グラデーション 115





合宿から帰ると、その数日後には3学期の期末試験が目前だった。

本合宿は3月の半ばで、試験明けに予定されている。

3学期の試験は進級に関わってくる。

普段からそれなりの成績を修めていればそこまで心配することはないのだが...

「もうさー、緑間くん特製コロコロ鉛筆に頼っちゃえばいいじゃん」

かなり危ないところに立っている火神に対してが溜息混じりにいう。

「ぜってーやだ!」

変な意地を張って火神が言う。

しかし、だからと言っても彼の成績に自信があるというわけではなく。

さん」

黒子が声をかけてくる。

「はいはい?」

さんは、授業中にノートは取ってますか?」

「うん。覚えてるけど、取ってないと心証が悪いからね」

が頷く。

「教科書にマーカーとか」

「それも一応。なに?」

「それを放課後毎日、試験日まで借りることはできますか?」

「うん、いいよ。必要ないから」

は首を傾げて言う。

「ありがとうございます」

早速本日授業があったノートと教科書を貸す。

彼らは学校で勉強して帰ると言っていたので、持って帰らないのなら教室の机の中に入れておいてもらうように言って帰宅していった。


「黒子、のノートと教科書。どうするんだ?」

河原が聞く。

試験前、火神の面倒を見るのはバスケ部1年全員の課題でもある。

まあ、人に教えると自分の勉強になるし、と彼らはあっさりその状況を受け入れている。

さんはおそらく板書のすべてを記憶しているわけではないと思います。必要な箇所だけを要領よく覚えている。それはノートや教科書に現れているのではないかと思ったんです」

「や、あいつなら全部覚えられるんじゃねーの?」

福田が言うと

「たしかに、それも可能だとは思います。実際、教科書は全部覚えているそうです。ただ、いつもさんが言ってると思いますけど、頭を使うことは即ちカロリーをたくさん使うということで。だとしたら、さんは授業のたびにおやつを食べているはずですが、そういうことを話したことはありません。これは、中学の時からです」

つまり、たびたびカロリーを摂取しなくてはならないほどは頭を使っているわけではなく、最低限で抑えているということだ。

「なるほど、省エネでやってるってことか」

「はい。だから、ノートや教科書もその程度、必要最低限の情報で抑えているんじゃないかと考えたんです」

「へー、なるほど...」

「今から本気でがんばっても時間はたぶん足りません。無駄なことは省いてしまいたいじゃないですか」

「やっぱ、すげーなー」

「てか、気づいた黒子もすげーよ」

何となく明るい未来が見えた気がした彼らは胸をなで下ろした。



(ビバ!テスト期間!!)

そんなことを思いながらはテクテク街中を歩いていた。

テスト期間中は部活がない。

つまり、放課後丸々自分の時間なのだ。

(どこ行こうかなー...)

特におしゃれとかそういうのに興味があるわけではないが、かわいい服を見るのは好きで。だからたまにふらっと出かけることがある。

ちゃん!」

背後から抱きすくめられた。

「そろそろチカン扱いしていい?」

が言うと

「何でっスか!」

と抗議された。

(抗議したいのはこっちだー...)

心の中でつっこみを入れる。

「お仕事?」

「そうっス。試験期間中は容赦なく入れられるんスよねー」

海常も現在試験期間中のようだ。3学期はどこも同じなのかもしれない。

「撮影は終わったの?」

「今日は早く上がれたんでちょっとプラプラしてたんスよ。ちゃんに会えたってことは運命っスね!ちゃんはどこか行くところだったんスか?」

黄瀬が付いていく気満々の表情で聞いてきた。

「ううん、目的なくぷらぷらと...あ、そうだ」

何かを思いついたようには黄瀬を見上げた。

「何スか?」

「黄瀬くん、あとは帰るだけ?」

「そうっスよ」

「じゃあ、さ。夕飯つきあって。食べたい物があるんだけど...」

が言うと黄瀬の目が輝く。

「デートっスね!」

「...それはどうだろう」

「で、どこに行きたいんスか?」

弾んだ声で黄瀬が問う。

「うん。牛丼」

「...もうちょっとおしゃれなトコとか」

黄瀬が目に見えてがっかりしている。

「いやなら良いんだけど」

ちょっとしょんぼりしてが言った。

「イヤじゃないスけど。あれ?お義母さんは??」

「今日は出張。だから夕飯の支度いらないから、今回がチャンスかなって...」

「わかったっス。じゃあ、どこに行くっスか?」

気を取り直して黄瀬が了承した。

「どこがいいの?」

が首を傾げて問う。

「あの、ちゃん。まさか、食べに行ったことがないとか...」

「うん」

彼女はこくりと頷いた。だからこそ行ってみたいと思ったのだとか。

(なるほどー...)

基本的に家族で外食はしなかったらしい。家で食べた方がゆっくりできるし美味しいから。

そして、牛丼というのはさすがに女子一人では入りにくい、というイメージが世の中にあると聞いて、入らない方がいいと思ったようだ。

(結構浮き世離れしてるところあるんスよねー...)

「じゃあ一番近いところにするっスか」

視界に入った看板を見て黄瀬が言う。

「うん、ありがとう」

「おやすいご用っスよ」

にこりと笑って黄瀬はの手を取ってあるきだした。









桜風
12.12.19


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