| 夕方になって学校の体育館へと戻ると、居残り練習をしているレギュラー陣が声を掛けてきた。 「あれ、カントクは?帰っちゃいましたか?」 「部室だと思うぞ」 「ありがとうございます。行ってみます」 そう言って回れ右をしたに「ああ、そうだ」と彼が声をかける。 は足を止めて振り返った。 「今日のは、もうちょい甘い方が好きかも」 そういわれては頷き「りょうかいしましたー」と軽く手を挙げた。 伝説のバスケ部。 帝光中学には驚くほど効果てきめんな体力回復ドリンクがあった。 と、黒子が言う。 皆は驚き、それを口に出来るようになると言うことで物凄く期待した。 何より、リコが期待していた。 期待するような性格かな、と思ったが、本気で期待していた。 しかし、その種明かしをされて「やっぱり」と彼女はガッカリした。 それでも、一方でそのドリンクはこのチームにとって力になるとリコは評価した。 の料理の腕は、バスケ部員全員が彼女の作ったお弁当を摘んだお陰で、腹に染み渡っている。 彼女の弁当の中身を拝借したその日にリコは彼女から話を聞いた。 「なに、それ」 「ま、プラシーボ効果ってヤツです」 曰く、帝光中学のマネージャーは自分だけではなかった。 だが、もうひとりのマネージャーは、料理の腕が壊滅的で、周囲から料理をしてくれるなと頼まれるほどの腕前だったとか。 まず、彼女の幼馴染がと同じクラスで弁当を摘んだ。それがことのほか美味しかったらしく、バスケ部のマネージャーにされるところだった。 一度は逃げたが、別の人に捕まり、バスケ部のマネージャーになった後にの手作り弁当を味見した周囲が彼女に対して絶対的な信頼を寄せた。主に、胃袋の安全について。 よって、彼女が作るものはとても美味しく、きっと体にいいものだと思い込んだらしい。 そして、彼女がハーフタイムに作るドリンクは、不思議と疲れが取れると言うことで、大盛況だったのだ。 「要は、中学生男子の胃袋は、『美味しいもの=体にいいもの』と思い込んでその思い込みがそのまま体に影響したんじゃないんですか?」 と彼女が言うのだ。 勿論、使用している材料は体にいいものだし、一般的に疲れが取れるといわれているものを使って、口当たりの良いものを作ったのは紛れもない事実だ。 しかし、それで劇的な回復なんてありえない。 「だから、プラシーボ効果?」 リコが問い返す。 「そうです。人間の体って思い込みでどうとでもなることが充分にあると思いますよ?」 「まあ、否定しないけど」 何となく腑に落ちないとリコは曖昧に頷いていた。 「そういえば、これが『相談』?」 「そうです。そして、黒子くんが言っていたフィジカルを支えたってこのことでしょうね。桃井が作ってたらみんな死んでる」 苦笑しながらが言う。 『桃井』というのが、もうひとりのマネージャーの名前なのだろうと、リコは何となく当たりをつけて「そう」と相槌を打った。 そして、その相談を受けた日からドリンクの製作の許可をした。 ただし、予算が余計に掛かることだから要相談で、なるべく効果が上がりそうなことにしたいとリコが言う。 「とりあえず、みんなが『嫌い』と思わないものを作りたいので数日は実験をさせてください。残ったら責任を持って、飲み干します」 『美味しい=体にいいもの』という法則を利用するならそれしかないだろう。 リコは許可した。 かくして、帝光中学バスケ部を支えたという伝説のドリンクが練習時の体育館に鎮座していたのだ。 ドリンクを作ったらは学校の外に出て他校の情報収集をしているので、部員達にはメモを渡して感想を書いてもらっている。 「カントク」 部室を覗くとリコがいた。 「ああ、お疲れ。どうだった?」 「今の時期、殆ど練習試合をしていないので潜り込むのが大変でした」 「そりゃ、お疲れさん。DVD、貸して」 渡したDVDは、リコが持って帰って一度自分ひとりで研究するようだ。 「ドリンク、今日のはもうちょい甘い方が良いんじゃない?」 何だかんだでリコも気に入ったようで、彼女も毎日感想をくれる。 「さっき、伊月さんもそう言ってました。けど、もう『嫌い』って言う人がいなくなったのでそろそろ微調整だけいにしたいですね」 味に幅を持たせたら、また嗜好が出てくる。 「そうねー...」 それで良いとリコが言い、は明日からの分量を頭の中で計算した。 「そういや、。秀徳の緑間って知り合いよね」 「ええ、知り合いですよ」 素直に頷く。そりゃそうだ。キセキの世代のひとりなのだから。 「どんな子?」 「黒子くんに聞かないんですか?彼は同じコートの上に立ってたんですよ?」 が問い返すとリコは溜息を吐いた。 「うーん、あんんまり言いたくないのかな。言葉で言っても信じないって言うの」 「同じ意見です」 すぐに黒子に意見に賛成した。 「そんなに凄いの?この間の、黄瀬くんも相当だったけど...」 「黄瀬くんとはちょっと質が違うって言うか...」 「そういえば、彼もそんなことを言ってたわね」 「ま、できれば会いたくないんですけど」 肩を竦めて言うにリコの声が弾む。 「何々、どういうこと?!」 「キセキの世代ってみんなアクが強いんで疲れるんです」 深い溜息を吐いたにリコは何となく同情した。 確かに、黄瀬は面倒くさそうだった。 あれがあと4人... 「慣れましたけどね」 リコの同情の眼差しにそう返しては部室を後にした。 |
桜風
12.6.20
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