グラデーション 106





少し自転車を漕いでいると3人のノッポが見えてきた。

「おまたせー」

が言うと

「おー、わりぃな」

と火神が言う。

「俺も良かったの?」

氷室が問う。

「まあ、なんと言いますか。7人も10人も変わらないと言うか...」

苦笑してが答えると

「ああ、アツシもお世話になってるんだったよね」

と氷室が言う。

「ええ。彼が率先してお世話になりに来ると言って...」

そういえば、昔もそうだったな、と思い出して少し可笑しくなった。

「けど、アレックスも」

火神が言う。

「言ったでしょ、7人も10人も一緒って」

「世話になるよ!」

彼女がそう言って「お世話しますよ」とが返した。

彼女は愉快そうに笑った。

は自転車を押そうとしたが、3人は乗ったままでも大丈夫だという。

それもそのはず。

3人は180センチオーバー。

つまり、脚の長さ、1歩の歩幅が違う。

が歩くよりも彼らが少し早足になるほうが効率的なのだ。

(神様は不公平だ...)

はそんなことを思いながら、彼らの歩調に合わせて自転車をこいだ。


「ただいまー」

が門を開けると、庭では既に餅つきが始まっていた。

「あ、始まってる」

「ホントにあるんだな、杵と臼」

「無かったら声をかけてないって」

火神の言葉にはそう返して自転車を置く。

「庭でも家の中でも好きなほうをどうぞ?」

「んじゃ、オレ庭に行くわ。タツヤは?」

「俺も庭の方にお邪魔するよ」

「私は家の中だな」

玄関で別れてそれぞれ向かった。

「あ、室ちん」

「腰が入ってねーぞ」と檄を飛ばしていた人が振り返る。

「ども」と火神がぺこりとお辞儀をし、「お世話になります」と氷室が言う。

「おー、しっかり働け」

そう言って彼は笑った。

「あんまに似てねぇな」

「面倒見の良さはお父さん似だと思います。確かに、雰囲気はお母さんに似ているとは思いますけど」

黒子と挨拶を交わした後に火神が言う。

黒子に言われて家の中を振り返ると何だか険悪だ。

「おい、タツヤ。あれ、止めた方がいいか?」

「え?」

火神に声を掛けられて振り返った氷室が家の中を見る。

「そうだな」

「あー、大丈夫。ウチの奥さん、基本的に攻撃的なだけだから」

「それ、大丈夫じゃねーだろ」

青峰が即行突っ込んだ。

「まあ、奥さんだけだったらね。ほら、ボクの天使が止めてるよ。あー、可愛いなー」

「おっさん、ホントにが家出すんぞ?」

半眼になって青峰が突っ込んだ。

「あれ何だ?」

火神が黒子に問う。

さんのお父さんにとって、さんは天使らしいです。本人、物凄く嫌がってましたけど」

(そりゃ、友達の前でそんなこと言われるのはやだろ、普通...)

火神が納得していると「旦那ー」と彼女が声をかけてくる。

「なに?」

「友達出来た!」

「良かったねー」

(((何だ、この会話...)))

「奥さんはさん以上に友達いないからね」

「そうなんですか?」

不思議そうに赤司が家の中を見る。

「姐さんって感じで頼られそうスけどね、お義母さん」

「...黄瀬。昨日から気になってたけど、お前やたらと枕詞忘れてるよな?『ちゃんの』って枕詞、忘れてるよな?ボクとか奥さんに」

そういいながら黄瀬の頭を右手で掴んでギューッと力を入れる。

「痛い痛い痛い...」

「黄瀬くん、気をつけてー。お父さん、片手でスイカ割る人だから。食べられないからやめてっていってるんだけどね」

「え?!」と黄瀬が声を上げて「すんません、ちゃんのお父さん!」とちゃんと枕詞をつける。

「おっさん、じゃあ。アレじゃね?木吉とか紫原ができる、バイスクローができんじゃね?」

「なんだそれ」

眉間に皺を寄せて彼が問う。

「テツ、バスケットボール借りるぞ」

そう言って青峰がリビングでテツヤ2号がじゃれていたバスケットボールを取り上げにいこうとした。

「なんだ、バイスクローって」

こっそりと赤司に彼が問うと「簡単に言えば、バスケットボールを片手で掴むことです」と答えた。

「あー、そんくらいならできるだろ」

うんうんと頷きながら彼が言う。

「おい、火神!」

青峰が声を上げる。視線はずっと家の中。

「んだよ」

「あの金髪ぼいんは誰だ!」

「...オレとタツヤのバスケの師匠だよ」

「んだと!ふざけんな!!」

青峰はなぜか怒った。理不尽に怒った。

「ああ?!」

火神も腹が立ったようで喧嘩を買う。

「つか、お前黄瀬と同じ反応してんじゃねーよ。あんとき、黄瀬はが居て慌ててたけどな」

「あ?黄瀬?」

青峰の頭に『?』が浮かぶ。

「ちょ、火神っち!」

黄瀬が止めたがもう遅い。

「火神君。何で黄瀬君がアレックスさんと面識があるんですか?それに、さん?」

黒子が問う。

「ああ、準々決勝の試合の後に会ったんだよ」

「タイガ!」

「火神、少し黙った方が良いんじゃないか?」

氷室と赤司も止めた。

「は?何で...」

そこでやっと気がつく。その場の説明をしたらとの約束を破ることになる。

「どういうことですか?さん、あのとき、凄く様子が変でしたよね」

「そーだねー。室ちんもなんか知ってんの?」

餅を搗く手を止めて紫原も問う。

「おー、手を止めんな」

の父親が声をかけ、「んじゃ、おじさんにあげる」と紫原が杵を渡す。

「緑間は付き合え」

「...はい」

餅を捏ねる役を負っている緑間にそう声をかけての父親は餅つきを再開する。

(俺も気になっているのだが...)

「手、止めるなよ。搗くぞ」

「...はい」

「火神君!」

責めるように黒子が声を上げた。

「準々決勝のあと、タイガと俺とアレックスは会ったんだ。そこにさんが来て、黄瀬君が来た。ただ、俺とタイガは時間が無かったから大した話も出来ず、結局話は昨日になった」

氷室が説明する。

「...何か、ひとつ隠していますね」

「べべべ..別に隠してねーよ!」

(タイガ...)

(うーわー...火神っち、最悪っス)

黄瀬が片手で顔を覆う。何かあったと態度で言っている。

「ったく、...!」

溜息をついて青峰が家の中に声を掛ける。

「なーにー。うわっ、さむ...!」

ガラス戸を開けてが返事をした。

「お前、準々決勝の後、何かあったか?」

ズバッと本人に聞く。

「青峰っち?!」

黄瀬が声を上げる。

「あったけど内緒」

が答える。

「だとよ、テツ」

言いたくないことなら、彼女はこう言うと思った。そして、彼女がこういってしまうと、もう誰も追及できるはずが無い。

「青峰君!」

青峰の目論見を悟って黒子が非難の声を上げた。

「どうしたの?ああ、火神くんがヘタクソなりに隠し事をしているのはわたしへの義理だから。だから、聞き出したかったらわたしを攻略してください」

がそう宣言をした。

つまり、

「...わかりました。諦めます」

知ることが出来ないと言うことだ。

黄瀬は胸をなで下ろした。

、その犬がじゃれてるテツのボール貸してくれ」

「いいよ」

そう言ってはテツヤ2号からボールを取り上げる。

「ちょい待て。これ、第一弾終わりでいいや」

そう言っての父親は出来上がったばかりの餅を家の中に運ぶ。


「んじゃ、第二弾は誰がするよ」

に蒸したもち米を渡されて臼に入れながらの父親が言うと

「オレがやる。黄瀬、お前臼担当な」

と青峰がいった。

「いいっスけど。手は搗かないでほしいっスよ」

「おー、まかせろまかせろ」

物凄く適当に返されて黄瀬は心から不安になった。









桜風
12.12.5


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