| Sweet my home |
| はやく、はやくと気持ちは逸るのに、タクシーが一向に進まない。 いつもの1.5倍くらいの時間をかけて家に帰った。 気持ち的には、もう6倍くらい時間はかかっていると思う。 飛行機のパイロットになるべく、会社の研修試験に合格し、今はその研修を受けている。 研修を受ける前に試験があるのだから、まったくひどい話だ。 せっかく、高校受験しなくて済んだのに。 それを彼女に言うと彼女は笑って「帳尻があったんだからいいじゃない」という。 ...すごくかわいかった。 「ただいまー」と玄関を開けた。 ちゃんと鍵をかけていたから安心だ。たまに、家にいる間は鍵をかけ忘れるんだってこの間電話で言っていたから、ちょっとお説教をした。 「小さくて、可愛いんだから誰かに連れて行かれるかもしれないからダメっスよ」 そういうと彼女は 「並みサイズです」 と昔と変わらず少しムキになって返した。 「あれ?ちゃん??」 リビングに足を運んでみても彼女の姿がない。 彼女も仕事をしているから、普段だったら確かにこの時間には帰っていなくてもおかしくない。 けど、昨日連絡したら家にいるって言ってたのに... あれ...?? もしかして、この幸せな空間、記憶って幻、否、妄想だったのだろうか。 彼女とは大学を卒業する前に結婚の約束をした。 お義母さんが応援してくれていて、 「貯蓄は絶対にしておきなさい。生活力を計る目安になるはずだから。貯蓄がなきゃ、旦那は勝ち誇ったように『一昨日来やがればーか』っていうにきまってるもの。逆に、貯蓄があったら、お互い仕事もするんだし特に口出しはできないはずよ」 って教えてくれていたから、モデルのバイト代は貯蓄に回して、大学生の間は、結構堅実な生活を送っていた。 そして、挨拶に来た時に、お義母さんが言ったようにその話になったけど、おかげさまで「一昨日来やがれ」を言われることなく「ぐぅ」と唸られ、そして睨まれた。 その後、研修試験の勉強をしつつ挙式の準備をした。 ちゃんにあまり負担掛けたくないと思って頑張ったけど、結局、彼女がてきぱきと準備を進めてくれたから、試験勉強に結構集中できた。 「ごめんね」 というと彼女はきょとんとして 「帝光中学及び誠凛高校バスケ部の元マネージャーたる者、これくらいできなくてどうします?」 と笑った。 挙式が2ヶ月前。 そして、そのすぐ後に研修が入って、実技訓練のために合宿もあって... 「あれ?」 がらんと、誰もいない空間にぽつんと立つ。 「ちゃん」 自分でもびっくりするくらい情けない声だった。 「はいはい?」 背後から声がして振り返る。 「おかえり」 彼女が笑った。手には近くのスーパーの買い物袋。 「え、ちょっと。どうしたの??」 すとんと、その場に座り込むと彼女は慌てて駆け寄ってくる。 傍にやってきた彼女に向かって腕を伸ばして引き寄せる。 「涼太くん?」 不思議そうな声音で呼ばれた。 「夢かと、思ったんス」 「へえ?!」 彼女は頓狂な声を上げた。 「だって、いると思って帰ったらちゃんいないし。凄く幸せだから、ホントは夢だったんじゃないかって思って」 「もー。だから絶対に指輪外さないって前に言ってたじゃない」 苦笑して彼女が言う。 本当に夢みたいだから、夢じゃない証拠に結婚指輪は絶対にはずさないって前に宣言したんだ。 彼女は「夢じゃないよー」って笑いながら言ったけど、夢じゃないっていつでも思いたいからっていうとやっぱり笑った。 「ね、涼太くん。そろそろ離して」 ちゃんが言う。 「いやっス」 「でも、ご飯の支度があるし」 「ご飯なくてもいいっス」 「オニオングラタンスープ」 思わず腕の力が緩んだ。 彼女は笑って腕からするりと抜けて立ち上がる。 「すぐに作るから待っててね」 そういってキッチンに向かう彼女の腕をつかんだ。 「涼太くん」 窘めるように名前を呼ばれた。 「まだ、忘れもんっス」 「忘れ物?」 立ち上がり、首をかしげる彼女にキスをした。 目をぱちくりとして彼女は見上げてくる。 「ただいまのキスっス」 そういうと彼女は苦笑する。 「おかえりなさい」 そういって彼女も頬にキスしてくれた。 |
桜風
13.5.1
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