| 宿題をしていると部屋のドアがノックされて「はーい」と振り返る。 「ひさしぶり」 ひょいと顔を覗かせた幼馴染に笑みがこぼれた。 「涼ちゃん」 「入ってもいい?」 「どうぞ」 ぱたんとノートを閉じて立ち上がる。 「なんか飲み物取ってくるね」 そう言って彼女は部屋を出ていく。 黄瀬は、ぽすんと部屋の真ん中にある冬は炬燵になるテーブルの前に座った。 しかし、少し落ち着かなくなって立ち上がり、の学習デスクの前に立った。 「涼ちゃん、宿題終わった?」 アイスティを持って戻ってきたが声をかけると黄瀬は振り返って 「まだ全然」 と苦笑した。 「大丈夫?もう夏休み後半戦じゃない」 「まあ、なんとかするよ」 「写させてくれる友達いるんだ?」 「なんで写すことが前提なの」 そう言って黄瀬は先ほど一度腰を下ろした場所に腰を下ろす。 そこが、いつもの自分の場所なのだ。 「これ、お土産」 「神奈川?」 「ううん、インターハイ」 「ありがとう!あ、私も」 そう言っては机の引き出しを開けて小さな包みを取り出した。 「ご当地ストラップ。お菓子は残ってたら、実家にあると思うよ?」 「姉ちゃんが食べつくしたにきまってるよ」 肩を竦めて黄瀬が言う。 いつ会えるかわからないので、黄瀬のお土産はお菓子にしなかったのだが、こんな事だったらお菓子にすればよかったと思った。 「そういえば、優勝おめでとう」 「ありがとう」 「すごかったね、スタンディングオベーションだったじゃん」 黄瀬にそう言われては首を傾げた。 「どうして?」 「あれ?知らない?」 そう言って黄瀬はに声をかけてパソコンの電源を入れる。 「わー、知らなかった」 黄瀬が見せたのは、動画投稿サイトだった。 総合文化祭の吹奏楽の映像が投稿されていたのだ。 「オレも偶然見つけただけだから」 「なんか恥ずかしいね」 はクスリと笑っていう。 「バスケはなかったの?」 が言うと 「オレのは見せらんない」 と黄瀬が苦く笑う。 「あ、うん。ごめん」 「優勝した時に見てよ」 「でも、涼ちゃんいたら事務所NGで削除依頼されるかも」 「いい宣伝になるからそれはないと思うけどね」 黄瀬が言うと「そうかなー」とはからかう。 「そうだ、ちゃん。お祭り行かない?」 「いつ?」 黄瀬が言ったその日は空いていて、「いいよ」と頷いた。 「ちゃんと出かけるのって久しぶりだね」 黄瀬が笑う。 「そうだね。中学の時は、涼ちゃん友達と一緒に遊びに行ってたもんね」 そう言うと黄瀬は少しだけ困ったように笑う。 「そうだね」 カランコロンと下駄の音が鳴る。 浴衣姿のの隣には、洋服姿の黄瀬が歩いている。 「何で涼ちゃん浴衣じゃないの」 「顔を隠せないから」 そう言いながら彼は帽子に手を置いた。 「涼ちゃん思ってるほど人気ないかもしれないのに」 が言うと「ひどいなー!」と黄瀬が笑う。 しかし、と黄瀬は周囲を見渡す。 確かにの言うとおり、周囲は思っているほど自分に気づいていないようだ。 それはそれでさみしいなと思っていると、目があった。 「あ、」 思わず声を漏らして足を止める。 「なに?」 が足を止めて黄瀬を見上げた。 「何でもないよ」 そういって彼女の手を引いて歩き出すと「あっれー?ちゃん」と名前を呼ばれた。 「あ、高尾くん」 (気づきやがった...!) 目があったのは緑間とだけ。 緑間がこちらに積極的に関与してくるとは思わなかった。だが、それ以外の人がいたら話は別と思って足早に去ろうと思ったのに... 「なになに、デート?」 「ちがうよ」 の即答である。 (わざと言ったな...) 苦々しく高尾をにらみながら黄瀬が心の中で舌打ちした。 「あ、そうか。涼ちゃんは緑間くんと友達だよね」 「...まあ」 「そうだね」 緑間が否定しないことに若干驚きつつも、黄瀬は頷いた。 緑間の隣では、高尾がクツクツと笑っている。先ほどのの即答からずっとだ。 「じゃ、緑間っち」 「ああ」 「え、いいの?積もる話はないの??」 が問うと 「とくには」 「ない」 と2人が言う。 「行こう」と黄瀬がの手を引いて歩き出す。 「またねー」とは2人に手を振って歩き始めた。 「あちゃー」 少し離れたところにいる人に気づいた高尾は、頭を掻く。 「なんであの2人はこの神社に来たのかな?」 「どうしたのだよ」 「なんでもねー。じゃ、そろそろお土産買って帰ろうぜ」 そう言って高尾は屋台を冷やかし始めた。 |
桜風
13.11.18
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