゃあ、実家には帰ってないんじゃないかな。帰ったら必ず声をかけてくれるから」 そう答えるに高尾は首を傾げた。 「ねえ、涼ちゃんとちゃんってどういう関係?」 「...幼馴染だけど?」 それ以外何があるの、と付け足された。 何だか、少なくとも向こうはただの幼馴染以上の感覚なのではないかと思えてきている。 (それはそれで面白そうだけど) 心の中でそんなことを付け足して「ふーん」と相槌を打った。 体育系の全国区は、今回切符を逃したが、文化系の全国区は切符を手にした。 夏休みに入ってバスケ部は毎年恒例の合宿が組まれた。 ここでも、縁があるのか誠凛高校バスケ部とかち合って、途中から合同合宿という形になった。 先に合宿が終わったのは誠凛高校で、彼らが帰ってからも秀徳高校は合宿が数日続き、そして帰路に着く。 帰りのバスの中で高尾が携帯を操作して「お!」と声を上げた。 「どうしたのだよ」 「ブラバン、優勝だって」 「それは、すごいな」 素直にそう思って緑間は心からの言葉を口にした。 「だなー」 「ブラバンがどうしたって?」 後ろの席にいた宮地が声をかけてきた。 「優勝したみたいですよ、総文で」 「へー、スゲーじゃん」 常連校と言っても、必ず優勝できるものでもなく、それはバスケ部もこれまで伝統的に何度も味わってきていることだ。 全国大会に出ただけでもすごいのに、優勝をして帰ってくるのだ。 高尾が携帯を操作してダイヤルをしているのを見て「次の休憩のときにするのだよ」と緑間が注意した。 「へいへい。そーですね」 呼び出しボタンを押す寸前に止められて高尾は拗ねたように唇を尖らせる。 「次のトイレ休憩ってあとどれくらいだっけ?」 「さっき終わったばかりだから2時間くらいは見たほうがいいのだよ」 トイレ休憩でバスから降りて電話をしてみたら留守電だった。 「どうだった?」 宮地が聞くと 「留守電です」 と高尾が答えた。 「まあ、向こうも移動があるだろうしな」 「...ですね」 ちょっと面白くない。 携帯画面を眺めながら黄瀬はため息を吐いた。 先ほどネットで知った結果に思わず声をあげそうになってそれは飲んだ。 そういうの、過去3年間で結構慣れたのだ。 「帰って待っておこうかなー」 ポツリとつぶやく。 「練習中に携帯とはいい度胸だな」 「い、今休憩中っスよ!」 体育館の隅で隠れながらやっていたのに、と思いながら黄瀬は必死にそう言い訳をした。 「...そういや、お前実家に帰らなくていいのか?」 「お盆は帰るって連絡してるっスよ」 「そうか。ほら、休憩終わりだ」 「はーい」 そう返事をして黄瀬は一言だけメールを打り、携帯を置いて練習に戻った。 日本一。 昨年は自分もそこにいた。今年は壁を超えることができなかった。 でも、まだチャンスはある。 電車での移動を終えて東京に戻ってきて携帯を確認すると高尾からの着信があった事を知った。 黄瀬からもメールが来ている。 「涼ちゃん、まだこっちに帰ってこないのかな?」 「」 「あ、はい!」 名前を呼ばれて慌ててそちらに向かう。 学校にいったん戻っての解散だ。 家でゆっくり寝たい。 (ごろごろして...あ、宿題) 現実は、ちょっと厳しい。 宿題に手を出さずに今の時期まで夏休みを過ごしたのは初めてで、これからのペース配分をどうしていいかわからない。 学校に着いた時にまたしても高尾からの着信があった。 連絡をしようと着信履歴を表示したところでのそれで、慌てた。 「もしもし?」 「やっと通じた!涼ちゃんと電話?」 「ううん、移動してたから。電車の中、電源切ってたの。それで、何?」 そう返すと盛大なため息を吐かれた。 「なに?」 「優勝したって、ネットで見たから。おめでとー」 「わー、ありがとう」 「もしもし?」 「ひゃ!」 高尾が電話の向こうで宮地と変わったらしい。思っていた人の声でなくて、変な声が漏れた。 「?」 「は、はい」 「優勝ってすごいなー」 「あ、はい。ありがとうございます」 「凱旋コンサートとかねーの?」 宮地に聞かれて困る。 「部長からそう言う話は聞いてませんけど。学校行事なら、宮地さんの方が詳しいんじゃないですか?」 そう返すと電話の向こうで彼が笑う。 「や、優勝って今年初めてだろう?」 「そう..ですか。後で部長に確認しておきます」 「おー」 電話の向こうの宮地はどこか愉快そうな口調だ。 (何だろう...) 「お、休憩終りだ。高尾と代わるか?」 「あ、えーと。どちらでも」 「んじゃ、切るな」 そう言って宮地が電話を切った。 「わー、すごい...」 まさか、宮地と電話をする日が来るとは... 「でも、まだあの時のお礼、ちゃんと言ってないんだよな...」 ずっと胸につかえている問題。 進路が此処になったのはある意味偶然。 だけど、一緒の学校だと気付いて嬉しかったのもの本当で。 時々頭を回る「迷惑だ」と言った宮地の声がブレーキをかける。 黄瀬は、それは高尾に向けていった言葉だといっている。 おそらく、その可能性が一番高い。 でも、全部を否定する材料にもならない。 口からこぼれるはため息ばかり。 (帰ったら泥のように寝よ) 心にそう決意して、彼女は先輩たちに挨拶をしに輪の中に戻って行った。 |
桜風
13.11.11
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