招き猫 7





 あの日から、これまで通りに玲央は病院を訪れた。

それを歓迎されているのがわかっているから少し気も楽になったのだ。



「あら?」

「今日は先生お休みよ」

受付のところで事務員に言われた。

「珍しい..ですよね?」

「珍しいわね。と、行っても上司の命令っていう感じね」

苦笑して彼女が言う。

「上司..って院長先生ですか?」

玲央が問うと彼女はうなずく。

「まあ、働きすぎだったからね、先生は」

急患の連絡があったら、場合によってはこの建物の中にいる院長先生よりも早くオペの準備が整うこともあるとか。

「それって、院長先生の方に問題が...」

「ま、私もそう思ってるんだけどねー。ともかく、ワーカーホリックなところがあるから、休ませたみたい。残念だったわね」

最後、からかうように付け足された言葉に少し戸惑いながらも、玲央はいつも通り、その病院で過ごした。


「おひさしー」

次の機会に病院に行くと庭から声がした。

「あら?」

玲央はそちらに足を向ける。

「こんにちは、さん」

「おひさしー」

振り返ってが笑う。

最初の「おひさしー」は、常連の野良猫に声をかけていたようだ。

「この猫ちゃんもよく遊びに来るわね」

「ん?うん。たぶん、元は飼われていたんだろうね。人懐っこすぎる」

困ったように彼女が笑う。

「そういえば、お休みどうでした?」

玲央が問う。

「んー、院長先生は、かっこいい彼氏がいるんだから外に出ていけって言ってたけど。いやぁ、無理無理。お互い家の中でゴロゴロするのが好きだから」

苦笑して彼女が言う。

「カレシ?いたの...」

なぜこんなに驚いているのか自分でもわからないくらいに驚いて玲央は問い返した。

「ん?院長先生の言うカレシって、この子のことだと思うよ?」

そういって彼女は携帯を見せてきた。

待ち受け場面を見て玲央は目を細める。

「ああ、イケメンの」

「うん、キンタローさん。ますます男に磨きがかかって。とりあえず、この間のお休みは日がな一日この子とごろごろしてたわー」

ふにゃ、と笑いながら彼女が言う。

幸せそうな表情で、玲央はふふふと笑った。

なんだか、いつも自分を子ども扱いしている彼女が子供のような表情をしたのだ。

なんだかちょっと嬉しかった。



「玲央くん、そこスペルミス」

「え?やだ、ほんと...」

テスト期間中は、部活もできないためほぼ毎日通い、勉強を見てもらう日々でもあった。

お礼は前払いでシュークリーム、後払いでチュパチャプスとなっている。

「玲央くん、ガチの文系なんだから、英語のケアレスミスは痛いよー。ま、お受験しないならそこまで深刻にならなくてもいいかもしれないけどね」

「え、実渕君は受験しないの?」

と玲央の様子を面白そうに見ていた近所の大学に通う坂本君が問う。

今日は宿直があるので、彼がバイトに入っているのだ。

「まだわかりません。まあ、推薦が来たらそれで行くかもしれませんけど」

「推薦?て、何の??」

「バスケです」

玲央の言葉に「へー」と彼が声を上げる。

「だから、背が高いんだ」

「バスケしてるから背が高いんじゃなくて、背が高いからバスケしてんじゃないの?てか、キミもレポートがあるって言ってたでしょ」

呆れたようにが言うと

先生、オレのレポートも見てよー」

と甘えたように言う。

その様子に実渕は少し面白くないと思った。

「ばか、やめとけ。お前のレポートが赤く染まる」

帰り支度を終えてあいさつに来た岡田君がそういった。

「マジっスか?」

「オレは、本気で泣いた」

「あら、おかげで『優』をもらったんじゃなくて?」

「『可』でもよかったんですよ、オレは。んじゃ、お先です」

岡田君のあいさつにそれぞれが言葉を返し、彼は帰って行った。









桜風
13.7.22


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