| コンビニで彼らと別れ、買い物を済ませて彼女のマンションに戻る。 「さん」 玲央が声をかける。 「んー」 「さっきは、ごめんなさい」 「ううん。ありがと」 玲央の言葉に彼女が返す。 そのまま、玲央はなんといっていいか分からず口を噤み、彼女も何も言わなかった。 「ただいまー」 家のドアを開けた彼女が言うと「にゃ〜」と中から返事がある。 「いいよね、ただいまって言ったら返事があるんだよ」 彼女はそういって後ろにいる玲央を見上げて微笑み、家に上がる。 それに続いて玲央も彼女の家に上がった。 「ビールビール」 先ほど購入したビールをそのまま持ってそれ以外は冷蔵庫と冷凍庫にしまう。 「ちゃんとクローゼットに全部入ったのね」 「入れたのよ。開けたら最後、余計なものも一緒に雪崩を起こして出てくるわよ。だから、開けちゃだめ」 そういって彼女が笑う。 「適当に座って」 「ええ。あ、お土産があるの」 「ん?」 そういって彼女に渡したのは、ご当地ゆるキャラのストラップだった。 「あ、かわいい」 「ザ・お土産っていうのは、さっき病院に渡してきたんだけど」 「ああ、明日行ったらもうないね。岡田君がああいうの大好きだから」 苦笑してが言う。 「そうなの?さんがいるかどうか確認してから渡せばよかったわ」 玲央が言うとは笑う。 「大丈夫。これもらったし」 そういって彼女は何かつけられるものを探して、鍵を取り出した。 鈴だけがついているそれにストラップをつける。 「わ、女子力上がった?」 「さん、そういうの気にするの?」 「岡田君がうるさいの。面倒だから、適当に合わせてるけどね」 苦笑して彼女が言う。 がキッチンで玲央のためにお茶とお茶請けを用意して戻ってきた。 「君は、未成年」 「ビール勧められたらどうしようかと思ってました」 肩を竦めて玲央が言うと 「さすがに、バスケ部レギュラーに飲酒を勧められるほどひどい先輩ではないですよ」 と彼女は笑って返す。 「ねえ、さん」 ふと思い出した先ほどの寮監室の彼らの話。 (聞かないって決めてたのに...) 「今日ね、ここに来る前、寮監室で..その...さんの話をさっきの先輩たちがしていてね」 「あー、はいはい。うん、に戻った話ね。ある程度盛っているとは思うけど、大筋はあってるはずよ」 さらりと彼女が肯定した。 だが、こういう言い方をしたということは詳しいことは、言いたくないのかもしれない。 だから、玲央は言葉をのんだ。 「高校の時に付き合ってた人が、地元では結構大きな家、名士っていうのかな?家柄だけはものすごくよかった。彼自身、いい人だとは思ってし、あたしも家はともかく彼のことが好きだった。周りはあたしを玉の輿って羨んだし、親もそれをあてにしたみたい。 ただ、そういう大きな家ってのは子孫繁栄が必至で、だから奥さんになる人は子供を産むのが宿命づけられていたの。できれば男。短大卒業して、すぐに結婚して、毎日毎日「子供はまだ?」と言われ続けて。そういう変なプレッシャーが本当に気持ち悪くて、苦しくて。だから、毎週連れて行かれていた産婦人科の先生に頼み込んだの。子供ができないってことにしてくれって。先生は、はっきりとそう診断でいないのに言い切れない、だけど、可能性なら示唆することはできるって言ってくれて。子供ができない可能性を先生から聞いたら、あっさりとあたしはあの家にとっていらない物になったの。あの苦しかった1年は何だったんだろって思った。 彼はお義母さんから言われたとおり、あたしと離婚してすぐに次の奥さん探してた。そのあと何人か奥さん迎えたらしいけど、子供ができなかったらしいわ。たぶん、種のほうがなかったのね」 「あの、さん」 「院長先生ね、兄の知り合いのお父様なの。あたしの話を聞いて、「死ぬ気で頑張るなら、面倒見てやる」って言ってくれて。1年死ぬ気で勉強して、編入って形で大学に入って色々あって、今ここにいるの」 そういって、彼女は笑った。 「ごめんねー、かっこつけさせてあげられなくて」 彼女の話を聞き終わった玲央は俯き、そして、 「...ねえ、さん」 と声をかける。 「なに?」 「私、今高校2年生なの」 顔を上げて玲央がそういう。 「うん、知ってる」 「でも、あなたのこと、守りたいって思うの」 玲央の言葉に彼女は瞳を閉じ、そして、ゆるく首を振った。 「やめときなよ」 「最初はそう思っていたのよ。いくつも年上のお姉さんだし、私じゃ役不足かなって。 でもね、そんな建前いらないわ」 そういって玲央は腕を伸ばして彼女を抱きしめる。 「好きになっちゃったんだもの。しょうがないわよ」 「あのね、あたしは玲央くんよりもかなりのお姉さんで。しかも、1個バツがついてる人なのよ」 やんわりと玲央から離れようとする彼女を彼は腕に力を込めて抱きしめた。 「バツだろうと、丸だろうと三角だろうと四角だろうと、花丸だろうと。何がついてても構わないわ。だって、仕方ないじゃない。もうさんのこと好きなんだもの。だったら、私はそれを気にしないし、それに、それを全部ひっくるめてさんでしょ? 青臭いって言われるかもしれないけど、それでいいわ。まだまだ青いガキンチョだもの。 でも、そのガキの本気、すぐに笑ってられなくなるんだから」 自信に満ちた声で玲央が言う。 「玲央くんは、あたしのことを『女の子』って言ってくれたことがあるけど、実際そんなものとっくの昔にすぎてるのよ?」 「そんなこと、私は気にしないっていうか、どうでもいい。さっきも言ったわ。さん、あなた私に捕まったのよ。自覚して、あきらめて」 ため息を吐いた彼女のそれを答えと受け取った玲央は微笑んだ。 これでも拒否されてしまったら、と心配していた。そうなると、もう何も言えないしできない。 「でも、少し時間頂戴ね」 玲央が言うと、 「ま、あと5年くらいなら」 と彼女が返した。 「あら。最短」 「お姉さんにはあまり時間がないのでー」 「ふふふ、わかったわ。任せて。私がさんとキンちゃんを幸せにするわね」 玲央の言葉に「にゃう」と近くで大人しくまどろんでいたキンタローが返事をするかのように鳴いた。 玲央と彼女は驚いて顔を見合わせて噴き出す。 始まりは確か、この猫だった。 「キンちゃんは私に恋を招いてくれた、招き猫ね」 彼女を片腕で抱きしめたまま腕を伸ばしてキンタローの頭をなでる。 まどろんでいる彼は片目を明け、少しだけ得意げに「にゃあ」と鳴いた。 |
桜風
13.9.2
ブラウザバックでお戻りください