グラデーション 110





少し遅い時間にお昼を食べ終わり、皆が帰宅する。

あれだけ餅を食べたというのに、紫原が「おなか空いたー」と言ったのだ。相変わらずのブラックホールな胃袋をしている。

皆が帰った後、はリコに3時頃訪問して、手伝いをする旨を告げた。

最初断られたが、そこは、赤司が「僕の妹」と称する。なんとか説得して手伝いをもぎ取った。


3時頃にリコの家に着くと黒子と火神、そしてアレックスが待っていた。

「おい、2号は?」

のそばに彼の姿が見えない。

「ここ」

そういっては肩からかけていた大きめのトートバッグの口を開けると「ワン!」とテツヤ2号が顔を出す。

「あ、いいですね。そのバッグ」

「うん、お母さんが雑誌の付録だから使っていいってくれたの」

はそう言ってバッグを肩に掛け直す。

「氷室さんは?」

「ん、帰った」

「ご実家も秋田?」

「今はそうみてーだな」

火神は気のないような素振りを見せながらそう答えた。


リコの家のジムも年末のためかしまっていた。

今日・明日で今年が終わる。

インターホンを押すとエプロン姿のリコがでてきた。

すでに準備を始めているらしい。

「いらっしゃい。って、黒子君と火神君。アレックスさんも?」

「なんか、心配なんだそうです」

「失礼しちゃう!」

リコがプンスカしたが気にせず「おじゃましまーす」と家に上がった。

「おー、いらっしゃい」

彼女の父親に声をかけられて口々に挨拶をした。

台所に案内されて「うわぁ...」と火神の口からため息が漏れた。

に頼み込んで正解だったぜ...)

どうやら黒子も同感だったらしく、火神を見て頷いていた。

「あれ、。2号は?」

連れてくるようにって言ったのに、と彼女がこぼす。

「いますよ」

そういって肩からかけていたトートバッグを床において口を開けると、テツヤ2号が元気よくでてきた。

「わ、いいじゃない。そのバッグ。どうしたの?」

「雑誌の付録だそうです。自転車の籠に乗せてこようと思ったんですけど、寒そうだったのでテツヤ2号用に母からもらいました」

「じゃあ、部室に常備しておいても大丈夫なのね」

「はい」

はもう一つ持っていたバッグからエプロンを取り出して身につける。

「さて、今どこまでやってたんですか?」

リコに問うと、

「まだ材料を切ってるところよ」

「お手伝いしましょう。具材は何にするんですか?」

そう言ってリコとともに冷蔵庫の中をのぞき込む。

飲み物をまだ買っていないから、と黒子と火神は買い出し部隊として使われた。

アレックスも所在がないからそれに付いていく。

その間、とリコは鍋の準備に取りかかる。

「手伝う」と言ったが、基本的にはリコの指導に徹していた。

鍋の具材の大きさを揃えること。

口を酸っぱくいって、リコは半泣きになりながらもの厳しい指導に耐えた。

間違いなく、彼女のレベルはあがった。

鍋の出汁はが取り、そのころには皆がそろってきていた。

「おー、。早めにきてくれてたんだなー」

心からの感謝の言葉を口にしながら日向が言う。

「や、火神くんと黒子くんに頼まれましたので」

苦笑してが返す。

「何で火神と黒子?」

素朴な疑問を口にされては昨日から先ほどまでの状況を話した。

「なに、そのカオスっぷり」

「なにを言ってるんですか。キセキの世代がそろってどうしてカオスにならないんですか」

遠い目をしてが言う。

「あ、そうそう。だから、お餅も持ってきましたよ。ただ、紫原くんのブラックホールの胃袋のおかげで一人1個ずつしか持ってこれませんでした...」

しゅんとしてが言う。

「つか、一般家庭に杵と臼ってすげーな」

「あー、珍しいみたいですね」

今日のみんなの反応からそうだということに気づいた。

「てか、の家って。年越しそばも自前で打ちそうだよな」

冗談で降旗が言う。

「え、うん。打つよ、そば」

「「「えーーーー!!!」」」

皆が声を上げる。

「へ?え、カントクの家だって打ちますよね」

「打つわけにじゃない。打たないわよ、一般家庭では。フツー」

呆れたようにリコが言う。

「ほ、ホント?!」

が心底驚いたように黒子をみた。

「え、はい。僕の家でもそばは打ちません」

「マンションやらが増えたから、マンションに住んでる人たちはそばうちしないけど、一軒家はそば打ちするって...」

は初めて耳にする事実に打ちひしがれた。

中学のときにこの話題があれば、もっと早くに知ることができただろうが、残念ながら初めて上った話題だ。

「誰が言ってるの、そんな変なこと」

呆れながらリコが言うと「父です」とは沈んだまま答えた。

(こうしてさんの感覚はずれていってたんだな...)

たまにちょっと変わった感覚を持ってるな、と思うことはあった。

彼女にとっての常識はたまにちょっと変わっていたのだ。


「いいから座ってて」

リコにそう言われても席に着いていた。

「できたよー」

そう言いながらリコが鍋を持ってくる。

コンロの上に置いて皆が鍋の中をのぞき込む。ちゃんと食材が均等な大きさで切られている。

ほっと胸をなで下ろした。

しかし、問題は味である。

さんが出汁を取っていましたから大丈夫ですよ」

みんなの心境を察した黒子がいうと皆は安心して箸をのばした。

「みんな、飲み物わたったね?」

リコが確認する。

「じゃあ、日向君。乾杯の音頭お願い」

リコに言われて日向が頷いた。

彼の乾杯の音頭に続いて皆が「かんぱーい」とグラスを掲げた。

皆が箸を口に運ぶ。

「う..めぇ?」

疑問系。

「ちょっと待ってください」

凛としたの声がまっすぐリコに向かった。

「カントク、なにを足しました?」

「へ?な、何のことかなー...」

「味を足しましたね」

静かに言うにリコは「そんなことするわけないじゃなーい」とごまかそうとしたが、「バナナの香りがします」と的確に彼女は言い当てた。

「へ?」

伊月が取り皿の中の具の匂いを嗅ぐ。

「わかるか?」

そばにいた水戸部に問うが、彼は首を横に振る。

「バ、バナナ入ってる?」

「プロテイン、足しましたね?」

ビクリとリコの肩が震えた。

「カントク...」

が静かに彼女をみた。

「や、だって。ほら。ついでだし。応用じゃない」

彼女は言った。

「カントク。応用というのは、基礎ができてその次のステップですよね?」

つまり、ここではリコに落第の印を押したことになる。まだ基礎ができていない。

「ちょっと、回収します」

取り皿に取った具を鍋に返してもらい、「台所、借りますよ」とが言った。

「うん...」

よかれと思ったことだったのに、怒られた。

しょんぼりしながらリコは頷いた。

、いいよ。バナナって結構自己主張が強いから無理だろう。最初から出汁を取るのは今のが勿体ねーし」

日向が声をかけた。

「このわたしを誰とお思いですか?大丈夫です」

そして、視線でリコを指した。

(よろしくお願いします)

彼らにフォローを任せて味を調え始める。

(ある意味一番難しい問題丸投げにしやがった...!)


彼らがリコを慰めている間には見事に味を復活させた。

再び皆の前に鍋を置き、皆がそれを口にする。

さっき食べたときに覚えた違和感が消えている。

「すげー!」

「カントク。そんなにプロテインを入れたいですか?」

が問う。

「だって、みんなに強くなってもらいたいし」

「わかりました。では、まず。入れるならプレーンにしてください。匂いや味が付いているものは、料理の味を台無しにします。あと、量も考えてください」

「...入れてもいいの?」

伺うようにが言う。

「できれば、料理は料理。プロテインはプロテインに分けてもらいたいと思いますけど、カントクがそこまで拘るなら、仕方ないです」

(((いや、仕方なくねーぞ!)))

彼らの心の声は聞こえたが、はあえて黙殺した。

リコの思いも酌んでやりたい。


食事をすませて解散となる。

「んじゃ、4日なー」

誠凛高校バスケ部は1月4日から始まる。

それぞれ挨拶をして帰っていった。

はリコの片づけを手伝い、テツヤ2号をバッグに入れて相田家を後にした。

さん」

「わ、黒子くん」

ジムの前の駐輪場に向かうと、黒子がいた。

「まだ帰ってなかったの?」

「はい、送っていきます」

「大丈夫よ、自転車だもん」

がそう言うが、

「送っていきます」

ともう一度言われた。

「...送られます」

観念してが言うと「はい」と満足げに黒子は頷いた。









桜風
12.12.10


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