| が目を覚ますと部屋の中が薄暗かった。 体を起こして気が付いた。服が着替えられている。 着替えさせてくれたはずの桃井に感謝しつつ、今の時間を確認する。 午後8時過ぎ。 テーブルの上には桃井の字でメモがある。 どうやら、桃井はスタッフミーティングに出席しているから部屋に居ないらしい。 本当はも出席しなくてはならないのだが、今更出ても話についていけないだろう。 ベッドの上でぼうっとしていたが、ふと思い出した。 「掃除、しなきゃ...」 ベッドを降りて足を地面につけ、思わず顔を顰める。 「靴って偉大...」 替えの靴は1足だけ持ってきていた。 この合宿の間も朝晩のロードワークはしておこうと思っていた。もしかしたら雨に降られて靴がずぶ濡れになるかもしれないと考えて予備を持ってきていたのだ。 今回はそれが幸いした。 靴を履いて体育館を目指した。 体育館の電気が点いていた。 (こんな遅くまで誰が...) はそっとドアを開けた。 黒子がひとり練習していた。 「休まなくても大丈夫なの?」 が声をかけると彼は驚いたように振り返った。 「さん」 ひょこひょこと少し足を引き摺って歩いているの元に黒子が駆け寄る。 「さんこそ、部屋でゆっくり休んでいなくてもいいんですか?」 心配そうに声をかけてくる。 「うーん、体育館汚しちゃったから掃除しなきゃって思って」 そういいながら彼女は体育館の中を見渡した。 「それなら、みんなでしたのでもう大丈夫ですよ」 黒子が言う。 彼の言うとおり、体育館の中、自分の記憶に残っている場所の汚れは無い。 「上は?」 そういいながらはスタンドへの階段を上がる。 「上も、緑間君たちが掃除していました。だから、さん」 黒子がついて歩く。 「あー、ホント。汚すだけ汚して綺麗にしてなかったのに。わー、申し訳ないわ」 何と、外側もどうにかして掃除してあるのだ。 あそこは、本当に自分がするしかないと思っていたので、正直意外だった。 「さん」 黒子が少しだけ強い口調で彼女の名を呼ぶ。 「なに?」 は首を傾げて黒子を見上げた。 「何で、桃井さんと一緒に逃げなかったんですか」 どうやら、彼は状況を知っているらしい。 いや、先ほど緑間に「桃井は?」と問うと「無事だ」と応えた。 彼女が粗方の話をしたのだろう。もしくは、彼女が口にした単語を結びつけて状況を察したのか... 「さつきとわたし、どっちが足が速いと思う?」 「さんです」 悩むことなく、黒子は即答した。 距離が短ければ、彼女は黒子よりも速い。 ドリンクサーバーを回収するため、桃井に聞いた場所は体育館に程近かった。 だから、は桃井も逃げ切れると思ったのかもしれない。 「そう、わたしの方が速いのよ。一緒に逃げたらどうしたって桃井の速さにあわせるしかない。そうしたら、一緒に掴まってたかもしれない」 それがいちばん最悪の事態だ。 の言いたいことは分かる。 「桃井さんやさんを襲った彼らは、今度の世界大会に出るチームの選手のようですね」 は目を見開く。 「なん..で」 なぜ黒子が知っているのか。 「あの後、向こうのチームの監督と何人かでこの体育館に挨拶に来ました。キャプテンの通っている高校の姉妹校との練習試合を組んでいたらしいです。桃井さんの反応を見て、僕達は今回の犯人は彼らだと分かりました」 が自力で彼らを撒いたのもそれが理由のひとつだった。 変に事を荒立てたくない。 黒子たちは世界と戦うことを楽しみにしているのだ。 この問題で大会が中止になることだってありえるのだ。 黒子はの腕を強く引く。 「わっ」 力こぶの無い黒子とて男の子だ。はあっさり黒子の腕の中に閉じ込められた。 「なんで、あなたは...自分を大切にしてください」 ギュッとを抱きしめた黒子が苦しそうに言葉を吐く。 「黒子..くん?」 少し苦しいが、黒子の様子のほうが気になる。 いつもと、違う気がする。 「さんが、球技以外何でもできるのは知ってます」 「何でもじゃないけど...」 が言うが、黒子はその言葉に反応しなかった。 「僕よりも足が速いし、頭もいい。反射神経だって...」 (何だか、言ってて悲しくなる...) 黒子は自分の言葉にへこんでいた。 「それでも」 を抱きしめる腕に、さらに力が籠もる。 「それでも、僕はさんを守りたいんです」 「く、ろこ..くん?」 黒子の声に思いつめた感じを受ける。 は益々混乱していた。 「僕だって、男です。好きな子を守りたいと思うのは当然です」 「好き..な、子?」 は混乱した頭で何とか黒子の言葉を理解しようと努めた。 黒子は腕の力を緩めての目をまっすぐ見る。 「僕は、さんが好きです」 ドクンと心臓が跳ねる。 は何かを言わなくては、と口を開いた。 ガダンと体育館の入り口から音がする。 振り返ったが、の立っていた場所からそこは見えない。 「あ、あの。今...聞かれ、た」 「ええ、そうかもしれません」 黒子は何でもないことのように言う。 「い、いの?」 気持ちを伴う言葉を口にするのが苦手なは、黒子を覗った。 「ええ、本当のことですし。恥ずかしいことでもありませんから」 キッパリとそういった黒子はを見る。 「僕は、さんが好きです」 改めて言われたその言葉を耳にしたは、駆け出していた。 |
桜風
12.12.24
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