うつくしきもの 5





 「はぁ、小さい...」

退屈な日本史の授業中、は窓の外を眺めていた。

さすがに校舎の3階から見下ろせば、大抵のものは小さくなる。

グラウンドでは体育の授業が行われていた。

梅雨前の爽やかな気候での体育。自分は結構好きだ。

どうやら、今の時間は高尾のクラスが授業のようだ。緑間が目立って分かりやすい。

(カチューシャ?)

それはそれで危なそうだが、前髪が邪魔なのか、高尾はカチューシャをつけている。

(没収されないのはなぜだろう...あの人なつっこさは先生にも有効なの?)

は首を傾げた。

ここ最近、高尾に懐かれて仕方ない。

自分はかわいらしいものだったら基本的に受け入れるが、残念ながら高尾はかわいらしいものではないので、あまりうれしくない。

(あ、いや...)

小さくて可愛い女の子でも、肉食獣的なのはパスしたいと最近思っている。

やっと思い始めた。

はぁ、とため息を吐き、また窓の外に視線を向けると、見上げた高尾と目があった。

彼はひらひらと手を振ってくる。

は無視して黒板に視線を向けた。びっしり呪文のようになにやら書いてある。

(まず...)

板書が追いつかないかもしれない。

カチカチとシャーペンの芯を出す。

(あれだけ小さかったら多少は可愛いかな...)

先ほどひらひらと手を振ってきた高尾を思いだしてそんなことを思った。


移動教室の帰り、はノートの山を抱えていた。

半分は厚意で大坪が持ってい。今日の当番はだったのだ。

「悪いわねー」

「いや、かまわない」

そんな会話をしていると、女子の甲高い声が聞こえてきた。

攻撃的なその声に、は眉間にしわを寄せる。

ふとそちらを見ると高尾が女子に囲まれている。

「ったく、だからいつも言ってんのに。高尾は...」

いつの間にか、は彼のことを名字で呼び捨てるようになった。

見かけたら声をかけてきたりと、あまりにも懐いてくるので丁寧な対応をするのが面倒くさくなったのが一番の要因だろう。

しかし、今の高尾は少しややこしい状況にあるようだ。

ちやほやされているのなら放っておくが、そうでもなさそうなのだ。

「何やってんだ?」

大坪が呟く。

「大坪君、ちょっと」

そう言っては自分の抱えているノートの山を大坪の山の上に重ねた。

「おいっ」

大坪が抗議の声を上げた。

それを無視して、今度は彼女はそれを強引に奪い取る。

「ごめん、ありがとう」

そう言って高尾の元へと足を向けた。


「高尾」

「きゃー!」と高尾を囲んでいた女子の中から声があがった。

彼女たちは自称「公認様ファンクラブ」の会員なのだ。

「あ、センパイ」

「ちょうどよかった。手伝って」

「いいっすよ。それ、持ちゃいいんでしょ?」

そう言って全部持とうとした。

「半分でいいから」

が言うと

様、優しい...」

と女子が声を漏らす。

「あと、あなたたち」

「はい!」

「あまり他の人に迷惑をかけないようにして」

「はい!!」

よいお返事をして彼女たちは解散した。

「うへー、助かりました」

「だから、あまり私の周りをうろちょろしないようにって言ってるでしょ?緑間君は?」

「真ちゃん?あの、センパイ。俺と真ちゃんっていつもセットって訳じゃねーすよ」

「あら、そうなの?まあ、緑間君が一緒だったらあの子たちも高尾を囲おうとは思わなかっただろうけどね」

「む...」

高尾は不本意だと言わんばかりの表情を見せる。

「なに?」

「何で真ちゃんと一緒だったら囲まれないんですか?」

高尾の言葉にはため息を吐いた。

「あの子の威圧感、ハンパないでしょ?あの背の高さだし」

その言葉を聞いてすとんと納得してしまった高尾は「そうっすねー」と頷いた。


ノートは担当教師の元に持っていき、やっと腕が軽くなる。

「ありがとう」

ノートの山を持ってくれたことに対して礼を言うと高尾は苦笑した。

「や、そもそも俺は助けられたんだから、お礼は俺が言う言葉っしょ」

「...言われてみれば、そうね」

彼女は頷いた。

「そういや、予選始まりますけど。女子部の初戦っていつっすか?」

「開会日よ」

「わ、初っぱな!」

「しかも、第一試合。開会式会場で」

「わー...けど、なら応援の移動しなくていいから楽っすねー」

高尾が言う。

「男子は?」

「シードだから、ちょっと先になりますね」

「あら、うらやましい」

「試合たくさんできる方が、俺は羨ましいっすけどねー」

高尾がぼやく。

「そっちみたいに選手層が厚けりゃ私も同じだけど。さすがに、今の状況で、たくさん試合をこなすのは結構つらいよ」

は苦笑した。









桜風
13.5.6


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