| 休憩時間、廊下を歩いていると突然手を引かれて振り返る。 「あ、」とは呟いた。 「さん」 顔見知りの同級生。もうひとつ言えば、同じ中学出身だ。 「久しぶりね、黒子くん」 にこりと微笑んでは返し、「じゃあね」と言ってその場を離れた。 「誰だ?」 「中学の同級生です」 一緒に歩いていたクラスメイトの火神に問われて黒子が返す。次の授業は生物室で行われるため、教室移動中なのだ。 「お前のこと、覚えてるヤツいるんだな」 「失礼ですね。同じ部活だったんですから、覚えてくれてますよ」 少しムッとしたように返した黒子に「へー」と適当な相槌を打った火神は、興味なさげに先を歩く。 (...けど、何で気付かなかったんだろう) 黒子は首を傾げた。 1学年普通の学校よりも生徒数が少ない分、目立つだろうに。 それなのに、彼女に気付いたのは、入学式が終わって、10日以上経っての今日だ。 自分と違って、どちらかといえば目立つタイプの彼女に気付かなかったことが非常に不思議だった。 放課後の部活中、監督である相田リコが溜息を吐いていた。 「マネージャー、何で入らないのかしら」 「そりゃ、カントクがキツ...」 最後まで言い終わることなく撃沈するキャプテンに周囲は視線を逸らす。 「出来れば、経験者がいいなー。一から教えるのめんどいし」 選手の人数が少ないため、できれば選手にマネージャーの仕事をさせたくないと言うカントクの親心的なことがあるのかもしれないが、今のところ、そのしわ寄せが彼女にいっているので、出来れば楽をしたいと言うことなのかもしれない。 「そういや、黒子。今日、何かいただろう」 「なに?」 火神の発言にリコが興味を示す。 「今日、生物室に行く途中に、コイツが同中の女子捕まえてたんだよ..です」 「同中?」 「同じ部活って言ったよな。帝光って女子部あったのか?」 「いいえ、ないですよ」 黒子が返す。 気配を感じ取ってもらえていない彼が言葉を発すると、大抵誰かしらが驚きの声を上げる。今回も例に漏れず「わあ!」と誰かが驚いた。 「てことは、マネージャー経験者?しかも、100人以上の部員を抱えてた、あの帝光中の?」 俄然目を輝かせてリコが迫る。 「ええ、そうです。僕と同学年のマネージャーは何人かいましたが、そのうちのひとりです。ただ、マネージャーもそれぞれ一軍から三軍までいたので、100人以上を相手にしていたわけではありません」 「何て名前?クラスは??」 「名前は、さんです。クラスは..聞いてないので分かりません」 黒子が答えるとリコが1年を見渡す。 残りの3人が首を横に振った。火神と黒子が同じクラスと言うことはないので、聞く必要はない。 「そう、じゃあ。残るクラスはあと半分だけね。まだ残ってるかもしれないわね。ちょっと見てくる!」 そう言ってリコがいなくなった。 「入ってくれるのか、その子」 「あ、復活した」 起き上がった日向を見て小金井がポツリと呟いた。 「たぶん、全力で断ると思います」 黒子は表情を変えずにそう返した。 その10分後、物凄い剣幕でリコが戻ってくる。 「どうだった?えっと、さんだっけ?マネージャーしてくれるって??」 日向が問うと物凄い形相でリコが睨む。 「ちょっと、黒子君!」 あれ、いない... 周囲が見渡すとリコの目の前で「はい」と彼が返事をする。 「何、あの子!」 「ばっさり断られましたね」 「取り付く島がないとはあのことね!」 怒り心頭でリコが言う。 「諦めますか?」 「...あの子のほかにもマネージャーが居たっていってたわよね。ちなみに、あの子は何軍のマネージャー?黒子君にとって、あの子の印象は?」 「彼女は一軍のマネージャーでした。欲しい人材ですよ。帝光中バスケ部のメンタルとフィジカルを支えていたのは彼女ですから。だから、まあ。余計に入りたがらないんでしょうけどね」 (色んなことに巻き込まれていたし...) 中学時代の彼女の苦労を思い出して心の中で同情する。 「メンタルと、フィジカル?」 「ええ。まあ、フィジカルはともかく、メンタルは確実に彼女の存在は大きかったでしょうね」 「欲しい...!」 間髪入れずにリコが叫ぶ。 「よし、捕獲大作戦。明日、決行するわよ!」 「...本人の意思を尊重してやるべきだろう」 正論を口にしたキャプテン日向は、またしても撃沈する羽目になったのはその2秒後だった。 |
桜風
12.6.6
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