うつくしきもの 7





 結局、引退はまだ先延ばしにした。

そうしたことに後悔する気持ちも多少はあった。

自分が引退していたら何か変わっていただろうか...

練習後の誰もいない体育館の中を見渡して少しだけ、心が痛んだ。


「セーンパイ」

弾んだ声を掛けられた。

溜息を吐いてが振り返る。

「あー、焼けたねー」

苦笑した。

男子部は先日まで海近くの民宿で合宿をしていた。

今年は男子部も全国を逃してしまった。

躍起になってあのキセキの世代を獲得したのに、と非難の声をいくつか耳にした。

しかし、キセキの世代だろうと、同じ高校生なのだ。

あまりに特別視している方がどうかしていると思わなくもなかった。

実際、緑間と話をしてみるとちょっと変わり者の普通の男子という印象しか受けないのだ。

大坪や木村、宮地と話をしてみても彼らも同じような印象だったようだ。確かに実力はある、と彼らは口にしていたが、だからといって緑緑間が入ったチームが完璧だとは一言も言わない。

「お土産っすよ」

「あらあら、お気遣いいただきましてー」

「んで、やっぱりセンパイ以外居残りなしっすか」

嫌悪の表情を声に載せて高尾が呟いた。

「居残りは義務じゃないもの」

肩を竦めて返す。

「まー、そうっすけど」

なんだか腑に落ちない様子で高尾が呟く。

「で?お土産って何?」

「あ、これ」

そう言って渡されたものを見た。

「あら、ストラップ」

「携帯持ってんしょ?色違いを妹ちゃんにあげたら超喜んじゃったんすよ。センパイの好きな『可愛い』だと思ったんだけど、どう?」

「妹?高尾って妹いるの??」

「まだちっさいから可愛いすよ」

ニッと笑って高尾が言う。

「いいなー。小さいのが家にいるって...」

心底羨ましそうに彼女が言う。

センパイんとこは?」

「兄が2人に弟1人。兄は190前後、弟は私と同じくらい。全く可愛い要素なし」

苦々しげに彼女が言う。

「へー兄ちゃんがいるんだ。なら、兄ちゃんに可愛がられねーすか?」

「年が近いからちょっと前までは喧嘩ばっかだったけどね。兄が大人になっちゃったからねー。あ、お土産ありがとね」

軽く掲げてそれを振りながらが礼を言うと

「ちゃんと使ってくださいよー」

と高尾が返す。

「うん、それなりに『うつくしきもの』だから何かしらには付けるよ」

そう言っては笑った。

「あと、女子部ってお盆の練習ってあるんすか?」

「ないよ?」

「田舎に帰るとかは?」

「うち、田舎ないから。おじいちゃんおばあちゃん、みんな都内」

「んじゃ、これも」

そう言って高尾がポケットからまた別のものを取り出した。

「なに?」

「このマスコット好きっしょ?」

高尾が持ってきたのは夢の国の入場チケット。

「わあ...!」

は思わず目を輝かせた。

「ははっ」

高尾は声を漏らす。こんなに嬉しそうな表情をされるとは思わなかった。

「一緒にどうっすか?」

「え、良いの?...って、夏休みなら妹ちゃんだって学校がないんだし、妹ちゃんと一緒に行ったら?お兄ちゃん株、絶対上がるよ?」

凄く行きたいと顔に書いてある。それなのに遠慮する。

高尾は苦笑した。

「子供だってスケジュール埋まってるみたいなんですよねー。夏休みは殆どクラスの子とかとプールだとか、子ども会のキャンプだとかで中々難しいんですよ。もう振られたあと」

(ウソだけどー)

妹には声をかけていない。ここなら、絶対に色々キャンセルをしてまでいくだろう。

しかし、妹には悪いが、兄ちゃんにも必要なのだ。

「じ、じゃあ...行く」

遠慮がちに彼女が言う。

高尾はにこりと微笑んだ。

「んじゃ、デート。決まりね」

「え...」

一緒に遊園地に行くこと、即ちデートになると思っていなかったは思わず絶句した。










桜風
13.5.20


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