| プレ合宿と言ってもかなりきつそうだった。 今回の合宿から容赦なくふるい落としていくと監督は言っていた。 「さすが全国クラス...」 がつぶやく。 「そうね。けど、木吉さん、受けると思わなかった」 「そう?」 隣に立つ桃井と会話をする。 どうにも自分に向けられるスタッフたちの視線が痛い。 「ねえ、は今回スタッフとして召集されてるじゃない?」 「されてるねー。もの凄く迷惑がられてるけど」 肩を竦めて言う。 「あっちの方もするの?」 「さつきがいるのに?しないよ」 真顔で返した。 「え!いいじゃない、やろうよ」 桃井が言う。 「やらなーい。そっちやったらこっちができなくなる」 「そうなの?」 「そうよ。だから、せっかくさつきがいるんだからやらないわよ。わたしはこっちでサポートする。そのほうがしっくりくるし」 「こっち」と「そっち」と指示語ばかりだがお互い理解しているので問題ない。 「けど、そっちだけだったらスタッフの理解は得られないんじゃないのかな?」 「それこそ知ったこっちゃない」 がスパッと言った。 「を召集した赤司君の面目は?」 「この程度で潰れるような面目は持ち合わせていないはずよ」 はそう返して作業を始めた。 (なんか、変に信頼関係が厚いのよねー...) 中学の頃からそれは感じていた。 だから、赤司はの言葉に耳を傾けていたのだろう。今でもきっとそうだ。 少しして笛が鳴る。 休憩だ。 ドリンクとタオルを配る。 「さすがだねー」 タオルを受け取って紫原は忙しそうに体育館の中を走り回っているを眺めた。 「さすが?」 氷室が首を傾げる。 「ちん、全部無駄のないタイミングだから。この合宿の中でたぶん分かるし」 いまいち紫原の言っていることがわかない氷室は「そうなんだ?」と適当に相づちだけを打った。 練習が終わり、片づけていると「片づけておけよ」と今まさに片づけているにも拘わらずほかのスタッフに言われた。 「はーい」とは返す。 使ったドリンクサーバーを水で洗い、タオルも洗う。 体育館に戻ってみると黄瀬と青峰の1on1が展開されていた。 「あら、いいの?」 赤司に近づいてが聞いてみると 「本人たちがやりたいんだ。やらせればいい」 と肩を竦めた。 「片づけは済んだのかい?」 赤司が問い、はうなずく。 「ほかのスタッフは?」 「さあ?」 赤司の眉間にしわが寄る。 どうやらスタッフたちはを小間使いか何かのように勘違いしているようだ。 「言わなくていいよー」 が言う。 「いいのかい?」 「いいよ。あんま興味ないし」 「僕は腹立たしいけどね。まあ、君の意思を尊重しよう」 「ま、本合宿でご不便をおかけするかもしれませんけどー」 が言うと赤司はもの凄く不愉快そうに眉間にしわを寄せた。 「怖い顔してるよー」 そういっては赤司の眉間に手を伸ばしてむにむにとそのしわを伸ばす。 この世の中でそんなことができるのは、それを赦されるのは彼女しかいないことを、彼女は自覚していない。 合宿であるが故に風呂と夕食の時間は決まっている。 決まった時間に風呂に入って食事をすませ、あとは自由時間だ。 「ねえねえ、」 桃井が声をかけてきた。 「なに?」 「これ、一緒にみない?」 そういってノートパソコンとディスクを取り出した。 「エロビ?」 「もう!そればっかり!!」 ある意味トラウマだというのに... は声を上げて笑う。 「んで、ホントはなに?」 「韓国の高校生の大会。決勝戦」 今回の世界大会に韓国も参加する。 「どうやって手に入れたの?桐皇って姉妹校が韓国にあるの?」 「ううん。別の学校の知り合いに取り寄せてもらったの。今回の大会のことを聞いて、手を回せるものは回してる」 「さっすが」 「からかわないで!」 「ごめんごめん。ちなみに、こっちは、米国をアレックスさんに頼んでみてるから。あと中国はお父さんに頼んでる」 「...おじさん、協力してくれるの?」 彼女の父親は昔、友人たちにバスケに熱心に誘われてそれが鬱陶しくてバスケが嫌いになったらしい。 そのため、今でも「滅びろ、バスケ」と大人げないことを口走っているとか。 「ちゃんと交換条件だもの」 「交換条件?」 「いいデータを持って帰ったらデートしてあげるの」 「娘ラヴ!!Tシャツで?」 「...それは却下」 の表情が本当に苦々しくて、だから桃井は笑った。 映像をみているとドアがノックされた。 桃井が応じると黄瀬が顔をのぞかせてきた。 「きーちゃん。だめよ、夜這いは」 「えー、いいじゃないスか」 「何を言ってるのだよ!」 「あ、みどりんも居るの?」 「ちん、寝ちゃった?」 「今拝み倒してあれやってもらってる」 桃井が苦笑して言う。 ドアを全開して中を見せると、がノートパソコンをじっと眺めている。 「あ、録画っスか。え、どこの?」 「韓国。高校生の大会の決勝の映像が手に入ったから。データとしてあとで起こすけど、あの頭の中にも生データを入れてもらおうと思って。このカードで代表候補のうち半分近くがでてるから」 「あまり君を使うなよ。あっちもこっちもできるほど楽なものじゃないだろう」 赤司が言うと「わかってるわよ」と桃井がむくれた。 スピーカーからブザーが聞こえた。 「」 桃井が声をかける。 「お腹空いたー...もうこれが限界」 そういって映像を止める。 まだ前半が終わっただけだが、カロリー確保ができていない今、にはこれ以上は無理だ。 「ちん。食べる?」 「あ、紫原くん、いいところに。食べるー」 そういってドアに向かい、手を出す。 チョコレート菓子を彼女の手の上に置いた。 「ちん熱いよ」 「うん、そうだよ。エネルギーを燃焼してましたから」 そういって口の中にチョコレートを放り込んだ。 「で、みんなはどうしたの?」 「遊びに来たっス!」 「はあ...」 が曖昧にうなずく。 「桃井、後であのデータを見せてくれ」 「うん。もちろん」 「遊びに来たって、何するの?」 「ウノを持ってきたっスよ」 「何で持ってくるのかなー」 そういいながらは苦笑し、「ロビーに行きますか」と声をかけた。 |
桜風
12.12.16
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