招き猫 8





 しばらくすると「はい、お開き」と彼女が勉強を終わらせる。

まっすぐ帰ればちょうど寮の門限ぴったりの時間だ。

「送っていきましょうか?」

「結構よ。門限破れないでしょ?」

彼女にはいつもそういって断られる。

「でも、女性の夜歩きは危ないわよ」

「大丈夫よ。それに、子供の夜歩きも危ないわ」

子供というには、聊かサイズが大きすぎる玲央に向かって彼女はそういう。

いつも子ども扱いされて少し面白くないが、実際問題、門限を破れば部活停止処分となる。

それは非常に拙い。


「ねえ、さん」

帰りの支度をしながら玲央が声をかける。

「なに?」

「今度のテストでいい成績を取れたら、ご褒美がほしいわ」

「は?テスト勉強は玲央くんのためにしているものでしょ?ならば、あたしが玲央くんにご褒美をあげる口実はおかしくない?」

「ないない。ね、お願いキンちゃんに会いたいの」

「...あー、キンタ?」

彼女はしばらく悩む。

(やっぱりダメかしらねぇ)

「いい成績ってどの程度?」

不意に問われて

「うちの学校って、各教科と総合で成績優秀者上位50名が掲示されるの。だから、それに全部名前が上がること。どうかしら?」

「ゆとり世代にこれまた厳しいことしてるのねぇ」

彼女は苦笑していた。

「いいよ、玲央くんが全教科プラス総合で50位以内に入ったら、キンタここに連れてきてあげる」

さんの家で会いたいわ」

「...は?」

普段あまり聞かない彼女の声のトーンで言われて、玲央はちょっと怯む。

「来るの?うちに??」

「め、迷惑..かしら?」

「...掃除しなきゃ」

「そこ?!」

彼女は玲央が来ることが嫌なのではなく、誰かが自分の家に上がるために掃除をするのが嫌なのだ。

「私が行って一緒にお掃除してあげてもいいけど」

「さすがに思春期真っ只中の、夢見る坊やに今の部屋は見せらんないわ」

遠い目をして彼女が言う。

どういう状態なのか、具体的なことが全く想像できない。

「え、と。どうかしら?」

「結果が出て1週間待ってくれるかしら?そしたら、お客様が足を踏み入れるスペースくらい何とかしてみる」

「いいの?!」

「でも、あたしが非常に苦労するみたいだから、ハードルあげます。25位以内」

「...え?」

「25位以内。あたしだって、掃除したくない!!」

高らかに彼女はそう宣言した。

「わかったわ。全教科プラス総合25位以内ね。絶対よ!」

受けて立った玲央に

「ま、今から少しずつ掃除したらクローゼットに突っ込むくらいはできるようになるでしょ」

と彼女がつぶやく。

「...え?」

そこまでひどいと思っていなかった玲央の口から声が漏れた。



さん!」

試験明けで時間が取れた最初の日、玲央は弾んだ声で彼女を訪ねた。

「さては、いい線行ったね?」

受付で事務員がにやりと笑う。

玲央はぱちんとウィンクをして彼女を探した。

「はいはい、ここでーす」

声が聞こえたところに足を向けた。倉庫だ。

「すごい、こんなにたくさんあるんですね」

「うん、あるよー。それで?」

「証拠写真、撮ってきましたよ」

そういって玲央が携帯を渡してきた。

成績発表の時にきちんと証拠として撮っていたのだ。

物理が危なかったが、何とかなった。

理系科目は彼女にみっちり教えてもらっているので、落とすわけにはいかない。

「さすが、洛山高校バスケ部さん。言ったらやるね!んじゃ、いつ来る?」

「いいの?」

「...そういう約束じゃなかった?一応、クローゼットに全部突っ込めるくらいにはなったし」

(本当にそういう片づけ方をするつもりだったのね...)

玲央は心底呆れてため息を吐いた。









桜風
13.7.29


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