| 「あれ、レオ姉。出かけんの?」 休日は寮を出るときに帰寮予定時刻をかいて出て行かなくてはならない。 その手続きをしているとチームメイトに声をかけられた。 「ええ」 「なんか、ちょっと気合入ってんじゃん」 笑って彼がそういい、「そうかしら?」と玲央は首をかしげる。 そんなつもりなかったが... 寮から出て少し歩くと彼女の住んでいるというマンションにたどり着いた。 意外とご近所さんだった。 (だから、うちの学校のことよく知ってるのね...) そう思いながらインターホンを押すと彼女がエントランスのロックを解除してくれた。 セキュリティもしっかりしているところのようだ。 彼女に教えてもらった部屋の前に立って、なんとなく手で髪を梳いているとドアが開いて彼女が顔を出してきた。 「おおう、来てた。入って」 「私、まだインターホン押してなかったと思うけど?」 「キンタがそわそわし始めたし」 「キンちゃん?」 ひょっこり顔をのぞかせてみるとガラス戸をカシカシと前足で掻いているシルエットが見えた。 「なので、早く入って。あそこ開けてあげたい」 「え、ええ。そうね」 慌てて玄関に足を踏み入れた。 「お邪魔します」 そういって家に上がる。 (わ...) なんだかちょっとわくわくしてきた。 高校に上がってから友人の家にすら行ったことがない。 こういう、人の家に上がるという感覚は久しぶりだ。 「ほれ、キンタ。命の恩人だ」 「なう〜」 鳴いてキンタローは玲央に突進していった。 この日のために新しく購入したおもちゃで、キンタローと遊びつつ部屋の中を眺めてみる。 なんだか、本当にやっつけで片づけた感じがありありと感じられた。 「全部クローゼットに入ったんですか?」 「押入れとね」 彼女は肯定した。 「お掃除、苦手なの?」 玲央が問う。 「苦手っていうか、時間を割きたくないっていうか。ひとつひとつ片づけておけば掃除が楽なのは知ってるんだけどね。それを面倒くさがっちゃうから、ま、今回みたいなことになるんだよね」 苦笑して彼女が答えた。 「お茶入ったよ」と声をかけられて玲央はテーブルについた。 キンタローもついてきた。 「一人暮らしにしては、少し大きめ?」 「職場の近くでペットOKなところを探したら、ここしかなかったのよ。ちょっと頑張ってます」 「でしょうね。ファミリーマンションでしょ?」 「うん。うちの給料そんなによくないから、結構背伸び。けど、まあ。おかげでキンタももらえたし」 「三毛猫って幸運の象徴なんですってね」 不意に玲央が言った。 「ん?グーグル先生にいろいろ教えてもらったの?」 「そうね」 彼女の言葉に玲央はうなずいた。 「三毛に限らずさ。アニマルセラピーってのがあるくらいで、やっぱり動物っていたら和むのよ」 そういってキンタローののどをなでると彼は気持ちよさそうに喉を鳴らした。 「さんは、なんで獣医さんになったの?」 「んー?進路相談?」 玲央の問いに彼女が返す。 「そういうんじゃなくて。なんでかなーって」 「なんでだろうね。ただ、動物って、素直でしょ?建前ないじゃない。本能に忠実で。そういうのある意味安心するっていうのもあるのかな?」 そういって笑った彼女の笑顔は少し泣きそうで、でも彼女はそれに気づいていないようで、玲央は何も言えなかった。 「そうだ。ねえ、よかったら今度の祇園祭一緒に行きません?」 話を変えるきっかけに玲央が誘ってみると、彼女は「んー」と意外と渋った。 「ダメかしら?」 「祇園さんは人が多いしね。暑いし」 「あら、京都の夏は基本的に暑くてどこも人が多いじゃない」 「まあ..盆地で観光が産業だからねぇ」 そういって彼女は苦笑して、右手を挙げて人差し指をたてた。 「浴衣はやだ。面倒だし」 「いいわよ」 加えて中指をたてる。 「急患があったら、玲央くん放ったらかして飛んでいく」 「それがお仕事じゃない」 「ならいいわよ。祇園さん行くの久しぶりだし。玲央くんは浴衣で来るの?」 「さすがにこっちに持ってきてないから」 「あなたスタイルがいいから似合うでしょうね」 彼女が言うと 「私は、正直さんの浴衣姿が見られないのは残念よ」 と玲央がこぼす。 「正直面倒なのよね。着るとかそういうのは良いけど、その後のお手入れとかね」 「あら、一人で着られるの?」 玲央が意外だといわんばかりに問うと彼女はニコリとほほ笑んだ。 「人生経験豊富ですから」 |
桜風
13.8.5
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