| 夏休みを目前に控えた休日の夕方。 インターホンが鳴り、応じた火神の前に立つのはで。 「何?」 「火神くん、夏休み暇?」 と彼女が問う。 「何、突然」 訝しんで聞いてみると 「お願いがあるの」 と言われる。 「お願い?」 彼女の口にした言葉を繰り返すことにより、疑問を表現するとコクリと頷いた彼女は「うちの子の面倒を見てもらいたいの」と言われて反応に困った。 「い、犬か?」 「ううん」 「んじゃ、猫」 このマンションは動物の飼育を禁止していないため、たまにマンションのエレベータで犬の散歩帰りとかに出会って嫌な目に遭う。 「観葉植物」 「あー、木?」 「う、うーん。まあ。木だよね」 頷いた彼女は少しその言葉に違和感があるのか首を傾げていた。 「別にいいけど。あ、でも。合宿があるって言ってたな。いつからだよ?」 「夏休み入ってすぐから、終わる1週間前くらいまで」 思いのほか長期だ。つまりほとんど丸々夏休み期間中ということになる。 「ずっと?」 「親との約束」 肩を竦めていうに「あ、アメリカ」と火神は納得した。 納得したが、 「親との約束があるなら、なんで木なんて部屋に置いてんだよ。分かってんだろう、夏休みに渡米するって」 「元々親がこっちに住んでた時に買った物なの。去年は、リコにお願いしたんだけど。持ち歩くのも大変だし、毎年ってのは申し訳ないというか...」 言ってることの理屈は分からないでもないが... 「あんま細かいこと得意じゃねーんだけど」 「あ、うん。そんな感じよね」 ニコリとほほ笑んで彼女は同意した。 「おい」と抗議の意味を込めて言うと「あ、ごめん」と一応は察した。 「けど、オレさっきも言ったけど。合宿があるんだけど」 「どれくらい?」 「あー、えーと。多分1週間くらい?」 「それくらいなら行く前に十分水をあげてれば持つよ。元々南の方の植物だし」 安心したような口調の彼女の様子から、どうも自分が引き受けると思い込んでいるらしいと察した火神はため息をついて、無駄な抵抗を諦めた。 の渡米の前日に火神は彼女の家のインターホンを押した。 「よろしくー」 そう言いながらドアを開けてきた彼女に肩を竦めて「どれ?」と問う。 火神は明日部活ということで、今日から預かるということになった。 「まあ、上がって」 そう彼女に促されて「お邪魔します」と言って玄関で靴を脱ぐ。 造りは自分のところと同じような感じだった。 ただし、雰囲気が全然違う。 「なに?」 「や、雰囲気違うなって」 きょろきょろしているのを見られて火神は少し居心地悪そうに言う。 「あー、だって。火神くんちは何もないんだもん」 苦笑して彼女はそう言った。 そして「この子」と言って紹介してくれた。 「なあ、去年カントクに面倒を見てもらったって...」 結構立派なものだった。卓上の、かわいらしいものを想像していたので、ちょっと驚いてしまったのだ。 「うん。去年のリコと同じ反応をありがとう」 唖然とした表情を浮かべている火神にはそう言った。 (だろうな...) 人に気軽に頼むにしては少しサイズが大きい。 「まあ、リコのところは、お父さんに車を出してもらったんだけどね。さすがに今年もお願いってのは図々しいかなって」 「...ま、そうだろうな」 そう言って火神は膝を着いて 「んじゃ、持ってくぞ」 と言いながらそれをそっと持ち上げる。 「うん、ありがとう」 両手が塞がる火神の前を歩いてドアを開けて歩きながらは礼を言う。 「水遣り忘れることもあるかもだけど、いいんだよな」 「約ひと月、全く水を遣らないこと確定に比べれば」 そう言っては頷いた。 「んじゃ、まあ。わかった」 そう言って、火神はが開けたまま抑えている彼の家のドアをくぐる。 「お土産は何がいい?懐かしいものあるんじゃないの?」 「いい。そういうの、たまに親父が送ってきてるから」 「なるほど。じゃ、よろしく」 軽く言った彼女に「おう」と火神も軽く応じて玄関先で別れた。 |
桜風
14.8.18
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