| 「それで?忙しかった学生さんが何故、こちらに足をお運びになったのかしらー?」 「これ」 彼女の問いに、玲央はバッグから先ほど購入したばかりの猫じゃらしを取り出した。 「キンタに」 すでにその続きが「ロー」でも「マ」でも構わない呼び方となっている。 「猫じゃらし」 彼女は少し嬉しそうに声を漏らした。 「ええ、ペットショップに入ってみたから」 「へー、デート?」 嬉しそうに受け取った彼女の一言に少しむっとした。 「違うわよ」 「そうなの?玲央くんモテるでしょうに」 彼女が言う。 「女の子の友達は多いほうだと思うけど。カノジョという子はいないわね」 どこか言葉がとげとげしくなってしまった。 自覚しているが、止められてなかった。 「へー」 「向こうは同性に見てる節あるし」 「ああ、しゃべり方が優しいからね」 彼女が言う。 「女の子は安心するんでしょうね」 「さん..も?」 思わず問う。 「ん?うーん、あたしはどっちでも気にならないと思うよ。医者なんてまだまだ男社会で、それに乗り込んでいったあたしが男に怯むかってんだ」 彼女は笑ってそういう。 言われてみればそうだと思った。 今でも岡田君を顎で使っている感がある。 彼女のほうが先輩だからそうなるのかもしれないが、彼女自身が物怖じしそうにない性格だ。 「しかし、これはキンタ喜ぶよ。ありがとう。いくら?」 「キンタへのプレゼントよ。受け取って」 「悪いね、学生さん」 そういって彼女は素直に受け取った。 「キンタは元気?」 「家の中を破壊工作してくださっていますよ。ちょっと、元気ありすぎ」 肩を竦めて彼女は苦笑していう。 「ほんとはね」 不意に彼女が言う。 「ん?」 「玲央くん。もう来ないと思ってたのよ」 「...どうして?」 問い返した玲央に彼女は苦く笑う。 「あの日に来てたの、聞いたから」 思い出して玲央は俯く。 「ごめんなさい。ここはさんの仕事場で...私、そこまで深く考えて此処にきてなかったから」 そういった玲央の頭を彼女が優しくなでた。 「やだなー。こっちだって、玲央くんにただで来てもらってないじゃない。これまでどれだけ蛍光灯を換えてもらったと思ってるの」 「...私の価値、蛍光灯交換だけ?」 俯いたまま玲央が言う。 彼女は笑った。 「まあ、それは半分。でも、玲央くんは結構その場の状況を察して動いてたでしょ。あたしたちだって邪魔だったらとっとと追い出してたわよ。今、玲央くんが言ったように遊び場じゃないからね。でも、玲央くんに助けてもらっていたところも確かにあるのよ」 「具体的にどこ?」 玲央が問う。 「...さあ?」 「さん」 責めるように名を呼ぶと彼女はやっぱり笑って 「だって、なんとなくだもん」 という。 彼女は、理系とは思えないものすごくゆるい発言を口にする。 そのたびに脱力してしまうのだが、必ずそのあと笑ってしまう。 「でも、よかった。さん元気そうで」 そういって玲央が顔を上げると彼女は驚いたように目を丸くしていた。 「さん?」 「ん?」 「どうしたの?」 「うん。どうして、突然そう言ったの?」 彼女にとって意外な言葉だったらしい。 「さっき、院長先生が心配そうにしてたし。さん、大抵が大雑把で適当だけど、動物に対する姿勢だけはすごく真摯だから。だから、へこんでるんじゃないかなって」 玲央が言うと彼女は苦笑した。 「ま、ほんとはそこそこ落ち込んでんだけどね」 「そうなの?」 「そうなのよ」 そういってどこか力が抜けたように笑った。 「そうは見えなかったけど」 「大人ですから。自分をだますのは得意なの」 「...さみしいこと言うのね」 玲央の言葉に彼女は力なく笑う。 「玲央くんはいい子ね」 「今日ばかりは、子ども扱いされても文句を言う気にはならないわ。ついでも甘えてもいいのよ?」 「さすがに子供に甘えるほどの落ち込みでもないのよ」 笑ったの表情は、言葉ほどの強気な様子は見られず、「...残念ね」と、玲央は心からの言葉を呟いた。 |
桜風
13.7.15
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