うつくしきもの 9





 パレードの場所取りをして、途中、がジュースを買いに行った。

彼女ひとりで行かせるのは心配だったが、いつの間にか消えていて、いつの間にか戻ってきたのだ。

なんと言うか、気遣いの仕方が完璧に紳士だと思った。

(オレ、負けてる...)

高尾は心が折れそうになる。

パレードが始まると彼女は思った以上にはしゃいだ。

隣にいた高尾はずっと彼女の横顔を見ていた。

キャラクターが手を振ると嬉しそうに手を振り、そのキャラクターが気付いたような素振りを見せて手を振り返してくると「わっ!」と弾んだ声を漏らしていた。

(オレだって、いくらでも手を振り返すのに...)

目の前の可愛らしいキャラクター達が憎らしくなるほど、彼女は喜んでいた。


少し遅めの時間に昼食を済ませた。

途中、買い食いをしていたのでさほどお腹はすいていなかった。

昼食後は、先ほどと打って変わってゆっくりと歩く。

「もう絶叫系は良いんですか」

(あー、もう!)

拗ねたような自分の声音に高尾は苛立ちを覚える。

(もうちょっと、こう...)

「ん?うん。そうね、暑いし。水系行っとく?」

そういいながら彼女は園内の地図を見る。

(ありゃ...結構歩くなぁ)

さすがに高尾を負ぶって移動はムリだ。

子供の頃、遊園地で迷子になった弟を負ぶってやった経験はあるが、残念ながら最近は弟を負ぶったことはない。

よって、高尾を負ぶって歩いて潰れない自信がない。

そんなの思考が何となく分かってしまった高尾は益々落ち込んだ。

ゆっくり歩いて、思いのほか時間が掛かり、更に並んでやっとアトラクションに乗れた。

日が傾いてきた。

さすがに遅くまでは付き合わせられないだろう。

「そろそろお開きにします?」

名残惜しいが、引き際こそ肝心、と高尾が声をかけた。

「んー...」

歯切れの悪い彼女はどこか一点を見ていた。

その視線を辿り、高尾は笑った。

「アレに乗ったら」

と付け足す。

彼女が視線を向けていたのは観覧車だった。

「並ぶかもよ?高尾、ああいうの大丈夫?」

「高い所?」

「叫ばないもの」

「どっちもダイジョーブ。けど、さんこそ良いの?」

「ん?」

イタズラっぽく笑って言う高尾には首を傾げた。

「密室でオレと2人きりじゃん」

高尾が言うとまた彼女は「ん?」と首を傾げる。

お陰で高尾は再びへこんだ。

全く意識されていない証拠だ。

(もうちょっと、こう...)

なんとも歯切れの悪いことを思いながらゆっくりと観覧車に向かっていった。


予想通りかなり並ぶことになった。

だが、お陰で空に近いところをゆっくりと回る観覧車に乗るには丁度いい時間となった。

空に上がっていく。

は窓の外を目を輝かせて眺めていた。

さん」

高尾が声を掛けると彼女はその表情のまま振り返ったが、ピピッという電子音を耳にして眉間に皺を寄せる。

高尾が写真を撮ったのだ。

「高尾」

「うつくしきもの。遊園地ではしゃぐさん」

そう言って今、自分が撮った写真を見せた。

「ちょ、消して!」

子供のように目を輝かせている自分の写真を見て恥ずかしくなる。

「やだ」

「高尾!」

鋭い声音。

(さすが、運動部のキャプテン。おっかねー...)

高尾は苦笑した。

「あのさ、さんだって可愛いんだぜ?」

「はあ?!」

思わず頓狂な声が口から漏れる。

「小さけりゃ何でも可愛いってもんじゃない。それはさんだってわかってるっしょ?それと同じ。ちょっとタッパがあっても、さん可愛いもん」

「高尾?」

怪訝な表情を浮かべて彼女が名を呼ぶ。

さんってば、今日はずっと楽しそうにしてたから誘ってよかったなーって思った。んで、さんの紳士っぷりにちょっとへこんだ。さん、ずりーよな。カッコイイも可愛いも持ってんだし」

「どうした、高尾?」

何かあったのかと心配し始めるに高尾は苦笑した。

「オレは、さんが可愛いと思う。正直、そんじょそこらの気合の入った女子なんかよりも全然可愛い。一番だね」

「...妹ちゃんは?」

の返しに思わず高尾は言葉につまり、

「え、と。殿堂入りなので、ランキングなし」

と思わず答えた。

(やばい...)

高尾は密かに後悔していた。

だが、目の前のは声を上げて笑い始める。

「あ、あの。さん?」

「うん、そっか。ありがとう」

そう言ってにこりと微笑む。

「え..と?」

何が『ありがとう』なのか分からない。

けど...

(もいっこ。『綺麗』もプラスだ)

彼女の表情を見て、高尾は胸を押さえて俯いた。

「あのさ、さん。オレ、本気でさん可愛いと思ってるし、本気で口説こうと思ってんだけど」

何とか口にしたその言葉。

高尾は覗うように彼女を見た。

彼女は高尾ではなく、窓の外を見ていた。

彼女の顔は赤くて、それは夕日のせいではないと思いたい。

いや、思うことにした。

「だから、覚悟しててよ」

途端に自信に満ちた声音でそう言われては思わず高尾を見た。

彼女はなんとも複雑そうな表情を浮かべている。

「高尾」

「な、何?」

「顔が赤いぞ」

にやりと笑って彼女が指摘する。

「夕日のせいだって」

「そっか。夕日のせいか」

彼女はそう言って笑った。


うつくしきもの。赤くなった後輩の顔。

の心に、それがひとつ追加された。









桜風
13.6.3


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