グラデーション 6





日曜日、海常高校との練習試合の日。

やはりテンションが低いままのは、それでも練習試合会場へと足を運んだ。

「ねえ、その溜息どうにかなんないの?!鬱陶しいんだけど!」

リコが言うが

「来ただけでも褒めてくださいよー。あー、やだ。そうだ!黄瀬くんが風邪を引いてる可能性も...!」

はっと元気になった。


海常高校は、神奈川県にある運動部に力を入れている学校で、バスケ部はインターハイの常連である。

そのためなのか、学校が非常に広い。

「どもっス。今日は皆さんよろしくっス。ってちゃん!」

「出た!」

そう呟いては隣に立っている降旗にバッグを預けて回れ右をしたが既に黄瀬に距離を縮められていた。

ぎゅっと抱擁される。

「オレに会いに来たんスね!」

「ははは、んなワケないからまず離そうか」

遠い目をしてが返した。

「ね、あれってどういうこと?」

黒子にリコが問う。

さんがバスケ部に入りたくなかった理由のひとつです。黄瀬君は中学のときから女子に人気がありましたし、さん、凄く苦労してました」

「付き合ってるのか。もしくは、付き合ってた、とか」

小金井が興味津々に問うが

「黄瀬君の片思いです。本人は全く片思いの自覚がないのでアレですが...」

「何照れてるんスか!相変わらず、ちゃんは可愛いなー。あと、2年待たせるのが本当に申し訳ないっス」

「2年後には全力で国外に逃げますのでお構いなく。いいから、離そうか」

「で、今は何処の学校に通ってるんスか?あ!そうか。うちに通いたいって話っスね!!ちゃんの運動神経と頭のよさなら余裕で編入試験合格だと思うっスよ!オレ、応援するっス!」

「さあ、人の話を聞こうか。黄瀬くん」

全く人の話を聞いていない。

「あれ、中学のときから?」

「ええ、まあ...」

(あー、この視線の痛さ。懐かしいわー...)

は自分に刺さる視線の痛さを懐かしんでいた。

海常高校に通っている女子には、当然彼のファンもおり、突然出てきた他校の女子が彼に抱きついているとなれば面白くない。

正確には、彼が知らない女子を抱きしめているのだが、そこらへんの事実は彼女たちの脳内で自分の都合の良い方向に補正が掛かっている。

「あのさ、黄瀬君」

リコが声をかける。

「何っスか?」

まだを放さない。

「その子、うちのマネージャーだから、離してくれる?んでもって、案内に来てくれたんじゃないのかな?」

「あ、忘れてたっス。けど、体育館までちゃんは離さないっス」

「離そうか、ね。そろそろ」

「いやっスー!」

そう言って黄瀬は上機嫌にの手を引いて体育館へと向かう。

「...ありゃ、バスケに関わりたくなくなるかもなー」

同情の感情を孕んだ声音で日向が呟き、その呟きが耳に届いた部員達は頷いた。

「私も、ちょっと..かわいそうに思えてきた」

全力で逃げていた理由を目の前にすると、確かに同情の余地がある。

「そうそう、黒子っちに振られてからオレ、毎晩枕を濡らしてたんすよ。女の子にも振られたことないのに」

「サラッとイヤミをいうのやめてもらえますか?」

黒子がそう返し、

「バスケ部入部以降を思い出そうか」

手を引かれたままのが言う。

「あ、いや。オレは、バスケ部に入ってからずっとちゃん一筋っス!他の女子に告白とかしてないっス!!」

「いやいや、何誤解を解くみたいな口調で言ってんの!」

慌てて言う黄瀬には思わず突っ込む。

「けど、ちゃんにやきもちやいてもらえてちょっと嬉しいっス!」

「...黄瀬くんって国語苦手だったっけ?」

「や、普通だったと思うっスけど。思い出話っスか?」

目を輝かせて言う。

「あー、もういいから。体育館、まだ?」

「ここっス」

そう言って黄瀬が名残惜しげに手を離す。

一応、自分が口にした約束は守る。それは、中学時代にずっとが言って身に付けさせた。

そうでもしなくては、はいつまでも振り回されることになっていたのだ。


体育館の中に入って皆が驚いた。

今回、どうやら半面コートでの練習試合のようだ。片面はすでに練習が始まっている。

監督に挨拶をすると、今日の練習試合はレギュラーの調整のために組んだものだと言う。

試合に出られない選手達には得るものがないから、練習をさせることにしていると言うのだ。

誠凛バスケ部員達に青筋が立つ。

「わー、新鮮」

が呟く。

「なにが!」

リコがイラついたように返した。

「いえ。だって、帝光のときは、みんな相手チームの監督とか謙っていたんですよ。こんな横柄な態度を取られることなんて滅多になかったんです。寧ろ、練習試合を組ませてくれる中学がなかったんですけどね」

「そうっスねー」

ユニフォームに着替えてきた黄瀬が頷く。

「あら、出るの?」

「黄瀬!お前は出さんぞ!!」

監督曰く、黄瀬を抜いたレギュラーの相手も務まるどうかが不安だと言う。

「あらあら」

再び誠凛高校バスケ部員(監督含む)達の青筋が立つ。

「ベンチには入ってるんで、監督をぎゃふんと言わせてくれたら出られるはずっス。ま、オレを引きずり出せないようじゃ、『キセキの世代を倒す』とかいう資格ないっスけどね」

挑発する黄瀬に黒子と火神の眸の色が変わった。









桜風
12.6.13


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