| 吐く息が白くなり、日も早く落ちるようになった。 手がかじかむ。冬は苦手だ。 「よう」 手に息を吐きかけていると声をかけられて顔を上げる。 「宮地さん。いつも遅くまで」 「だから、そっちもだろ」 苦笑して言う。 歩き始めて、校門のところで「では」とが言うと「いいよ」という。 「はい?」 「暗いし」 「いえ、大丈夫..」 「寒いし」 「はい?」 もうひとつ付け加えられた単語はよくわからない。 「ほら、行くぞ」 そう言いながら宮地がいい、は慌てて追いかける。 「あのさー」 「はい」 努めてゆっくり歩く。 それでも隣を歩いているは少し息が上がっているようで、これでもまだ早いと気付く。 「あのさ、結構前の話だけど。なんか言いかけたの、オレが止めたよな?進路の話した時」 「え、ああ...」 あの時、少しだけほっとした。 でも、それを宮地が覚えているとは思ってなくて... しかし、いい機会でもある。 は一度深呼吸をした。 「宮地さん」 改めて名前を呼ぶ。 「お?」 宮地が彼女を見下ろした。 「私、宮地さんに助けてもらったことがあるんです」 「あ?ああ、春先な?」 そう言った宮地には首を横に振った。 「もう1年以上前です」 身に覚えのない宮地は彼女に話の続きを促した。 「この学校の近くに公民館があるのご存知ですか?」 「や、知らねぇ」 「ですか。去年の夏休みに、そこに言ったんです。市民楽団が活動をしているって聞いて。その時、当時の1年生。今の2年生に絡まれたというか..まあ、そんなことがあったんです」 「...黄瀬は?」 突然出た名前に彼女は首を傾げた。 「涼ちゃんは、中学入ってからほとんど一緒にはいませんよ。彼がバスケを始めてから特に。だから、その時も一人で、怖かったんですけどね。宮地さんが助けてくれたんです」 そう言って宮地の目をまっすぐ見た。 「お礼が遅くなりました。ありがとうございました」 深く頭を下げていう。 「や、オレ本当に覚えてねぇんだけど」 「木村さんが『宮地』って呼んだし、間違いありませんよ。あ、でも宮地さんがいるから秀徳入ったわけじゃないですよ!!入ったら、いたっていうか。高尾くんたちをどやしつけていたっていうか...」 慌てて彼女が言う。 それはそれで面白くない。 「別に、それでも構わねーけど」 つい口に出た言葉に、宮地は内心慌てた。 「え、でも。迷惑だって...」 「は?」 「あの、今年。春先に助けていただいた時。高尾くんに」 思い当たる節があって、宮地はため息を吐いた。 「あのなー。からかいが十分にこめられたあの言葉で、しかも高尾だぞ?まともに相手するかよ」 「え、と?」 が首を傾げた。 「その時のオレは、たぶん感謝欲しくて助けたわけじゃないだろうけど、感謝されるのを拒否るつもりもない。だから、さっきの『ありがとう』は、貰っとく」 その言葉にはまつ毛を伏せて幸せそうに微笑んだ。 「あ、」 宮地が呟く。 (ああ、くそっ) 自分でもそれが心地いいとか、少し痛いとか思ってしまっているのが痒くてたまらない。 「はい?」 は首を傾げながら彼を見上げた。 「ん」 出された宮地の手を見てはまた首を傾げた。 「さみーから」 そう言っての、楽器ケースを持っていない方の手を掴んで自分のコートのポケットに一緒に突っ込み、歩き始める。 「あ、あの?」 慌てて足を動かし始めたはふと気が付く。さっきよりも歩きやすい。 「こっちんが、歩く速さ合わせやすいし」 「...アンダンテ」 がつぶやく。 「ん?」 「歩く速さで、っていう意味の音楽記号があるんです」 「...速さって、人それぞれじゃねーの?」 不思議そうに宮地が言う。 「そうですね。だから、演奏者の感覚でいいんだと思いますよ。演奏者、指揮者の」 「自由だな」 「はい、自由です」 「まあ、じゃあ。アンダンテで」 「はい」 白い息を吐きながら、さっきよりもゆっくりと歩き、2人は並んで駅に向かった。 |
桜風
13.12.23
ブラウザバックでお戻りください