| 制服が冬服になって暫く経つと朝晩は冷え込み、吐く息が少し白くなる。 「鍋したい」 ポツリとこぼれた自身の独り言が耳に入った。そうなると俄然鍋の気分になる。 休日の朝ではあるがきっと起きているだろうと思って隣のインターホンを押してみた。 「なに?」 出てきた火神はジャージの上着に袖を通しながら出てきた。 「鍋したいと思わない?あ、今日部活?」 「試合。って、鍋?すりゃいいじゃん」 「何言ってるのよ。一人鍋なんて寂しいじゃない。付き合ってよ」 「...いいけど。ウチ、でっかい鍋ねぇぞ」 「ウチにある」 が言う。 「んじゃ、先輩んちでやるか?」 「火神くんちのキッチンの方が広いのよね」 「そうなのか?」 のところは調味料を色々と購入して置いているが、火神のはあまりものが置いていない。 広さ的には本来変わらないが、物の大きさによって使い勝手は違う。 「じゃあ、先輩んちの鍋持ってうち来るか?」 「そうするー。コンロは?」 「ある」 「何でコンロはあるの?」 首を傾げて言うに「でっかい鍋がないだけなんだよ」と返した火神は振り返ってリビングの時計を見た。 「やべ」 「あ、時間?」 「おう、じゃあ後でな」 「買い物しとこうと思うんだけど、肉派だよね?」 「もち!」 「りょうかーい」 そう言っては火神の家のドアを閉めて自宅に帰る。 「試合かぁ...」 玄関で靴を脱ぎながら呟いて、リビングに移動してパソコンの電源を入れた。 特に用事もないし、と思ってちょっと出かけることにした。 向かった先は、体育館。 本日高校バスケの試合がある会場だ。 何処かピリピリと殺気立っている当校のチームに首を傾げる。 同学年の部員たちとはそれなりに話をしたことがある。 ちょっと短気なところもあったりするが、それでも、彼らは穏やかな方だと思う。 不思議だなーと思っていた。 「おや、黒子くん」 ちらちらと見えたり見えなかったり。 それが彼の特徴だとリコが言っていた。 「不思議ねぇ...」 殺伐とした空気の中、試合が終わった。 何だか、見る試合を間違った気がする。 そして周囲の会話を耳にして「あら」と呟く。 この試合に勝てたから冬の全国大会への出場が決まったらしい。 大切な試合を見たことになる。 以前から、リコに「見に来てよ」と言われていた。 が黒子とそこそこ仲が良いのを知っているから誘っているようだった。 何より、自分のチームを自慢したいのかもしれない。監督として。 高校生で、監督というのは珍しいらしい。これは伊月から聞いた。 まあ、そうだろうなと納得する一方で、じゃあなんでリコは監督をしているのだろうかと不思議に思う。 そのあたりの経緯は聞いたことがない。 積極的に聞こうと思っていないのだから仕方ない。人の家の事情を興味本位で聞いてはいけないというそんな感覚なのだ。 「さて、急がなきゃ」 火神が帰ってくるまでに食材の購入を済ませておかなくてはならない。 しかし、試合の後でみんなでどこかにご飯を食べに行くとかないのだろうか... そうだったとしても、火神は帰って食べることはできるだろう。 問題は、食事開始の時刻となる。 「遅いと太っちゃうんだけど...」 乙女としては大問題だ。 帰宅して暫くするとインターホンが鳴る。 応じると火神で、「早いねー」と思わずは感想を口にする。 「そうか?鍋は?」 「持ってく」 「食材もあるんだろ?どっちか貸せよ」 言われて先ほど発掘した鍋を箱ごと渡す。 「あとは?」 「大丈夫」 「じゃあ、先戻ってるからな」 そう言って火神は自宅に戻った。 「打ち上げしないんだねぇ」 しみじみと呟き、先ほど購入した食材の入っている袋に手を伸ばす。 「あ、こっち持ってもらえばよかった」 こちらの方が重かった。 |
桜風
14.9.29
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