友達以上 13






 小雪がちらつく日が増え、先日は交通がマヒするくらいの大雪に見舞われた。

「ねえ、ウィンターカップってのはいつからなの?」

リコに問うと彼女は驚いたような表情を浮かべた。

が、気を取り直して日程を教えてくれる。

「ありがとう」

「何?興味あるの??」

少し嬉しそうにリコが言う。

「ん?うーん...」

が興味があるのは火神の帰国の方だ。

合意したものではないが、一応任されているので、気をつけてはいる。

この状況が解消されるのは、火神が帰って来た時だ。だから、なるべく早く帰ってきてもらいたいとは思っていた。


冬休みに入ってすぐに火神から連絡があった。

『先輩の家にオレの荷物届くようにしたから』

「はあ?!」

驚きの声を上げると

『帰国したけど会場直行になるんだよ。荷物持ち歩くの大変だし、時間指定するにしても難しいから、いっそ先輩の家に届くようにしたから、よろしく』

切れた電話に向かって「えーーー!」と抗議の声を向けてみたが、相手が聞いていなければ意味がない。

「もう!何なのよ!!」

リビングに掛けているカレンダーを見た。

そこには小さく丸印を描いていた。今日が、リコから聞いたウィンターカップとやらの開会の日だ。

トーナメントだし、見に行こうとは思っているが、いつ行くべきかと悩んでいる。

取り敢えず、今日は荷物が届くらしい。

長時間の外出は控えたほうがいいだろう。


火神の荷物は無事に受け取ることができた。

夕方、隣の鍵が開いたような音がした。

今、試合中のはずだ。昨日一応公式サイトを確認した。

何か、最初から強いチームに当たるという話も聞いた。

「気のせいかな?」

首を傾げて夕飯の支度を始める。

食事を済ませ、年末に帰国する母親と電話をしていると隣が騒がしくなる。

聞いた声が聞こえてきた。

(え、バスケ部集合?)

別に内緒というわけではないが、お隣さんということを今まで公言していなかったので何というか、今更乱入する気にもなれない。

(明日の朝でいいかなー?)

気を取り直し、は少し早いが就寝することにした。



翌朝、洗濯物を干しているとマンションの下を火神と、金髪の女性が歩いているのを見た。というか、マンションから出てきた。

「んん?」

もうちょっと遅くていいかな、と思ってまだ彼の荷物を返していない。

タイミングを誤ったと思う反面

(誰、あの人)

と純粋な好奇心と、そうではない何かが胸に浮かぶ。

ざわざわとする気持ちを抑えながら取り敢えず、気を遣いながらこっちでタイミングを図るのが馬鹿らしく思えてきて火神に帰宅のタイミングで声をかけるようにメールを送っておいた。

返事はひとこと「おう」で終わり、謝罪もないのかと言いがかりのようなことすら思ってしまう。

(ダメだ...)

何かおかしいと思って気分転換に大掃除をすることにした。

夜になって電話がかかってきた。準々決勝に向けて師匠が練習を見てくれるという話だから、荷物は明日の朝取りに行くというものだった。

「これ、洗濯物が入ってんじゃないの?」

流石に3日放置というのはどうだろう。

だが、自分がこれを洗濯する気はもちろん皆無で。だから、放っておくしかないのだが...

取り敢えず、リビングに置いていた荷物は玄関先に移動させた。

朝になって朝食を摂っているとインターホンが鳴った。

応じると火神で「長い間わりぃな」とすまなそうな表情を浮かべて言われた。

「まあ、いいけど」

何か嫌味を言うほどの損害を被ったわけではないので、そう返して、玄関先に置いている火神のキャリーバッグを渡した。

「タイガー」

そう言ってタンクトップ姿の金髪の女性が火神の部屋から顔を覗かせてきた。

「んだよ、アレックス」

振り返って応じる火神の腕の下から女の子が顔を覗かせている。

面白いものを見つけた、という表情でアレックスが出てくる。

好奇心むき出しの視線を受けては少し構えた。

腰をかがめて顔の高さをと合わせたアレックスが彼女に顔を近づけてきたが、それを火神が掌で押しとどめて邪魔をした。

<何をする!>

<コイツはだめだ>

<どうして!この間の小さい子は良かったじゃない>

リコの事だ。彼女はリコにキスをしている。

はだめだ>

リスニングが苦手というわけではない。だが、やはり流暢なそれは自分が習っている英語とは違って聞こえる。

日本語での会話をしていたのかと思えば突然の英語で脳が反応し切れていなかったのも理由かもしれないが。

ただし、自分の名前が出た気がした。火神の口から。

<ふーん..タイガの恋人か>

<な!ち、ちげぇ!!>

突然火神が狼狽し始めた。

「火神くん?」

「あ、こいつキス魔だから。先輩、もう家ん中入って鍵かけてろ」

そう言っ家の中に押し戻されてドアを閉められた。

「...何だ?」

状況を把握できないまま家に戻ってしまったは首を傾げながら呟いた。

に預けていた荷物を引き取り、そして、アレックスの背を押しながら家に入る。

<なんだよ、良いじゃないか。もうちょっとあの子と話をしてみたい>

<ダメだ>

頑なにそういう火神に少しだけ意地悪をしたくなった。

<恋人でもないんだから、そんな独占欲を出すのはどうかと思うぞ?>

そんなからかいに返す言葉がなく、火神は黙り込んだ。

ちょっとからかいすぎたかな、と反省したアレックスはそれ以上の言葉は重ねなかった。



翌々日、の家のインターホンが鳴った。

応じてみると火神の家にいる女性、アレックスだった。

英語で応じるべきかと悩んだが、会話となると自信がない。

「は、はい」

『こんにちはー』

日本語が返ってきた。

『今日暇ならさ、一緒に試合を見に行かない?』

そう言われた。

取り敢えずドアを開けて出てみた。

「試合ですか?」

「そう。タイガとタツヤの試合」

(タツヤ?)

「あ、タイガから聞いてない?タイガの友人で、私のもう一人の弟子」

「もう一人の弟子?」

「タイガとタツヤが私の弟子。あれ?タイガから何も聞いてない?」

「あー、お師匠さん。ロスの」

「そう、アレックスって呼んで。キミは、だったね」

「あ、はい」

何で知っているんだろうと思ったが、先日自分の名前を火神が口にしたのを思い出す。

(そうか、お隣さんとして紹介されたのか)

(あー、何か勘違いされてる感じがするなー)

何やら納得しているような表情を浮かべているを見下ろしてアレックスはそう思った。

「それで、試合はどう?」

1回くらい行ってみようと思っていたし、とは同行することを頷いた。


..って呼んでもいいかな?」

「ええ、構いません」

少し歩いて会場に向かう。

は、タイガと仲が良いのか?」

「んー、どうでしょうか。お隣さんですから、それなりに」

「恋人?」

興味津々にアレックスが問うてみたが彼女はきょとんとして「いいえ」と首を横に振る。

「あ、そうなんだ...」

せっかく弟子のコイバナを聞けると思ったのに、と少しがっかりした。

「そうですね、友達..と言って差し支えはないかなと思います」

の言葉にアレックスはちょっと黙りこむ。

かわいい弟子にしてみたら、もうちょっとそれよりも上。

友達以上の存在ではあるようだ。

しかし、この様子では彼の一方通行かもしれない。

(頑張れ、タイガ)

心の中でこれからの弟子の奮闘を期待する。

「アレックスさんは、日本語お上手ですね。こちらに住んでたんですか?」

不意に話題を振られて少し驚いたが、

「いや、弟子たちに習った」

と苦笑していう。

「でも、アレックスさんは弟子同士の試合を見るのは少し心苦しいところがあるんじゃないですか?」

何となくそんな気がした。

「んー、まあ。どっちもがんばれっていう気持ちで見るからね。ただ、結果は残念に思うかもね。必ずどちらかが敗者になるから」

「でしょうねぇ」

相槌を打つ

「タイガは昔から優しいところがあったからなー。今日も、そういう意味では少し心配だな」

とこぼす。

「そうですね。ちょっと口調が乱暴だったりしますけど、優しいところありますよね」

の同意を耳にしてアレックスは「そうなんだ!」と大きく同意した。

「タイガは不器用だけど、いい子だよ」

「そうですね」

なぜこんなに強く同意されるのかわからないは少し驚いたけど、相槌を打った。

恋人までの道のりはどうやら閉ざされているわけでもなさそうだ。

これはアレックスの持つ女の、そして選手時代に培った勝負師としての勘がそう言っている。

、タイガを頼んだよ!」

気分は息子を見守る母親状態だ。

「へ?」

突然のアレックスの言葉に変な声が漏れただったが、それは無理からぬことだ。

(道のりは遠いかもしれないけど、タイガ、頑張る価値あるよ!!)

心の中で弟子にエールを送ったアレックスは、取り敢えず面白そうだから定期的に連絡を取って進捗状況を聞いて行こうとこれからの方針を心に決めた。

何だか楽しそうな表情を浮かべているアレックスには首を傾げ、選手同士何か思うところがあるんだろうなぁと何となく納得した。









桜風
14.10.13


ブラウザバックでお戻りください