グラデーション 8





練習試合の翌日、昼休憩に屋上に向かっていると黒子と火神に声を掛けられた。

「お前、携帯持ってないの?」

火神が言う。

「うん。人に時間を拘束されるの嫌いだから」

そう言っては頷く。

どうやら、1年は2年校舎への集合が掛かっていたとのこと。

「それ、弁当か?」

「うん」

小さな手提げを持っているの手元が気になった火神が問うと彼女は頷いた。

「毎日?」

「そんな面倒なことじゃないからね」

そんな会話をしていると、他の1年と途中自然と合流して2年校舎へと辿り着いた。

待ち構えていた2年からパンを買ってくるように言われる。

「おお、典型的なパシリですね!」

弾んだ声でが言うと「いやいや、何で楽しそうなの」とリコが呆れる。

「や、ベタだなって」

「何がベタだ!って、はお弁当があるんだ」

「はい」

「なら、抜きで行ってきて」

毎月27日には特別なパンが販売されるとのこと。

豪華食材を使用したそのパンを食べると、恋愛でも部活でも必勝を約束されるという伝説があるとかないとか。

「あやしー」とが呟くと「黙ってて」とリコに怒られる。

ちなみに、そのお値段は税込み2800円。

「そのパン屋さんって何を目指してるんですか?」

「いいから、黙ってようね?」

リコが青筋を立てながらに言う。

「とにかく、海常との練習試合にも勝って、練習も好調。さらに、幻のパンを手に入れて弾みをつけようってこと」

パンを買うだけだから余裕だろう、と火神はそういった。

お金は2年が出してくれるらしい。そして、ついでにみんなの昼食も買ってくるように、と。

失敗しても構わない。釣りは要らないが、筋トレとフットワークが3倍になるだけだとか。

「じゃ、屋上で待ってるからー」

リコたちにそう言って送り出された彼らは売店へと向かった。


「何の罰ゲームですか?」

屋上に上がってが言う。

「え?お遣いを頼んだだけじゃない」

「基本、カントクが何か言い出すと罰ゲーム的な何かの催しになるのは何となくわかります」

真顔で返すに「かわいくなーい」とリコが彼女の頬を引っ張った。

「あ、そういえば。この機会に聞いておきたいんだけど」

頬を引っ張ったままリコが言う。

はリコの両手を軽く二回ポンポンと叩く。離せといいたいらしい。

「カントク、がかわいそうだから離してやれって」

「もう、若い子に甘いんだから」

「オバサンか!」

思わず突っ込んだ日向はその場で逆エビを食らっている。

「で、話を戻すわね」

「ギブギブ!」と屋上のコンクリートを叩いている日向は無視だ。

「黒子くんに聞いたんだけど、があのキセキの世代を擁した帝光中学バスケ部のメンタルとフィジカルを支えてたってどういうこと?」

暫く沈黙したは溜息を吐く。

「だから、執拗に、それこそストーカーよろしく追い掛け回されたんですね?」

「まあ、あなた自身が言ったように『けんもほろろ』だったのがムカついたってのもあるけどね」

肩を竦めてリコが言う。

「黒子くんのせいか...や、わかってたけど」

「んで、どういうこと?」

「別に、フツーにマネージャーをやってましたよ。ただ、駄々っ子しかいないキセキの世代の5人が、意外とわたしの話を聞いてくれてたから、よそ様に迷惑を掛けないように説得できた点で、たぶん『メンタル』なんでしょうね。『フィジカル』は..まあ、近々カントクに相談します」

「相談?」

「はい、相談です」

そう言ってが頷く。

リコはじっとの目を見つめたが、言葉は返ってきそうにない。

「わかったわ」

溜息混じりにリコが頷いた。


屋上の扉が開き、お遣い部隊が帰ってきた。

「お疲れー。ジュースあるわよ」

リコが屋上に上がる途中に購入したジュースをお遣い部隊に渡した。

「ボロボロだ...」

幻のパンを差し出してきた彼らに、それを買ってきたのは彼らだからと2年は1年に譲る。

「じゃ、食べましょうか」

リコがそう言って皆が屋上で昼食を摂る。

「...、その卵焼き、美味しそうね。頂戴」

「いいですけど...」

少しだけ不満そうに彼女は頷く。

リコは、の弁当箱から卵焼きをひょいと指で摘んで口に運んだ。

「...!美味しい...!!!」

目を輝かせてリコが声を上げる。

「え、何。そんな美味いの?オレにも頂戴」

そう言って日向が卵焼きを誘拐する。

「うめぇ!ちょ、。お前天才か!!」

その言葉が引き金になり、皆がの弁当からおかず、終いにはおにぎりまで攫っていった。

結果。

「わたし、昼食は一口。しかも、ミニトマトオンリー」

と言う状況に陥った。

「え、ごめ...!」

リコが慌て、皆もそれぞれ謝罪を口にする。

「いいですよ。放課後まで休憩時間に飴を舐めるという形でカロリーを補給しますからー」

大きな溜息をついてが言う。

「ホント、ごめん!けど、。なんでそんなに料理が上手なの?」

「両親、共働きですから」

「店出せるんじゃね?」

「コストを考えると絶対に無理です」

昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「あ、教室に戻らなきゃ」

リコがそう呟き、解散となった。


1年の校舎に向かいながら「丁度良かったかな?」とは呟く。

ふと、前を歩いていた黒子が振り返り、彼と目が合う。

何かを訴えるような彼の視線に苦笑を返しては教室へと戻っていった。









桜風
12.6.18


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