| 昼休憩に売店前の自動販売機でココアを購入した。 紙コップを取り出すと「ココア?」と背後から声がしてびくりと肩が揺れてココアが手にかかる。 「あつっ」 「あ、わりぃ」 「大丈夫です」 そう言いながらはそっとココアを床に置き、ポケットからティッシュペーパーを取り出して床にこぼれたココアをふき取る。 「悪かったな」 宮地が重ねて言うと「大丈夫ですよ」と彼女が笑う。 「弁償するか?」 「ちょっとこぼれただけですよ、大丈夫」 そう言って彼女は床に置いたココアを持って立ち上がる。 「あ、ごめんなさい。前を」 そう言って自動販売機の前を避ける。 「あ、いや」 そう返して宮地は炭酸飲料を選択した。 「って、大学は音楽系行くのか?」 そう問われて彼女はきょとんと宮地を見上げた。 「まだもうちょっと遊ばせてください」 彼女の言葉に宮地は首を傾げた。 「進路とか、いきなり現実じゃないですか。受験が終わって1年も経ってないんですよ」 彼女の言わんとしたことが分かった。 「すぐだぞ。3年なんてあっという間だ」 (本当に、あっという間だ...) 少し感慨深くなっていると 「あと4か月はありますよ?」 と彼女が顔を覗きこんでいう。 「あ?ああ、まあ。そうだよな」 「何せ、宮地さんたちバスケ部には全国大会が待っているんでしょう?」 彼女の言葉に宮地は一瞬きょとんとして 「黄瀬から?」 と聞く。 「いいえ。高尾くんです。『真ちゃん』と一緒に凄く張り切ってますよ」 彼女の言葉に思わず「はっ」と笑みがこぼれた。 宮地のそれにはきょとんとした。 「や、うん。わり」 「いいえ。楽しそうですね。高尾くんと緑間くんってスタメンだって聞いてますよ」 「まあ、スタメン外れることはまずないだろうな」 「すごいですねぇ」 感心したように言う。 「...だな。あ、て。これ、あいつらに言うなよ」 「はい、言いませんよ」 並んで廊下を歩いて、少し沈黙が降りた。 「あの」「って」 と宮地の声が重なった。 「あ、何か言ったか?」 「...いいえ。何ですか?」 「なんでうちの学校に来たのかなって。ブラバン?」 「まあ、そうですね」 「推薦か?あ、でもさっき受験がどうこうって言ってたよな?」 宮地に指摘されて彼女は苦く笑う。 「私、受験にとことん運がないんですよね」 「は?」 「中学の時、本当は帝光行きたかったんですけど、受験日に高熱が出て、しかもインフルエンザじゃないから公欠扱いにならずに追試は受けられなかったので受験をフイにしました」 「...ほう?」 「高校も、もしかしたら秀徳から声がかかったかもしれなかったんですけどね。最後の大会。全国大会の予選の時にその..突き指しちゃって」 「嫌がらせ、されたとか?」 春先の出来事をふと思い出してしまった。 「いいえ。体育の授業で、バレーを張り切ってしまって...それで」 「ばかだな」 心底そう思ったらしい声音で言われ、「です」と彼女は首を竦める。 「大会が終わって、今回みたいに文化祭でコンサートしたんですけど。その時には回復して、それで一応卒業できました」 「そうか」 「さっきの話ですけど。今のところ進路は音楽には向いていません」 「もったいねーんじゃねーの?」 素直に出た言葉だった。 しかし、彼女は苦笑して首を横に振る。 「私はそんな覚悟ありませんから」 「覚悟?」 「音大に行くとしたら、もうその道に進む意思がないと難しいと思います。私は、音楽で食べていけるほどの才能とか覚悟はありませんから。趣味で続けるとは思いますよ。ほら、市民コンサートとかそういうのやってるので、市民楽団みたいなのはあるみたいですし。宮地さんは?」 水を向けられて宮地は困った。 「さあなー」 が首を傾げる。 「大学に入っても多分続けると思うけど。スポーツ界も音楽界と同じだなー」 3年になってからのレギュラーでは推薦の声というのは難しいだろう。 幸い、勉学も怠っていないので、受験もさほど心配していないが... 昼休みを終えるチャイムが鳴った。 「「あ」」 2人が同時に声を漏らす。 「んじゃーな」 「はい」 そう言って2人はそれぞれの教室に向かった。 「...そういや、何か言いかけてたか?」 首を傾げ、宮地はそう呟いた。 |
桜風
13.
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