グラデーション 100





片づけをしていると黒子が隣に立つ。

「いいよ、ゆっくりしてて」

さんこそ。さっきのさんのお母さんの言葉、本当なんですよね」

黒子に指摘をされては苦笑を漏らす。

「さあ?」

肩を竦めてそういう彼女に

「さっき、さんのお母さんに言われて..なんか..そうなんだって思いました」

「『そう』って?」

「優勝したんだな、って」

黒子の言葉には「そうだね」と頷きハタと気がついた。

自分はまだそんな報告をしていない。

ということは、彼らの誰かが報告してくれたのだろう。

「ま、いっか」

並んで洗い物をする達の目の前で、今度は赤司がの母親とチェスをしている。チェス盤だけは、以前からもこの家にあったのだ。


先ほど、赤司が提案し、彼女が乗った。

そして、勝負をする前に赤司が賭けを持ち出した。

「いいけど、何を賭けるの?」

「僕が勝ったら君をください」

一瞬の沈黙。そして

「何言ってるんスか!」

「さっき負けたばかりだろう!!」

「えー、赤ちんずるいー」

「赤司君、諦めたって言ってたじゃないですか!」

「めげねーなー」

「ちょ、?!」

と皆が慌てた。

「うーん。それはダメ。だって、征十郎君の『ください』が、さんの人生に掛かることを含めてかどうかまでは、今は深く追求する気がないからしないけど、もし、そうだった場合、親が勝手に子供の人生を決めるとか、あたしの中ではありえないから。そうね...1泊2日。ウチに1泊2日のお泊り権をあげましょう」

「はい?」

赤司が問い返す。

「旦那は海外の単身赴任、あたしは出張が多い。場合によっては2人きりよ」

ぱちんとウィンクをして彼女が言う。

「ちょ、!何か言ったら!!」

桃井が慌てる。

「で、お母さんが勝ったら赤司くんに何してもらうの?」

慌てず彼女がそういった。

「んー、お子様に何かしてもらうってのもねー...」

の問いに彼女は唸る。

「赤司くん、現在京都の高校に通ってます」

が言う。

「ホント!じゃあ、えっと..なんて名前だったっけ。あの羊羹の」

彼女がを見た。が店の名前を口にする。

「そう!そこの羊羹を買って送ってー。送料も含めて代金は払うから。前に同僚が買ってきたんだけど、凄くおいしかったの。でもねー、2時間くらい並ぶらしいのよ。しかも、売り切れ御免なんだって。ちゃんと征十郎君が並ぶのよー。えっとね、小倉と抹茶と..何が美味しかったっけ?」

「栗。栗は季節物かもしれないけど」

が言う。

「そうそう、あれば栗も。1竿ずつねー。お店、知ってる?」

「...いいえ、有名なんですか?」

赤司が首を横に振る。そんなに興味が無いから知らない。

「住所をメールで送るよ。結構老舗らしいけどマイナーなんだって。たぶん、玲央さんなら知ってるんじゃない?」

が言うと「わかった」と赤司が頷いた。

「では、勝負を始めましょう」

の母親はにこりと微笑んだ。


さん。お母さんは大丈夫なんですか?」

黒子が不安そうに問うた。

「うん」

が頷く。

「えっと...」

その自信は何処から来るのか、と聞きたいのだが、聞いていいのだろうか。

「ウチの母親は、チェスで負けたことないんだって」

「でも、これが最初になるかもしれません」

「クイーンが負けるはずがないじゃない!だって」

が言う。

「...はい?」

「お母さんがああいう類のボードゲームで唯一やってるのが、このチェスなの。理由は『女王様』がいるから。あの人のチェス、うちの父親曰く、怖くてやりたくないそうよ。気迫が違うんだって」

からからと笑った。

「ねえねえ、ちん。蜜柑食べて良い?」

色々と飽きたらしい紫原が声をかけてきた。

「蜜柑?」

が首を傾げる。

「うん、さっき箱で買って帰ったんだよ」

「あ、そうなの?じゃあ、これに適当に盛ってきて」

そう言って籠を渡す。

「わかったー。たくさん食べて良い?」

「うん...まだ入るんだね」

半ば呆れながらは頷き、紫原は上機嫌にリビングを出て行った。

「黒子くんも、アレくらい食べたらアレくらい大きくなるかもよ」

が真顔で言うと

「あそこまではいいです」

と黒子も真顔で返した。



そして、その1時間後。

「羊羹!」

「...そこはチェックメイトでしょ」

静かな娘からのツッコミを受けつつ、高らかにの母親の勝利宣言がなされたのだった。









桜風
12.11.25


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