| 「いやぁ、平和だねー」 庭では、片付けのため、と父親が臼と杵を洗っている。 「冬だってのに、アレ水だよー」 の母親が苦笑した。 「え、風邪引いちゃうんじゃないスか?」 黄瀬が心配そうな声を上げた。 「大丈夫、あたしが全力で看病したげるんだから」 ふっふっふと笑いながら彼女が言った。 「ありがとね」 の母親がポツリと呟く。 「搗きたての餅って、美味しかったよー」 「そっちじゃなくて。や、餅つきもだけど」 そう言って苦く笑う。 「あなたたちが初めてだったのよ。あの子を受け入れることが出来た、他人は」 皆は顔を見合わせた。 『あなたたち』に自分が入っていないとわかった火神たちは静かに見守る。 「どういうことですか?」 桃井が問う。 「あの子、中2で転校してきたでしょ?あれ、あたしが学校を変えさせたのよ」 「...ロクでもない原因みたいですね」 赤司が言う。 「そうね」との母親は頷いた。 「人って、自分の常識の範疇を超えているものに恐怖を感じるのよね。ウチは、あの子が中学に上がるまでは旦那が専業主夫で家の事全部やってて。 幼稚園のときからあの子は異端児として周囲から排除されていたのよねー。家庭環境が珍しいから。あと、あの子もちょっと変わってたみたいだしね。 あたしも旦那も他人の事が全く気にならないから自分たちの噂に頓着してなくて、そしたら周りは面白くないからあの子に矛先を向けていたみたい。 まあ、幼稚園のときも小学校のときも旦那がそれに気付いて、弾丸サーブでシバいてたみたいだけど」 「...は?」 青峰が声を漏らした。 「言わなかったっけ?旦那、バレーやってたって」 「いえ、聞きました。ですが、弾丸サーブ?」 赤司が確認した。 「実際、スピードガンで計ったわけじゃないけど、結構行くらしいよ。世界大会出たこともあるエースアタッカーだったし。保護者のレクリエーションのママさんバレーで、本気のジャンプサーブをぶっ放してたらしいのよね。相手コートのママさん、大泣き。ざまぁ。 まあ、だから余計に旦那の評判落ちて、娘が苛められることになるとは思ってなかったけどね。だって、普通。報復は本人にすべきでしょ」 「え、ちょっと待ってください。世界?」 「うん、世界」 何でもないことのように彼女は頷いた。 「ウチの旦那、あんなだけど。アレ、身内限定だから。基本、他人に冷たくて、容赦ないらしいから」 (((想像できない...))) 「で、あたし達が知らないうちにくっだらない苛めらしきものを受けていたので、学校を変えさせた。本人、さほど気にしてなかったらしいけど、学校側が全然問題に思ってなかったからね。これは拙いって思ったの。 で、転校先では、適当に手を抜いて目立たず、他人に埋もれるように心がけるようにアドバイスしてみたの。あたしも旦那もどっちかといえば突出してたからやっぱり周りから攻撃されたけど、その分、他人からの攻撃には倍返しで、というモットーだったからすぐにそういうのはなくなるのが通例だったのよね。 さんは、他人に興味が無いから、反応するのが面倒くさくてやられっぱなしだったみたい。 転校先に考えた条件は、私立でネームバリューがあって、制服があって家から通えるところ。そしたら、ひとつしかなかった。イカれた制服の帝光中学」 「何で制服...」 黄瀬が呟くと 「私服だったら、服を破られて捨てられても中々気付かないという教訓を賜ったから」 彼女が言う。 「相当えげつねーなー」 「まあねー。私立は生徒が『お客さん』だし、寄付金たくさん出してりゃ、又同じことがあっても対応は早いだろうしね。あと、ネームバリューに拘ったのは、同じことがあって対応しなかったときの脅しに使えるかなって。マスコミ味方につけたらあの人たちは物凄く叩いてくれるからねー。ネームバリューがあればあるほど面白おかしくね。 で、イカれた制服の帝光中学がそこそこの距離にあったからそこを選んだのよ。」 「イカれたって...」 黄瀬が呟く。 「白いジャケットなんて着る人を選ぶでしょ。制服は人を選んじゃダメでしょ」 と返された。 なるほど、と黄瀬は納得する。 (オレは超似合ってたスけど) 余計なことまで考えた。 「あの子、しっかりしてるから放っておいても大丈夫だって思ってたんだけどね。これは拙いって、旦那と話して。夜は基本あたしたち帰るのが遅かったから、朝、旦那が前日に学校で何があったか聞いてたの。そしたら、やたらと名前が出てくる子達が居て。あ、この子達がさんの初めての友達かも!ってあたしと旦那凄くざわざわしてたわー。 中学のとき、征十郎君を除いて遊びに来てくれたでしょ?」 「うん。お土産美味しかった」 紫原が当時のお土産の味を思い出しているように空を見た。 「あの時、征十郎君が来てなかったから征十郎君は友達じゃなかったのかと思って、皆が帰った後思わず聞いたの。「征十郎君は用事があったのかなー?」って。そしたら「しらなーい」って。何で皆が来たのかその経緯を聞いて、可笑しくて笑っちゃったわ」 「実は、今回もそんな感じでお邪魔してます」 今更だが、黒子が言うと 「いいのよ。さんが楽しそうだから」 と彼女は笑った。 「さっちんは、知ってたの?」 紫原が問う。 「え?あ、転校の理由?」 桃井が問うと彼が頷く。 「うん。二軍のマネージャーが面白おかしく噂してたの聞いたことがあるから。それが本当だって、偶然居合わせた本人から聞いた」 「何故僕に言わなかった」 不快を露にして赤司が言う。 「だって、あの子達、のこと、「だから、赤司君の後ろに隠れてるんだ」って揶揄してたのよ」 と言う。 「まあ、赤司はやたらとを構ってたもんなー」 「涼太ほどじゃない」 「えー!紫原っちもちゃんに結構ちょっかい出してたじゃないスか」 「みどちんだって、用事も無いのに声掛けてたじゃん」 「俺はちゃんと用事があって声をかけていたのだよ。黒子だって良く湧いていたのだよ」 「人をボウフラみたいに言わないでください。桃井さんだって、よくさんを連れて行ってました」 「え?私??私だって用事があったから来てもらってただけだし。それよりも、大ちゃんは毎日教室でもお弁当のおかずを取ってたってから聞いてるよ」 見事に一周した。 の母親は声を上げて笑う。 「ありがとう」 彼らに向かって、心を込めて言う。 「別に、お義母さん..ちゃんのお母さんにお礼を言われたくて一緒に居るわけじゃないスよ」 黄瀬が言う。枕詞を忘れずに。 「あのね」と桃井が口を開いた。 「どうした?」 「に、転校のきっかけの話を聞いたときに言われたの。100%の味方がいるって凄いことだって。帝光中でそれが出来たって」 「...そう」 の母親は目を細めた。 「けど、私聞けなかったのよね。何人居る?って」 「どうしてなのだよ」 緑間が問う。分かりきっている、7人だ。 「だって、6人って聞くの寂しいじゃない。私は入ってない...」 桃井の言葉に皆は瞠目した。 「ばーか」と青峰が桃井の頭を軽くはたく。 「痛い!」 頭を抱えて抗議の声を上げる桃井に 「7人ですよ、桃井さん」 と黒子が言う。 「へ?」 「さっちんが入ってないとか絶対ないし」 紫原が溜息混じりに言う。 「あのね、さつきちゃん。学校の話を聞いてたって言ったでしょ?いちばん多く名前が出てきてたのは、大輝君なんだけどね」 「何でっスか!」 黄瀬が抗議の声を上げる。 「だって、毎日お弁当のおかずを横取りしてたみたいなんだもん」 その報告が毎日あるから、毎日名前が挙がっていだだけなのだ。 「けど、それを除いたら、さつきちゃんが一番だったのよ。「桃井凄いよー」とか、「コンビニの美味しいプリン教えてもらった」とか。凄く楽しそうだったのよ」 その話を聞いて桃井は「えへへ」と照れたように笑う。 彼女の中にあったわだかまりがすっと溶けた瞬間だった。 「はーい、2人とも。風邪引くわよー。ま、そうなったら全力で看病してあげるけどねー」 彼女は、既に臼と杵の掃除も終わっているのに水遊びをしている夫と娘に声を掛ける。 「さん、バスルームに急行!風邪を引いたら僕達に安息の時間が無いようだ」 「ラジャー!」 そう言って濡れねずみ状態のは廊下をびちゃびちゃにしながら走ってバスルームに向かっていった。 「2人とも、失礼しちゃう!」 ぷんすか怒っているの母親に皆は苦笑を零した。 |
桜風
12.12.7
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