| 寮に帰ると、結局玲央よりも先に帰っていたチームメイトが心配そうに声をかけてきた。 ジャージを着ていない彼に驚いた声もあったが、説明すると納得された。 「で、猫は無事だったんだ?」 そう聞かれて、そういえば詳しい話を聞いていなかったことに気づいた。 ただ、命が助かったのはわかった。 (服を返しに行くときに、様子も見させてもらえないかしら?) 一応、元気になった姿を見ておきたい。 術後の経過観察で何日か入院という話もしていたから、近々足を運ぼうと考えた。 玲央がそこに足を運べたのは次の休みだった。 行く途中にコンビニでアイスを購入したが、もしかしたら、これは安すぎないかと思ってケーキ屋に入ってシュークリームを購入した。 事務員に岡田君から借りたシャツとお土産のシュークリームを渡すと愛想よく受け取ってもらえた。 「えっと、この間の」 「先生なら、庭に回ったらいると思うわよ」 事務員に言われた通り、一度外に出て庭に回ると庭石に座ってぼーっとしている彼女の姿を目にした。 「こんにちは」 声をかけると彼女は緩慢な動作で振り返る。 「ああ、この間の。どうしたの?」 「お借りしていた服を返しに来たんです」 「あー、いいのに」 自分が貸したわけでもないのに、彼女はそういって笑う。 「あと、お礼にシュークリームの差し入れを持ってきたので、事務員さんに預けています」 「あらあら。岡田君様様ね」 「それと、これ」 そういってコンビニの袋を彼女に渡した。 「ん?」 「アイス」 「どうしたの?坊やがそんなに頑張っちゃって」 「最初こっちを買ったんですけど。お礼っていうんじゃちょっと安すぎるかなって」 「気持ちでしょ、気持ち」 「せっかくなんで、一緒に食べません?」 玲央が言うと「いいの?」と彼女が袋の中を覗き込む。 「見事に抹茶...」 「お茶は嫌いな人はいないって...」 「ま。名産だしねー」 そういって彼女は笑ってカップアイスをひとつ取り出した。 じっとパッケージを見つめる彼女に 「でも、嫌い、とか?」 と不安になって声をかけると彼女は玲央を見上げて苦笑した。 「カロリー確認」 「なぜ?」 「ダイエットなう」 「...なんで女の子ってそんなにダイエットしたがるのかしら」 玲央がつぶやくと彼女は噴出した。 「なに?」 怪訝に彼女を見ると 「や、あたしってまだまだ『女の子』でいいんだーって思って」 と苦笑する。 「違うの?ちなみに、いくつなの?」 「ハタチ」 彼女はしれっとそう返す。 アニマルドクターである以上、大学は出ているはずだ。だから、ハタチはないだろう。 「ウソ」 そう指摘すると彼女は笑って 「明らかにハタチ以上の女が『ハタチ』って答えたら、聞くなって意味なのよ?」 という。 「ごめんなさいね、デリカシーがなくて」 「ハタチで信じてくれさえいればいいのよ」 「学歴を偽ってることになると思うんだけど?」 「アイター!そりゃ拙い」 玲央の指摘に彼女は軽く返す。 「ねえ、..センセイって名前?」 アイスを口に運んでは「うまー」と言っている彼女に問うてみた。 「苗字。名前は」 「じゃあ、センセイって呼んでもいいかしら?」 「あなた、患者でもスタッフでもないから『センセイ』じゃなくていいけど?」 「じゃあ、さんって呼ぶわね」 「...あたし、坊やの名前聞いたことあったかしら?」 「まだよ。実渕玲央。坊やっていうのはやめて」 少しだけ強い語気で玲央が言う。 すごく軽んじられている気がしていい気がしない。 「ごめん。でも、そうか。君は王様か」 (...王様?) 頬に手を当てて彼女の言葉の意味を考えていると 「レオ。ライオンでしょ?ならば、百獣の王ではないですかー」 と彼女が言う。 「ああ、そういうこと。ところで、あの三毛ちゃん。元気になりました?」 「あ、うん。今日、連れて帰るよ。タイミング良かったね、見てく?」 「ええ、会いたいと思っていたの」 「ちょっと待ってね。これ食べてから」 そういって彼女は先ほどよりも少し手を速めてアイスを口に運び始める。 「ゆっくりでいいですよ」 「うん、ありがとね」 玲央の気遣いに礼を言った彼女は、そのままのペースでアイスを完食し、 「さ、ご対面」と言って立ち上がったのだった。 |
桜風
13.6.24
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