| 帰宅すると「先にシャワーどうぞ」とに言われた。 「いや、のほうが先に浴びればいいのだよ」 緑間が言うと 「わたし、テツヤも洗うつもりだから。先にどうぞ」 と言われる。 「...わかったのだよ」 (『2号』を付けてくれ...) 『テツヤ』という単語は、緑間にとっては、黒子につながりすぐに犬にリンクしない。 だから、テツヤとシャワーを浴びるとか言われたら、何か...嫌なのだ。 家の中に入ると「あれ、緑間っち。ロードワークっスか?」とすっかり寛いでいる黄瀬が声を駆けてきた。 コーヒーを自分で淹れたらしい。 「ああ」 「緑間っちも飲むっスか?」 「いや、先にシャワーを浴びてくる。が次に使うらしいからな」 そういった緑間に「ちゃん?」と黄瀬が反応し、彼は玄関に向かった。 「わ!ちゃん、どうしたんスかー」 玄関先で賑やかに騒いでいる声を背に受けながら緑間はバスルームに向かった。 昨晩、シャワーを浴びて寝たい人は好きにしろと言われていた。 タオルも新しいのを出してもらえば良いし、使ったら洗濯機の中に突っ込んでくれれば一緒に洗うだけだから、と。 そのため、タオルが何処にあるとかそういう説明は既に受けていたのだった。 シャワーを浴びて、昨晩の言葉に甘えてタオルを使わせてもらい、に声を掛ける。 「はいはい。よし、テツヤ行くぞー」 そう言ってテツヤ2号を小脇に抱えてはバスルームに向かった。 「何か、『テツヤ』って呼ばれるのは面白くないスねー」 緑間と同じことを思ったのか、黄瀬が呟く。 緑間は心の中で頷き、家に届いていた新聞に目を通し始めた。 (どうでもいいが、黄瀬もだが、かなり自由に振舞わせてもらっているのだよ) 自分ちか!と思わず自分で突っ込みを入れたくなるほど何だか生活しやすい。 「きゃう!わう!!」 バスルームの方から犬の悲鳴が聞こえる。 「こらー、逃げるなー」 も声を上げている。 「あー、お風呂嫌いなんスねー」 苦笑しながら黄瀬は呟き、「緑間っち」と彼にコーヒーを渡す。 「ああ、すまない」 受け取って一口飲む。 昨日も思ったが、意外と美味しいのでちょっと腹が立つ。 「おーい、誰かー」 少ししてが誰かを呼ぶ。誰でもいいのだろう。 黄瀬と緑間は揃ってバスルームに向かった。 「どうした?」 「テツヤ、よろしく」 そう言って殆どずぶ濡れのTシャツを着たがバスタオルと共に犬を渡してきた。 「あ、拭いておけば良いんスね」 「うん、よろしく。わたし、シャワー浴びるから」 そう言ってはドアを閉めた。 黄瀬と緑間は同時に頭を振る。 同じものを想像してしまったらしい。 (てか、ブラが透けてたんスけどー...) 朝から刺激的である。 少ししてが出てきた。 すっかり乾かしてもらったテツヤ2号がの足元でじゃれる。 「その子の朝の散歩とか、いつもちゃんがしてあげてたんスか?」 水分補給をしているに黄瀬が問う。 「ううん、朝の散歩は火神く..わ、まずい!」 はわたわたと慌て始めた。 「?」 「おはよー」 のっそりとリビングに顔を出したのは紫原だった。 「おはよース」 「おはようなのだよ」 「紫原くん!」 しがみつくようにが彼の着ている『天使LOVE』Tシャツを握る。 「おはよー、ちん」 「おはよう!あのね、氷室さんに電話して!」 「室ちん?」 そう言って首を傾げる。 「うん!」 「わかった。ちょっと待っててー」 そう言って携帯を取りに部屋に戻った。 「何故氷室に?」 「たぶん、火神くんちに泊まってるから。そして、わたしは火神くんの携帯も家の電話も番号知らないの」 基本的に、自分への連絡はリコか黒子経由なので、他の人を知らなくても困らないのだ。 「2人は知り合いなんスか?」 「火神くんも帰国子女なんだけどね、アメリカにいたときからの氷室さんはお兄さん的存在だったんだって」 が応えていると紫原が戻ってきた。 「はい」 「へ?」 既にダイヤルが選択されてコール中だった。 <もしもし?> (わ、英語?!) <もしもし、氷室さんですか?> 「あ、英会話っス」 「あー、室ちん。時々英語で電話に出るからねー」 そう言って紫原は蜜柑に手を伸ばす。 <あれ?アツシの番号からだったと思ったんだけど...誠凛の..さんだよね?> フルネームに自信がなく、いつも紫原が『ちん』と呼んでいるので氷室はそれを思い出して問う。 <はい。すみません、火神くんは居ますか?氷室さん、火神くんの家に泊まってると思っているんですけど> <ああ、うん。タイガの家に泊まらせてもらっているよ。けど、タイガならさっき出て行ったよ。犬の散歩があるからって。どうかしたのかい?> (やっぱり!) <その犬、わたしが今家につれて帰っているんです。置手紙でもすればよかったのですが、すっかり忘れてて。絶対心配すると思うんです。どうしよう...> <じゃあ、俺からタイガに電話をしておこう。伝えておくよ> <すみません、お手数をおかけして。ありがとうございます> <...ところで、こんな早朝に、何でアツシの携帯からさんから電話があるんだい?> 素朴な疑問。 <ああ。うちに泊まっているからですよ> が素直に応えた。 <...そうなんだ?> 氷室はそう応え、挨拶をして電話を切った。 「ありがとう」 そう言って携帯を返す。 「何の話をしてたの?」 英会話なのでさっぱり分からない。 「ああ、その子をうちに連れて帰ったんだけど、置手紙するの忘れてて、火神くんがビックリすると思ったから」 「何で火神?」 眉間に皺を寄せて紫原が言う。彼は火神をあまり好きではないらしい。 「えっと...」 「さん、大変です!」 慌てた様子で黒子がリビングにやってきた。 物凄い寝癖だ。 「おはよ」 「おはようございます。あの、2号が...あれ?」 携帯を握り締めていた彼は、の足元でじゃれているテツヤ2号を目にして目をぱちくりした。 「...火神君。2号はさんの家に居ました」 「はあ?!てか、何でんちにいるんだよ」 「えっと...代わります」 そう言って黒子はに携帯を差し出してきた。 は受け取る。 「もしもし?」 「はあ?何でと黒子が今の時間に一緒にいるんだよ」 「ああ、黒子くんがうちに泊まってたから」 「...へ?」 電話の向こうの火神は混乱しているようだ。 は掻い摘んで昨日から今朝までの話をする。 「ああ、そういうことかよ」 「うん、ごめんね。置手紙とかしなくて。さっき、紫原くんに頼んで氷室さんに電話させてもらって氷室さんから火神くんに電話してくれるって話になったから、氷室さんから電話があると思う」 「おー、わかった。一応、カントクには話しとけよ。あの人も2号のこと結構気にしてるから」 「あ、そだね。ありがとう。ごめんねー」 「おう、じゃあな」 そう言って火神は電話を切った。 「あ、切れちゃったよ」 振り返って黒子に言う。 「ああ、いいですよ。僕のところには2号がいなくなったって電話だったので」 から携帯を受け取りながら黒子が応えた。 「ああ、そうなんだ?」 「さん、何で僕の頭を見ながら話をするんですか?」 「いや、定点カメラ設置したいくらいの寝癖だね...どんな寝相してるの」 某人気漫画の主人公のキャラクターがバージョンアップしたとき並みの髪の立ち方だ。 「そんなに酷いですか?」 手櫛で整えると意外と大人しくなっていく。 「そういや、合宿のときも毎朝そんなだったスよね」 苦笑して黄瀬がいう。 「あ、おはようございます」 今気付いたかのように言われた黄瀬は肩を竦めて「さっきからオレたちここにいたんスよ」と主張しておいた。 |
桜風
12.12.3
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