| しばらくすると「はい、お開き」と彼女が勉強を終わらせる。 まっすぐ帰ればちょうど寮の門限ぴったりの時間だ。 「送っていきましょうか?」 「結構よ。門限破れないでしょ?」 彼女にはいつもそういって断られる。 「でも、女性の夜歩きは危ないわよ」 「大丈夫よ。それに、子供の夜歩きも危ないわ」 子供というには、聊かサイズが大きすぎる玲央に向かって彼女はそういう。 いつも子ども扱いされて少し面白くないが、実際問題、門限を破れば部活停止処分となる。 それは非常に拙い。 「ねえ、さん」 帰りの支度をしながら玲央が声をかける。 「なに?」 「今度のテストでいい成績を取れたら、ご褒美がほしいわ」 「は?テスト勉強は玲央くんのためにしているものでしょ?ならば、あたしが玲央くんにご褒美をあげる口実はおかしくない?」 「ないない。ね、お願いキンちゃんに会いたいの」 「...あー、キンタ?」 彼女はしばらく悩む。 (やっぱりダメかしらねぇ) 「いい成績ってどの程度?」 不意に問われて 「うちの学校って、各教科と総合で成績優秀者上位50名が掲示されるの。だから、それに全部名前が上がること。どうかしら?」 「ゆとり世代にこれまた厳しいことしてるのねぇ」 彼女は苦笑していた。 「いいよ、玲央くんが全教科プラス総合で50位以内に入ったら、キンタここに連れてきてあげる」 「さんの家で会いたいわ」 「...は?」 普段あまり聞かない彼女の声のトーンで言われて、玲央はちょっと怯む。 「来るの?うちに??」 「め、迷惑..かしら?」 「...掃除しなきゃ」 「そこ?!」 彼女は玲央が来ることが嫌なのではなく、誰かが自分の家に上がるために掃除をするのが嫌なのだ。 「私が行って一緒にお掃除してあげてもいいけど」 「さすがに思春期真っ只中の、夢見る坊やに今の部屋は見せらんないわ」 遠い目をして彼女が言う。 どういう状態なのか、具体的なことが全く想像できない。 「え、と。どうかしら?」 「結果が出て1週間待ってくれるかしら?そしたら、お客様が足を踏み入れるスペースくらい何とかしてみる」 「いいの?!」 「でも、あたしが非常に苦労するみたいだから、ハードルあげます。25位以内」 「...え?」 「25位以内。あたしだって、掃除したくない!!」 高らかに彼女はそう宣言した。 「わかったわ。全教科プラス総合25位以内ね。絶対よ!」 受けて立った玲央に 「ま、今から少しずつ掃除したらクローゼットに突っ込むくらいはできるようになるでしょ」 と彼女がつぶやく。 「...え?」 そこまでひどいと思っていなかった玲央の口から声が漏れた。 「さん!」 試験明けで時間が取れた最初の日、玲央は弾んだ声で彼女を訪ねた。 「さては、いい線行ったね?」 受付で事務員がにやりと笑う。 玲央はぱちんとウィンクをして彼女を探した。 「はいはい、ここでーす」 声が聞こえたところに足を向けた。倉庫だ。 「すごい、こんなにたくさんあるんですね」 「うん、あるよー。それで?」 「証拠写真、撮ってきましたよ」 そういって玲央が携帯を渡してきた。 成績発表の時にきちんと証拠として撮っていたのだ。 物理が危なかったが、何とかなった。 理系科目は彼女にみっちり教えてもらっているので、落とすわけにはいかない。 「さすが、洛山高校バスケ部さん。言ったらやるね!んじゃ、いつ来る?」 「いいの?」 「...そういう約束じゃなかった?一応、クローゼットに全部突っ込めるくらいにはなったし」 (本当にそういう片づけ方をするつもりだったのね...) 玲央は心底呆れてため息を吐いた。 |
桜風
13.7.29
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