| 食材を切っている間に火神はテーブル側の準備を済ませた。 「なんか手伝うか?」 「いい。火神くん大きいから狭くなる」 「オレんちだ」 抗議の言葉に「そうね」と頷いては火神を追い出した。 「そういえばさー」 追い出したくせに話しかけてくるのか、と火神は仕方なく少し離れたところに椅子を引いた。 「何?」 「今日、試合を見に行ったよ」 「どこの?」 「誠凛高校バスケットボール部」 「本当かよ」 今日の試合は勝ったけど、なんというか。いつもと違う試合だから別のを見てもらいたかったと火神は思った。 「何か、みんな怖かったねー。元々そんなに気が長い方じゃないとは思うけど、日向君とか」 ざくざくと野菜を切りながら背を向けたままのが言う。 「まあ、今日の試合は。ある意味因縁の試合だったから」 「そうなの?」 振り返ったが火神を見ると「うん」と少し気まずげに頷いた。 「そっかー」 「それ、もうこっちに持ってきてていいか?」 一通り野菜を切り終わったらしいの作業を見て火神が言う。 「お願い」と渡して、次はつみれの準備を始める。 「なー、魚があるんだけど」 野菜を切る間は生物を冷蔵庫に突っ込んでいたため、そろそろ出そうと冷蔵庫を覗いた火神が言う。 「私はお魚が食べたかった」 「肉は?」 「肉も買ってあるでしょ?寄せ鍋。日本人らしくていいねー」 「どういうこと?」 食材を取り出しながら火神が問う。 「どっちかじゃなくてどっちも。白か黒かと聞かれて灰色って答える感じ」 「褒めてんのか?」 「半分は。協調性があるっていう意味で」 「ふーん」と適当な相槌を打って火神は肉と魚の準備を始める。 「火神くんの胃ってどこにあるの?」 鍋を挟んだ向かいに座るが問う。 「は?」 「四次元?」 「何言ってんだ?」 心底不思議そうに火神が返して、がつがつ食べていく。 『多めに』と思って購入した食材が、ともすれば足りない事態になりかねない。 体が大きいから胃も大きいという理屈はあるだろうが、それにしても限度というものがあるのではないだろうか。 「食わないのか?」 そう言いながらも滞ることなく箸を動かす火神がいて、 「見てるだけでお腹いっぱいって言われることない?」 とが返す。 「何でか、呆れられることはあるけど」 肩を竦めて火神が言う。 「締めはどうする?」 取り敢えず何とか食材はギリギリで足りて、火神としても満足している様子だ。 炊飯器を覗いてみたら雑炊くらいならできそうだ。 「オレはいいや」 「んじゃ、鍋置いていくから明日の朝ご飯とか今日の夜食とかにしてよ」 そう言ってが食器を片づけ始める。 「先輩食わねぇの?」 「もうおなかいっぱいだよ」 (それに、時間も遅い) 時間的な話をしても火神には通じないと思い、その言葉は飲んだ。 「そういやさ」と片づけを終えて帰ろうとしたを玄関まで見送りに行きながら火神が言う。 「なに?」 「オレ、先輩の携帯の番号とか知らねえんだけど」 と言う。 「あ、ホントだ。私も知らないね」 今のところ困ったことがないので、そこに考えが行きつかなかった。 「交換しとく?」 がいい、「一応」と火神が頷く。 確かに、何か困ったときにあった方がいいかもと思ったは火神と番号の交換を行った。 そして、その交換した番号はすぐに役に立った。 休日の朝に電話がかかってきた。 「なに?」 寝坊を決め込んでいたは不機嫌に電話に応じる。 『先輩、わりぃけどオレこれからひと月ロス行くから』 「あー、え?」 廻らない頭なりに整理をしようとするが、上手くできない。 『ウチの学校、短期留学制度あるだろ?その受け入れ先の学校がロスにあるんだよ』 「ああ、あったね。それで?」 『昔、オレがバスケ教えてもらった師匠がロスにいるから。教えてもらうんだ』 留学の方が『ついで』らしい。 「うーん、それで?」 『鍋、もうちょい返せない』 「うん」 『オレ宛ての荷物が来たら受け取っておいてくれ』 「...は?」 流石に飛び起きた。 「どうやって?」 『何とかして。なまものじゃなきゃいいけど。なまものだったら処分しちょいてくれ』 「何か送られてくる予定なの?」 『今んとこわかんね』 「送ってくる相手は?」 『親父』 「お父さんに連絡して、ロスにいるから荷物送ってくるなって伝えておけば済む話!」 慌ててそう突っ込みを入れると 『あ、そうか。じゃあ、親父にはそう言っとくけど。まあ、何かあったらよろしく』 そう言ってブツッと電話が切れた。 「連絡先交換するんじゃなかった...」 しかし、こんなことになるとは誰も予想できなかっただろう。 「ま、仕方ないか」 こちらもひと月近く面倒見てもらった恩がある。 |
桜風
14.10.6
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