andante 12





 夏休みが明けて初登校の日。

たち、吹奏楽部はかなり有名人状態だった。

「わー、びっくり」

独り言をつぶやきながら教室に向かう。

教室でもクラスメイトに声をかけられてもそれにこたえていた。


始業式の中で校長から夏休みの間の各部の活動の紹介があり、吹奏楽部は部長が登壇している。

夏休みの部活中に後輩から、吹奏楽部の演奏が動画投稿サイトで聞けると聞いて、家で一度聞いた。

音楽は、基本的に洋楽と自分が応援するアイドルの楽曲を聞くだけなので、ブラスバンドの曲は初めて聞いた。

そして、夏休みのうちに、部屋にブラスバンドのCDが数枚増えていたことに、ちょっと自己嫌悪に似たものを感じたのだった。


放課後、音楽室から練習曲と思われる曲が聞こえてきて、その曲名がわかった自分になんというか、困った。

「どうしたんですか、宮地さん」

「なんでもねーよ」

「そういえば、見ました?俺パソコンにダウンロードまでしちゃいましたよ」

高尾が苦笑していう。

「そーかよ」

そう返してふと思い出したのは、夏休みの夏祭りの光景だった。

「高尾」

「何すか?」

「...なんでもねーや」

(聞いてどうする?)

ため息をついて気持ちを切り替えて練習に集中した。

全体練習後に自主練をして、帰るのは自分が一番遅くなった。

着替えて正門に向かっていると目に入った姿がある。

背の高さ、ひいては足の長さにより宮地の方が歩くのが速い。簡単に追いついて、追い抜くこともできる。

ただ、相手が知り合いであり、声をかけずに横を通り過ぎ去るのも何だか気まずい。しかも、もう暗い時間だ。

「はぁ...」

ため息を吐いて宮地は歩く速度を上げた。

「よう」

声をかけると彼女は驚いたように顔を上げてきた。

「あ、宮地さん。こんな遅い時間まで練習ですか?」

「そっちこそ」

そう返されて彼女は苦笑する。

「あ、そうだ。部長に聞いてみたんですけど、やっぱり凱旋コンサートはないみたいです」

彼女は宮地がからかいで言った言葉をそのまま捉えて部長に聞いてみたらしい。

そして、宮地はそれを知っていた。

部長が愉快そうに今朝、話したのだ。

凱旋コンサートがあるのか、真顔で聞かれてびっくりした、と。

そして、凱旋コンサートの準備している暇がないから、文化祭がその代りのようなものだと教えておいたと。

「そうかよ」

「文化祭がその代わりらしいんです」

「へー」

全部知っていることだが、初めて聞いたことにした。

「送るか?」

この間は明るいから、と断られた。

今はもう暗いし。

そう思って宮地は心の中でため息を吐いた。

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。宮地さん、練習大変でしょ?体を休めてください」

別に駅まで送っていくことくらいどうってことない、と言いかけて言葉をのんだ。

(なんで追いすがってんだよ)

「そうか。んじゃ、気を付けて帰れよ」

「はい。失礼します」

そう言って彼女は駅に向かい、宮地は彼女とは別の方角に歩いて行った。









桜風
13.11.25


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